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レバノン杉騒動
ウルク国からの出発 その5
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(王様になったとしても、たとえならなかったとしても、ビーはビーのままだったんだよな)
平野の先にある地平線を眺め、勇男はビーの即位式の光景を思い出していた。
かつてビルガメス王が身に着けたとされる王冠と外套で着飾ったビーを、ウルク国の人々は歓喜の声で祝福した。
聖塔でその姿を見せたビーは、輿に乗って大通りを巡り、その間途切れることなくビーを称える声が続いていた。
その後は聖塔に上ったビーが音頭を取り、人々は祝杯の麦酒を呷った。
ウルク国全てが祭りのように賑わい、喜び合い、何より王の帰属を心から嬉しがっていた。
ウルク国が長年背負い続けた慙愧が、今ここに晴れたのだ。
そして人々の笑いで満ちる喧騒の中、勇男とエーラはウルク国を発った。
こうしてウルク国を出てから、二日目の朝を迎えていた。
エーラも勇男がウルク国を静かに出た理由を察していた。
ビーはウルク国に王として迎えられたのだから、これからはウルク国の人々と幸せに暮らしていけることだろう。
あくまで勇男たちはただの旅行者であり、王となったビーがわざわざ関わることもない。
ビーの手を煩わせることなく、そっと去るのが賢明――――――というのは建前で、単に別れを言うのが辛かったからだと、エーラは解っていた。
(大胆な策を思いつく割に、こういうトコは小心者というか青臭いというか。まっ、イサオがイロイロ青臭いのは今に始まったことじゃ―――)
「ん?」
後ろを振り返ったのはただの気まぐれだったが、エーラは遥か後方の平野に妙なものを見つけた。
「どうしたんだ? エーラ」
「アレ、何だ?」
「アレ?」
勇男がエーラの視線の先を見ると、地平に大きな砂埃が巻き起こっている。
砂嵐にしては小さすぎ、旋風にしては形がおかしい。
そして、それは段々と勇男たちに近付いてきていた。
(ホントに何だ? けど何か既視感が……)
勇男がさらに目を凝らして確認しようとした矢先、
「イサオー! エーラー!」
砂埃の中から勇男たちの名前を呼ぶ声が飛んできた。聞き覚えのありすぎる声で。
「ま、まさか……」
勇男は確認するよりも前に確信し、数秒後にそれは確実なものとなった。
見覚えのある巨大な丸太が、専用の荷車に載って迫ってくる。
それを引いているのは、身の丈以上の斧を背中に背負った、黒い癖っ毛を持つ少女だった。
言うまでもなく、それは、
「ビー!?」
「会いたかったー!」
勇男の姿を見つけたビーは、喜びのあまり荷車から手を離して跳び上がった。
二階建ての建物すらゆうに超える高さまで跳んだビーは、
「イサオー!」
両腕を広げながら勇男の元へダイブしてきた。推定90kgの斧を背負ったままで。
「うわっ! わっ! ま、待て! ちょっと待てビー!」
勇男の制止など間に合うはずもなく、ビーはそのまま勇男の胸に飛び込んだ。
平野のど真ん中に地響きと砂柱が起こった。
ちなみに慣性の法則に従って直進してきた荷車は、
「よっ―――と」
エーラが受け止めて停止させた。
平野の先にある地平線を眺め、勇男はビーの即位式の光景を思い出していた。
かつてビルガメス王が身に着けたとされる王冠と外套で着飾ったビーを、ウルク国の人々は歓喜の声で祝福した。
聖塔でその姿を見せたビーは、輿に乗って大通りを巡り、その間途切れることなくビーを称える声が続いていた。
その後は聖塔に上ったビーが音頭を取り、人々は祝杯の麦酒を呷った。
ウルク国全てが祭りのように賑わい、喜び合い、何より王の帰属を心から嬉しがっていた。
ウルク国が長年背負い続けた慙愧が、今ここに晴れたのだ。
そして人々の笑いで満ちる喧騒の中、勇男とエーラはウルク国を発った。
こうしてウルク国を出てから、二日目の朝を迎えていた。
エーラも勇男がウルク国を静かに出た理由を察していた。
ビーはウルク国に王として迎えられたのだから、これからはウルク国の人々と幸せに暮らしていけることだろう。
あくまで勇男たちはただの旅行者であり、王となったビーがわざわざ関わることもない。
ビーの手を煩わせることなく、そっと去るのが賢明――――――というのは建前で、単に別れを言うのが辛かったからだと、エーラは解っていた。
(大胆な策を思いつく割に、こういうトコは小心者というか青臭いというか。まっ、イサオがイロイロ青臭いのは今に始まったことじゃ―――)
「ん?」
後ろを振り返ったのはただの気まぐれだったが、エーラは遥か後方の平野に妙なものを見つけた。
「どうしたんだ? エーラ」
「アレ、何だ?」
「アレ?」
勇男がエーラの視線の先を見ると、地平に大きな砂埃が巻き起こっている。
砂嵐にしては小さすぎ、旋風にしては形がおかしい。
そして、それは段々と勇男たちに近付いてきていた。
(ホントに何だ? けど何か既視感が……)
勇男がさらに目を凝らして確認しようとした矢先、
「イサオー! エーラー!」
砂埃の中から勇男たちの名前を呼ぶ声が飛んできた。聞き覚えのありすぎる声で。
「ま、まさか……」
勇男は確認するよりも前に確信し、数秒後にそれは確実なものとなった。
見覚えのある巨大な丸太が、専用の荷車に載って迫ってくる。
それを引いているのは、身の丈以上の斧を背中に背負った、黒い癖っ毛を持つ少女だった。
言うまでもなく、それは、
「ビー!?」
「会いたかったー!」
勇男の姿を見つけたビーは、喜びのあまり荷車から手を離して跳び上がった。
二階建ての建物すらゆうに超える高さまで跳んだビーは、
「イサオー!」
両腕を広げながら勇男の元へダイブしてきた。推定90kgの斧を背負ったままで。
「うわっ! わっ! ま、待て! ちょっと待てビー!」
勇男の制止など間に合うはずもなく、ビーはそのまま勇男の胸に飛び込んだ。
平野のど真ん中に地響きと砂柱が起こった。
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「よっ―――と」
エーラが受け止めて停止させた。
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