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レバノン杉騒動
小さき王の思い その3
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「父様って……いや待てよ、ビー。たしか前に父親のことは知らないって言ってなかったか?」
「うん、会ったことないから」
「母親も何も言わなかったって―――」
「……」
「ビー?」
「イサオ、ごめん。ビー、嘘ついてた」
「嘘?」
「父様のこと、母様から聞いてた……ほんのちょっとだけ」
ビーは地面に座って脚を伸ばすと、夜空に輝く星を見上げた。
勇男もビーが何かを話し始めるのだと察し、そっと隣に腰かけた。
「母様が病気で死んじゃう少し前に、父様のこと話してくれたんだ」
「……じゃあビーは知ってたのか? 父親がウルク国の―――」
「王様だったってことも、その時に聞いた」
「……」
「父様は悪いやつからウルク国を守ったり、みんなが大丈夫なようにってあの壁を作ったり、いろんなところを旅したり、本当にすごい人だったって言ってた」
(ギルガメッシュ……いや、ビルガメス王の生涯、か)
「でも父様は半分人間だったから、やっぱりみんなと同じように死んじゃった。みんながこれからも大丈夫なようにって、ずっとずっとがんばってたって、母様が言ってた」
(ビルガメス王は半分神で半分人間だった。だから他の人間と同じく寿命があった。だから不死になる方法を求めてたんだな。結局、若返りの霊草は諦めることになったが)
「父様は死んじゃうことはしかたないって思ってたけど、死んじゃったあと、みんなが大丈夫かなって、それだけ心配してたんだって」
「ちょっと待て、ビー。まさかお前……」
そこまで聞いて、勇男はある結論を直感した。
ビーも勇男の様子から察したのか、こくりと小さく頷いた。
「ビー、母様に約束した。ビーがウルク国のみんなを守るから大丈夫だって」
「…………」
ビーがウルク国のために行動する理由を聞き、勇男は納得した気持ちと納得できない気持ち、相反する二つの感情が綯い交ぜになっていた。
そして、勇男自身も驚くほど真剣に考えた末に、ビーにそれを言うと決心した。
「……なぁ、ビー。お前がその約束をしてから何年経ったか、ちゃんと解ってるか?」
「……」
「はっきり言っておくけど、二千年超えてるんだぞ? いくらなんでも、律儀にも程があるだろ」
「……」
「さっきも言ったが、ウルク国はお前が小グガルアンナを引き寄せるからって追い出したんだろ? 母親との約束があったって、お前がここまでする必要あんのかよ」
「……」
「お前がこれだけ身を削ってきたなら、もういいんじゃないか? 本当に命が危なくなるようなことにまで、首つっこまなくたっていいだろ。ウルク国のことは、もうウルク国の人間に任せておけば―――」
「イサオ」
勇男の名前を呼んだビーの声は、静かで小さかったが、なぜか異様な重みが感じられた。
「イサオ、ビーが一番悲しかったこと、なにか分かる?」
「一番悲しかったこと?」
「ビーが一番悲しかったことは―――」
「ビー、どうしてなんだ?」
両足が地面に埋まり、大木の幹に叩きつけられた傷も癒えぬまま、ズワワの斧を押し返したビーの背に、ハトゥアは思わずそう問いかけた。
「どうしてお前は、ウルク国のためにそこまでしてくれるのだ」
「はあ……はあ……ハトゥア」
まだ息も絶え絶えながらも、ビーはハトゥアに答えを返す。
「……ビーが一番悲しいって思うのは―――」
「うん、会ったことないから」
「母親も何も言わなかったって―――」
「……」
「ビー?」
「イサオ、ごめん。ビー、嘘ついてた」
「嘘?」
「父様のこと、母様から聞いてた……ほんのちょっとだけ」
ビーは地面に座って脚を伸ばすと、夜空に輝く星を見上げた。
勇男もビーが何かを話し始めるのだと察し、そっと隣に腰かけた。
「母様が病気で死んじゃう少し前に、父様のこと話してくれたんだ」
「……じゃあビーは知ってたのか? 父親がウルク国の―――」
「王様だったってことも、その時に聞いた」
「……」
「父様は悪いやつからウルク国を守ったり、みんなが大丈夫なようにってあの壁を作ったり、いろんなところを旅したり、本当にすごい人だったって言ってた」
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「でも父様は半分人間だったから、やっぱりみんなと同じように死んじゃった。みんながこれからも大丈夫なようにって、ずっとずっとがんばってたって、母様が言ってた」
(ビルガメス王は半分神で半分人間だった。だから他の人間と同じく寿命があった。だから不死になる方法を求めてたんだな。結局、若返りの霊草は諦めることになったが)
「父様は死んじゃうことはしかたないって思ってたけど、死んじゃったあと、みんなが大丈夫かなって、それだけ心配してたんだって」
「ちょっと待て、ビー。まさかお前……」
そこまで聞いて、勇男はある結論を直感した。
ビーも勇男の様子から察したのか、こくりと小さく頷いた。
「ビー、母様に約束した。ビーがウルク国のみんなを守るから大丈夫だって」
「…………」
ビーがウルク国のために行動する理由を聞き、勇男は納得した気持ちと納得できない気持ち、相反する二つの感情が綯い交ぜになっていた。
そして、勇男自身も驚くほど真剣に考えた末に、ビーにそれを言うと決心した。
「……なぁ、ビー。お前がその約束をしてから何年経ったか、ちゃんと解ってるか?」
「……」
「はっきり言っておくけど、二千年超えてるんだぞ? いくらなんでも、律儀にも程があるだろ」
「……」
「さっきも言ったが、ウルク国はお前が小グガルアンナを引き寄せるからって追い出したんだろ? 母親との約束があったって、お前がここまでする必要あんのかよ」
「……」
「お前がこれだけ身を削ってきたなら、もういいんじゃないか? 本当に命が危なくなるようなことにまで、首つっこまなくたっていいだろ。ウルク国のことは、もうウルク国の人間に任せておけば―――」
「イサオ」
勇男の名前を呼んだビーの声は、静かで小さかったが、なぜか異様な重みが感じられた。
「イサオ、ビーが一番悲しかったこと、なにか分かる?」
「一番悲しかったこと?」
「ビーが一番悲しかったことは―――」
「ビー、どうしてなんだ?」
両足が地面に埋まり、大木の幹に叩きつけられた傷も癒えぬまま、ズワワの斧を押し返したビーの背に、ハトゥアは思わずそう問いかけた。
「どうしてお前は、ウルク国のためにそこまでしてくれるのだ」
「はあ……はあ……ハトゥア」
まだ息も絶え絶えながらも、ビーはハトゥアに答えを返す。
「……ビーが一番悲しいって思うのは―――」
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