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レバノン杉騒動
戦いの後 その1
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「し、死ぬかと思った~……」
東の山の奥にある、滝口の泉の縁に腰かけ、勇男は体全体で息を吐いた。
ズワワに叩きつけられて地面に埋まっていたために、ビーとエーラが繰り出した止めの一撃を避けられないまま、勇男も巨大な丸太の下敷きになってしまった。
ようやく見つけてもらえて掘り出されたが、頭には大きなタンコブ、全身の骨は大半が骨折と、常人ならば生きているのが不思議なほどの大負傷だった。
もっとも、ゼウス神が作ってくれた肉体は、生命力も治癒力も桁違いなので、半日ほどでようやく動けるまでにはなったわけだが。
(怪我もそうだが、今度はまた別の問題が―――)
「ぶわっぷ!」
高速で飛来した水飛沫が顔面に直撃し、勢いに負けた勇男は背中から倒れこんだ。
「あっ! ごめん、イサオー!」
泉の真ん中にいたビーが、急いで勇男の元に駆けてきた。
「大丈夫? エーラに飛ばそうとしたらそっちに行っちゃった」
心配そうに顔を覗きこんできたビーに、
「だ、大丈夫、大丈夫だ、ビー。ちょ、ちょっと驚いたけどな……」
小さく手を振って無事をアピールする勇男だったが、鉄球並みの威力だった水飛沫のせいで、鼻からは鼻血が垂れていた。
「もう痛みも引いたなら、お前もこっち来いよ、イサオ。土に埋まってたんだからな」
「ちょっ! エーラ! またお前は!」
エーラも勇男の元に来たが、何も身に着けていない上に、相変わらず一切隠そうとする素振りがないので、途端に勇男は慌てふためく羽目になってしまった。
「水浴びはもうあたしたち三人だけなんだ。さっさと浴びて戻るぞ」
「べ、別にオレは一人で水浴びできたってのに、何でオレの怪我が治るまで待ってたんだよ! 先に浴びとけばよかったじゃないか!」
ズワワとの戦いの後、ウルク国の兵たちは負傷兵の治療と、戦いの汚れを落とすため、滝口の泉を利用させてもらっていた。
ハトゥアをはじめ、兵たちは皆、ビーに真っ先に泉を使ってほしかったが、ビーが勇男の怪我が治るまで待つと固辞したため、兵たちが先に泉を使い、勇男たち三人が最後となった。
「せっかくだからあたしたちで洗ってやろうと思ってな。お前の策のおかげでズワワに勝てたんだし」
「ビーもイサオのこと洗ってあげる! スミズミまでキレイキレイにしてあげる!」
「い、いいって! 自分で洗えるって! ちょっ! ちょっと!」
勇男は断ろうとするも、まだ節々が痛むのと、裸身の少女二人の力が強すぎるのとで、ずるずると泉の真ん中まで連れて行かれてしまった。
「よ~しビー、思いっきりやるぞ」
「うん、分かったエーラ。思いっきりだね」
「ま、待て二人とも! ホントに自分で! 自分でできるから―――あ―――あ~~~!」
東の山にちょっと情けない勇男の叫びが響き渡った。
「ふひ~~~」
「イサオ、さっきよりフラフラしてる。まだ怪我なおってない?」
「い、いや、それはもう大丈夫……なんだが……」
泉でエーラとビーに隅々まで体を洗われ、確かにさっぱりしたわけだが、精神的には勇男はまだとてつもない衝撃の余韻から抜け出せないでいた。
別にそういうことをしたわけではないのだが、勇男としては何か男の子としての大事なものを失くしてしまったような気がして仕方がなかった。
「反応がイイからな、イサオは。あたしもついつい面白くって」
先を歩いていたエーラが、振り返ってニヤニヤと悪戯っぽい笑みを向けてくる。
「エ、エ~ラ~!」
(洗うってわりには手の動きが怪しかったが、やっぱりか!)
態と変なところばかりを洗われたことに怒り出しそうになる勇男だったが、
「怒るな怒るなって。ほら、宴の席に着くぞ」
山の麓に程近い、少し開けた場所まで三人は降りてきた。
そこには明かり兼調理用の焚き火がいくつも焚かれ、ハトゥアを先頭に全ての兵たちが整然と並んで勇男たちを出迎えていた。
そしてその横には、東の山の守護神たるズワワの姿もあった。
東の山の奥にある、滝口の泉の縁に腰かけ、勇男は体全体で息を吐いた。
ズワワに叩きつけられて地面に埋まっていたために、ビーとエーラが繰り出した止めの一撃を避けられないまま、勇男も巨大な丸太の下敷きになってしまった。
ようやく見つけてもらえて掘り出されたが、頭には大きなタンコブ、全身の骨は大半が骨折と、常人ならば生きているのが不思議なほどの大負傷だった。
もっとも、ゼウス神が作ってくれた肉体は、生命力も治癒力も桁違いなので、半日ほどでようやく動けるまでにはなったわけだが。
(怪我もそうだが、今度はまた別の問題が―――)
「ぶわっぷ!」
高速で飛来した水飛沫が顔面に直撃し、勢いに負けた勇男は背中から倒れこんだ。
「あっ! ごめん、イサオー!」
泉の真ん中にいたビーが、急いで勇男の元に駆けてきた。
「大丈夫? エーラに飛ばそうとしたらそっちに行っちゃった」
心配そうに顔を覗きこんできたビーに、
「だ、大丈夫、大丈夫だ、ビー。ちょ、ちょっと驚いたけどな……」
小さく手を振って無事をアピールする勇男だったが、鉄球並みの威力だった水飛沫のせいで、鼻からは鼻血が垂れていた。
「もう痛みも引いたなら、お前もこっち来いよ、イサオ。土に埋まってたんだからな」
「ちょっ! エーラ! またお前は!」
エーラも勇男の元に来たが、何も身に着けていない上に、相変わらず一切隠そうとする素振りがないので、途端に勇男は慌てふためく羽目になってしまった。
「水浴びはもうあたしたち三人だけなんだ。さっさと浴びて戻るぞ」
「べ、別にオレは一人で水浴びできたってのに、何でオレの怪我が治るまで待ってたんだよ! 先に浴びとけばよかったじゃないか!」
ズワワとの戦いの後、ウルク国の兵たちは負傷兵の治療と、戦いの汚れを落とすため、滝口の泉を利用させてもらっていた。
ハトゥアをはじめ、兵たちは皆、ビーに真っ先に泉を使ってほしかったが、ビーが勇男の怪我が治るまで待つと固辞したため、兵たちが先に泉を使い、勇男たち三人が最後となった。
「せっかくだからあたしたちで洗ってやろうと思ってな。お前の策のおかげでズワワに勝てたんだし」
「ビーもイサオのこと洗ってあげる! スミズミまでキレイキレイにしてあげる!」
「い、いいって! 自分で洗えるって! ちょっ! ちょっと!」
勇男は断ろうとするも、まだ節々が痛むのと、裸身の少女二人の力が強すぎるのとで、ずるずると泉の真ん中まで連れて行かれてしまった。
「よ~しビー、思いっきりやるぞ」
「うん、分かったエーラ。思いっきりだね」
「ま、待て二人とも! ホントに自分で! 自分でできるから―――あ―――あ~~~!」
東の山にちょっと情けない勇男の叫びが響き渡った。
「ふひ~~~」
「イサオ、さっきよりフラフラしてる。まだ怪我なおってない?」
「い、いや、それはもう大丈夫……なんだが……」
泉でエーラとビーに隅々まで体を洗われ、確かにさっぱりしたわけだが、精神的には勇男はまだとてつもない衝撃の余韻から抜け出せないでいた。
別にそういうことをしたわけではないのだが、勇男としては何か男の子としての大事なものを失くしてしまったような気がして仕方がなかった。
「反応がイイからな、イサオは。あたしもついつい面白くって」
先を歩いていたエーラが、振り返ってニヤニヤと悪戯っぽい笑みを向けてくる。
「エ、エ~ラ~!」
(洗うってわりには手の動きが怪しかったが、やっぱりか!)
態と変なところばかりを洗われたことに怒り出しそうになる勇男だったが、
「怒るな怒るなって。ほら、宴の席に着くぞ」
山の麓に程近い、少し開けた場所まで三人は降りてきた。
そこには明かり兼調理用の焚き火がいくつも焚かれ、ハトゥアを先頭に全ての兵たちが整然と並んで勇男たちを出迎えていた。
そしてその横には、東の山の守護神たるズワワの姿もあった。
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