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レバノン杉騒動
小さき王の思い その4
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「ビーが一番悲しいと思うのは―――ウルク国の誰かが、死んじゃった時だっ!」
ビーが放った心からの叫びは、東の山の端々までを震わせた。
突風の勢いと雷鳴の轟音を合わせたような声であったにもかかわらず、その場にいた誰しもの心に、ビーの言葉は清涼さを伴って届いた。
そして、その中でビーの真意を先に知り得ていた勇男は、ビーの後ろ姿を力強く見つめていた。
「ビーが一番悲しかったことは―――ウルク国の誰かが、死んじゃった時だったよ」
「? どういう意味だよ? それ」
ビーの答えに勇男は眉根を寄せた。ここまでの会話の流れとして、ビーの問いかけとその答えは、まるで整合性が取れていない、かみ合ってないように思えたからだ。
「イサオは、ビーがウルク国を追い出されちゃったから、もうウルク国に何もしなくていいって、そう言いたいんだよね?」
「ああ、そうだ。お前を追い出した国のために、お前がそこまでする理由なんかないだろ」
「……ビーね、壁の外に追い出されちゃった時、悲しくって朝まで泣いてた」
「だったら―――」
「でも、朝になってお腹が空いたら、朝ごはん何にしようかなって思ってた」
「は?」
「ビーは、ウルク国から追い出されちゃったことは、朝まで泣いたら『もういいや』って思っちゃった。ごはん食べたり、夜になったらゆっくり眠ったり、ときどき小グガルアンナ獲ったり……ビーはそれだけでもよかったんだ」
「……」
「でも、母様が死んじゃった時、ウルク国で知ってる人が死んじゃった時……ビーはそっちの方がずっとずっと悲しかった……壁の外に追い出された時より……ずっとずっと……」
「ビー……」
「そう思ったら、ウルク国のみんなが、ビーのこと追い出したのは、しかたないんだな~って。小グガルアンナのせいで、誰かが死んじゃうよりは、ビーが出てった方がよかったのかもって」
「お前……」
「ビーは、ウルク国の誰かが死んじゃう方が、ずっとずっと悲しいし、ウルク国の誰にも、悲しい思いはしてほしくないんだ」
「……」
勇男は腹の底から強い感情が湧き上がり、右の拳を強く握り締めていた。
憤怒のようでもあり、憐憫のようでもある、言い表せない気持ちに震えていた。
ビーのウルク国に対する情の深さを認めてやりたい一方で、そこまでしてビーが犠牲になる必要はないという気持ちが反感となってぶつかり合う。
もっと自分のことを考えて、人生を大切に生きろよ、とビーの頭に拳骨を落としてやりたい衝動に駆られるが、
「……ふぅ」
勇男は小さく息を吐いて拳の力を緩めた。
「イサオ、怒った?」
「……怒った―――いや、おそれいったぜ、ビー。お前、優しすぎだろ」
「え? えへへ、そうかな~」
勇男の半ば呆れた言葉に、ビーは照れながら足をバタつかせた。
いつも屈託なく笑い、泣く時は思いきり泣く。そんな風に自分の気持ちに自由に生きてるビーを見ていたら、そこに文句をつけるのも馬鹿らしいのかもしれないと勇男は思えた。
「まったく、しょうがねぇな」
勇男は夜空の星を見上げると、ビーの頭に軽く手を置いた。
「イサオ?」
「ここまで来たんだ。最後まで付き合ってやるよ。ウルク国の美味いモン、いろいろ教えてもらったからな」
「イサオ――――――――――ありがとー!」
「ぐべっ!?」
感激で勇男に抱きつこうとしたビーだったが、腕より先にヘッドバットが勇男の脇腹に命中し、勇男は夜空に舞い上がることとなった。
ビーが放った心からの叫びは、東の山の端々までを震わせた。
突風の勢いと雷鳴の轟音を合わせたような声であったにもかかわらず、その場にいた誰しもの心に、ビーの言葉は清涼さを伴って届いた。
そして、その中でビーの真意を先に知り得ていた勇男は、ビーの後ろ姿を力強く見つめていた。
「ビーが一番悲しかったことは―――ウルク国の誰かが、死んじゃった時だったよ」
「? どういう意味だよ? それ」
ビーの答えに勇男は眉根を寄せた。ここまでの会話の流れとして、ビーの問いかけとその答えは、まるで整合性が取れていない、かみ合ってないように思えたからだ。
「イサオは、ビーがウルク国を追い出されちゃったから、もうウルク国に何もしなくていいって、そう言いたいんだよね?」
「ああ、そうだ。お前を追い出した国のために、お前がそこまでする理由なんかないだろ」
「……ビーね、壁の外に追い出されちゃった時、悲しくって朝まで泣いてた」
「だったら―――」
「でも、朝になってお腹が空いたら、朝ごはん何にしようかなって思ってた」
「は?」
「ビーは、ウルク国から追い出されちゃったことは、朝まで泣いたら『もういいや』って思っちゃった。ごはん食べたり、夜になったらゆっくり眠ったり、ときどき小グガルアンナ獲ったり……ビーはそれだけでもよかったんだ」
「……」
「でも、母様が死んじゃった時、ウルク国で知ってる人が死んじゃった時……ビーはそっちの方がずっとずっと悲しかった……壁の外に追い出された時より……ずっとずっと……」
「ビー……」
「そう思ったら、ウルク国のみんなが、ビーのこと追い出したのは、しかたないんだな~って。小グガルアンナのせいで、誰かが死んじゃうよりは、ビーが出てった方がよかったのかもって」
「お前……」
「ビーは、ウルク国の誰かが死んじゃう方が、ずっとずっと悲しいし、ウルク国の誰にも、悲しい思いはしてほしくないんだ」
「……」
勇男は腹の底から強い感情が湧き上がり、右の拳を強く握り締めていた。
憤怒のようでもあり、憐憫のようでもある、言い表せない気持ちに震えていた。
ビーのウルク国に対する情の深さを認めてやりたい一方で、そこまでしてビーが犠牲になる必要はないという気持ちが反感となってぶつかり合う。
もっと自分のことを考えて、人生を大切に生きろよ、とビーの頭に拳骨を落としてやりたい衝動に駆られるが、
「……ふぅ」
勇男は小さく息を吐いて拳の力を緩めた。
「イサオ、怒った?」
「……怒った―――いや、おそれいったぜ、ビー。お前、優しすぎだろ」
「え? えへへ、そうかな~」
勇男の半ば呆れた言葉に、ビーは照れながら足をバタつかせた。
いつも屈託なく笑い、泣く時は思いきり泣く。そんな風に自分の気持ちに自由に生きてるビーを見ていたら、そこに文句をつけるのも馬鹿らしいのかもしれないと勇男は思えた。
「まったく、しょうがねぇな」
勇男は夜空の星を見上げると、ビーの頭に軽く手を置いた。
「イサオ?」
「ここまで来たんだ。最後まで付き合ってやるよ。ウルク国の美味いモン、いろいろ教えてもらったからな」
「イサオ――――――――――ありがとー!」
「ぐべっ!?」
感激で勇男に抱きつこうとしたビーだったが、腕より先にヘッドバットが勇男の脇腹に命中し、勇男は夜空に舞い上がることとなった。
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