荒雲勇男と英雄の娘たち

木林 裕四郎

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亡国の残光

スパルターク国への届け物 その2

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「フッフフッフフ~ン♪」
 平野の真ん中を適度なスピードで、ビーは巨大な荷車を鼻歌混じりに引いて進む。
 その荷車に積まれた大木の丸太を固定するロープに掴まり、勇男いさおとエーラはさわやかな向かい風に身を任せていた。
 ウルク国を出発してからこれで三日目となるが、エーラの予測では、ビーが引く荷車に乗っていけば、二、三日後にはスパルターク国に着くだろうとのことだった。
 まだ地平線しか見えない景色を見据みすえながら、勇男は昨夜、エーラから聞いた話を思い出していた。

「スパルタクス一世!? それがスパルターク国の王様なのか!?」
「いや、スパルタクス一世はもう死んでる。今は二代目か三代目が国をおさめてるはずだな。なんて名前だったかはあたしも忘れたけど」
 エーラはあごに右手を当てて思い出そうとしたが、やはり思い出せなかったらしい。
 スパルタクスという名前は、勇男もゲームや漫画で元にしたキャラクターが多くいたので、その人物を調べたことがあった。
 第三次奴隷戦争、通称スパルタクスの反乱を指揮した剣闘士グラディエーター
 反乱の指導者という逆賊的な立場でありながら、スパルタクスは同じ境遇の仲間たちに公平で、反乱の目的は『奴隷たちを故郷へ帰すこと』。
 その純粋な目的を目指し、十万人の支持を受けて戦い、さらにはどこかの王族の子孫だったのかもしれないという背景バックグラウンドにも、勇男はきつけられていた。
 そのスパルタクスが異世界こっちでは国を作って本当に王様になっているというのだから、勇男は妙な感慨深さをおぼえていた。
「そっか、スパルタクスの反乱は成功してたんだな」
「ああ。一度は失敗したのにもう一回やってローマ国を叩きつぶしたんだから、恐れ入るよ」
「……一度? 失敗? それどういうことだ? エーラ」
「ん? スパルタクスは一回目に反乱起こした時は、ローマ国のクラッススってヤツに負けたんだ。反乱軍は十万人を超えてたっていうのにな」
 勇男は内心驚愕きょうがくしていた。
 エーラの口から『十万人』という言葉が出た時点で、それが第三次奴隷戦争であることは確実だった。
 だが、地球むこうでの歴史では、スパルタクスはその時、クラッススの軍と戦って死んでいるはずだった。
「そ、それで? その後は?」
「一旦はそれで反乱は鎮圧されて、しばらくはスパルタクスの名前は聞かなかったな。そこからは前に話した通り。ローマ国がハイブリテン国に戦争ケンカ吹っかけたらボロ負けして、それで弱ってたところにスパルタクスがまた出てきたんだったかな。そしたら奴隷階級だけじゃなく、ローマ国に不満のあった周辺の国も蜂起ほうきして、あっさり。ミケナイ国やマケドーニア国も尻馬に乗ったクチだったな」
「……」
 エーラから語られた怒涛どとうの歴史に、勇男はなか呆然ぼうぜんとなった。
 ここまでの旅路で異世界こっちの歴史や時間の流れがだいぶ違っていることは認識していたが、いざ聞かされてみると、元は地球むこうにいたために衝撃も大きい。
 ローマ国――後のローマ帝国――が滅亡していると聞いた時も、最初はかなり驚いたものだった。
「まっ、物事ってどうなるか読めないモンさ。せめてカエサルってヤツだけでも生きてたら、ちょっとは違ってたかもな」
(あっ、カエサルは異世界こっちでも死んでるのか)
 ここまでの話を少しずつ頭の中で整理しながら、勇男はエーラの言葉をボンヤリと聞いていた。
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