荒雲勇男と英雄の娘たち

木林 裕四郎

文字の大きさ
上 下
74 / 136
レバノン杉騒動

戦いの後 その1

しおりを挟む
「し、死ぬかと思った~……」
 東の山の奥にある、滝口の泉のふちに腰かけ、勇男いさおは体全体で息を吐いた。
 ズワワにたたきつけられて地面に埋まっていたために、ビーとエーラがり出したとどめの一撃を避けられないまま、勇男も巨大な丸太の下敷きになってしまった。
 ようやく見つけてもらえて掘り出されたが、頭には大きなタンコブ、全身の骨は大半が骨折と、常人ならば生きているのが不思議なほどの大負傷だった。
 もっとも、ゼウス神が作ってくれた肉体は、生命力も治癒力も桁違けたちがいなので、半日ほどでようやく動けるまでにはなったわけだが。
怪我そっちもそうだが、今度はまた別の問題が―――)
「ぶわっぷ!」
 高速で飛来した水飛沫みずしぶきが顔面に直撃し、勢いに負けた勇男は背中から倒れこんだ。
「あっ! ごめん、イサオー!」
 泉の真ん中にいたビーが、急いで勇男の元に駆けてきた。
「大丈夫? エーラに飛ばそうとしたらそっちに行っちゃった」
 心配そうに顔をのぞきこんできたビーに、
「だ、大丈夫、大丈夫だ、ビー。ちょ、ちょっと驚いたけどな……」
 小さく手を振って無事をアピールする勇男だったが、鉄球並みの威力だった水飛沫のせいで、鼻からは鼻血が垂れていた。
「もう痛みも引いたなら、お前もこっち来いよ、イサオ。土に埋まってたんだからな」
「ちょっ! エーラ! またお前は!」
 エーラも勇男の元に来たが、何も身に着けていない上に、相変わらず一切隠そうとする素振りがないので、途端に勇男はあわてふためく羽目になってしまった。
「水浴びはもうあたしたち三人だけなんだ。さっさと浴びて戻るぞ」
「べ、別にオレは一人で水浴びできたってのに、何でオレの怪我がなおるまで待ってたんだよ! 先に浴びとけばよかったじゃないか!」
 ズワワとの戦いの後、ウルク国の兵たちは負傷兵の治療と、戦いの汚れを落とすため、滝口の泉を利用させてもらっていた。
 ハトゥアをはじめ、兵たちは皆、ビーに真っ先に泉を使ってほしかったが、ビーが勇男の怪我が治るまで待つと固辞したため、兵たちが先に泉を使い、勇男たち三人が最後となった。
「せっかくだからあたしたちで洗ってやろうと思ってな。お前の策のおかげでズワワあいつに勝てたんだし」
「ビーもイサオのこと洗ってあげる! スミズミまでキレイキレイにしてあげる!」
「い、いいって! 自分で洗えるって! ちょっ! ちょっと!」
 勇男は断ろうとするも、まだ節々ふしぶしが痛むのと、裸身の少女二人の力が強すぎるのとで、ずるずると泉の真ん中まで連れて行かれてしまった。
「よ~しビー、思いっきりやるぞ」
「うん、分かったエーラ。思いっきりだね」
「ま、待て二人とも! ホントに自分で! 自分でできるから―――あ―――あ~~~!」
 東の山にちょっと情けない勇男の叫びが響き渡った。

「ふひ~~~」
「イサオ、さっきよりフラフラしてる。まだ怪我なおってない?」
「い、いや、それはもう大丈夫……なんだが……」
 泉でエーラとビーに隅々すみずみまで体を洗われ、確かにさっぱりしたわけだが、精神的には勇男はまだとてつもない衝撃の余韻よいんから抜け出せないでいた。
 別にそういうこと・・・・・・をしたわけではないのだが、勇男としては何か男の子としての大事なものを失くしてしまったような気がして仕方がなかった。
「反応がイイからな、イサオは。あたしもついつい面白くって」
 先を歩いていたエーラが、振り返ってニヤニヤと悪戯いたずらっぽい笑みを向けてくる。
「エ、エ~ラ~!」
(洗うってわりには手の動きが怪しかったが、やっぱりか!)
 わざと変なところばかりを洗われたことに怒り出しそうになる勇男だったが、
「怒るな怒るなって。ほら、うたげの席に着くぞ」
 山のふもとに程近い、少し開けた場所まで三人は降りてきた。
 そこには明かり兼調理用のき火がいくつも焚かれ、ハトゥアを先頭に全ての兵たちが整然と並んで勇男たちを出迎えていた。
 そしてその横には、東の山の守護神たるズワワの姿もあった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

処理中です...