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レバノン杉騒動
武官
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「あっ! シャマーナ様ー!」
聖塔までもう少しという距離で、ビーは神官長であるシャマーナの姿を見つけて駆けていった。
「あら、こんにちは、ビー。小グガルアンナを届けてくれたのですか?」
「うん。シャマーナ様も聖塔の下にいるって珍しいね」
「ええ、こちらと少し相談がありまして」
勇男とエーラが追いついた時、シャマーナの前にはもう一人立っていた。
「イサオ様とエーラ様も来てくれたのですね」
「こんにちは、シャマーナ様。っと、そちらの方は?」
「紹介しますね。こちら、ウルク国で武官を務めておられる―――」
「ハトゥアだ。最近ビーが連れてきた外国の客人とはお前たちのことか?」
シャマーナの前に出たハトゥアは、ビーの後ろにいる勇男とエーラを見てそう聞いた。
「えっ? そ、そうですけど……」
「だったら何だ?」
ビーやシャマーナと同じ青い瞳に睨まれ、勇男は一歩たじろいだ。
ハトゥアは黒い髪を首元で切り揃えた美女だったが、勇男やエーラよりも頭一つ分は高い長身だった。兵士の胴鎧に手甲と脚甲を身に付け、滑らかなデザインの兜を脇に抱えた姿から、いかにも軍人であると一目で判る。
口調や佇まいもかなり厳しい雰囲気があり、エーラはともかく、勇男はあまりそういった人物に慣れていないので緊張を強いられた。
ただ、なぜかハトゥアを見ていると、勇男は妙な既視感を覚えていた。
「……そうか」
勇男かエーラのどちらの返答に納得したのか、ハトゥアは間を置いて一言だけ呟いた。
「ハトゥア! 久しぶり!」
「ああ、ビー、久しぶりだ」
勇男たちとの挨拶が一段落すると、ビーがピョンピョン飛び跳ねながらハトゥアに声をかけた。心なしか、ビーに挨拶を返したハトゥアの表情は、軍人の雰囲気とは違って柔らかいものになっていると勇男は思った。
「ハトゥア、最近会えなかったけど、お仕事忙しかった?」
「武官になれば戦がなくとも色々な方面との折衝もあるからな。もう昔のようにビーと遊べないのは残念だ」
「ビーも残念」
「ははは。だがビーの務めている『大役』に比べれば、私もこの程度で愚痴を言ってはいられんな。また兵たちの鍛錬に付き合ってやってくれ。その時には飲み屋街で奢らせてもらおう」
「ホント!? 楽しみにしてる!」
「ああ、私も楽しみにしておく。それとイサオ殿、エーラ殿」
「は、はい」
「ん?」
ビーから勇男とエーラに向き直ったハトゥアは、なぜか軽く頭を下げた。
「へ? な、何すか?」
「お二人のことはシャマーナやモルザバから聞いた。ビーと友人になってくれたこと、この通り感謝する」
ハトゥアの口調と態度は、嘘偽りなく、勇男たちに感謝を伝えるものだった。
「い、いや、そんなにしてもらわなくても……」
「あたしたちだってビーに世話になってるしな」
あまりに真っ直ぐに感謝を伝えられ、勇男もエーラもちょっと照れくさくなってしまった。
「いいや、私にはあなた方に礼を言わねばならない理由があるのだ」
「理由?」
勇男はなぜか切実な様子のハトゥアが気になったが、その時、
「ハトゥア様! 東西南北の各部隊長の招集完了しました!」
やって来た伝令の兵士が、よく響く声で状況を報告してきた。
「分かった! すぐに行く! すまない、イサオ殿、エーラ殿。また機会を見つけてゆっくり話そう」
それだけ言って、ハトゥアは足早に伝令の兵士を伴ってその場を後にした。
「ビーとハトゥアさんって昔から知り合いなのか?」
「そだよー。よくレスリングごっこして遊んだんだー」
「へ、へ~、そうなのか」
(ビーとレスリングしてたって……それで強くなっちゃったとか?)
恵まれた体格に、引き締まった四肢、そして纏っている雰囲気を見るに、ハトゥアがビーと『遊んで』強くなったのは否めないと勇男は思っていた。
ただ、それとは別に気になることもあった。
ハトゥアが言っていた『理由』とは何だったのか。
「では日が高いうちに『供物の儀』を済ませてしまいましょう」
「あっ! そうだった! イサオ! エーラ! 早く終わらせて美味しいもの食べに行こ!」
「お、おお、そうだな」
「あたしもそろそろ腹が減ってきそうなもんだしな」
シャマーナに促され、勇男たちは聖塔の最上階へ上がるべく、『ウトゥ神の小箱』へと乗り込んだ。
聖塔の壁面を上がっていく中、勇男は大通りを走っていくハトゥアの姿を目にした。
(やっぱり……似てるな)
勇男は横にいるビーをチラリと見る。
ハトゥアと相対した時に感じた既視感の正体が解った。
雰囲気こそ違うが、ハトゥアとビーはどこか似ていたのだ。
聖塔までもう少しという距離で、ビーは神官長であるシャマーナの姿を見つけて駆けていった。
「あら、こんにちは、ビー。小グガルアンナを届けてくれたのですか?」
「うん。シャマーナ様も聖塔の下にいるって珍しいね」
「ええ、こちらと少し相談がありまして」
勇男とエーラが追いついた時、シャマーナの前にはもう一人立っていた。
「イサオ様とエーラ様も来てくれたのですね」
「こんにちは、シャマーナ様。っと、そちらの方は?」
「紹介しますね。こちら、ウルク国で武官を務めておられる―――」
「ハトゥアだ。最近ビーが連れてきた外国の客人とはお前たちのことか?」
シャマーナの前に出たハトゥアは、ビーの後ろにいる勇男とエーラを見てそう聞いた。
「えっ? そ、そうですけど……」
「だったら何だ?」
ビーやシャマーナと同じ青い瞳に睨まれ、勇男は一歩たじろいだ。
ハトゥアは黒い髪を首元で切り揃えた美女だったが、勇男やエーラよりも頭一つ分は高い長身だった。兵士の胴鎧に手甲と脚甲を身に付け、滑らかなデザインの兜を脇に抱えた姿から、いかにも軍人であると一目で判る。
口調や佇まいもかなり厳しい雰囲気があり、エーラはともかく、勇男はあまりそういった人物に慣れていないので緊張を強いられた。
ただ、なぜかハトゥアを見ていると、勇男は妙な既視感を覚えていた。
「……そうか」
勇男かエーラのどちらの返答に納得したのか、ハトゥアは間を置いて一言だけ呟いた。
「ハトゥア! 久しぶり!」
「ああ、ビー、久しぶりだ」
勇男たちとの挨拶が一段落すると、ビーがピョンピョン飛び跳ねながらハトゥアに声をかけた。心なしか、ビーに挨拶を返したハトゥアの表情は、軍人の雰囲気とは違って柔らかいものになっていると勇男は思った。
「ハトゥア、最近会えなかったけど、お仕事忙しかった?」
「武官になれば戦がなくとも色々な方面との折衝もあるからな。もう昔のようにビーと遊べないのは残念だ」
「ビーも残念」
「ははは。だがビーの務めている『大役』に比べれば、私もこの程度で愚痴を言ってはいられんな。また兵たちの鍛錬に付き合ってやってくれ。その時には飲み屋街で奢らせてもらおう」
「ホント!? 楽しみにしてる!」
「ああ、私も楽しみにしておく。それとイサオ殿、エーラ殿」
「は、はい」
「ん?」
ビーから勇男とエーラに向き直ったハトゥアは、なぜか軽く頭を下げた。
「へ? な、何すか?」
「お二人のことはシャマーナやモルザバから聞いた。ビーと友人になってくれたこと、この通り感謝する」
ハトゥアの口調と態度は、嘘偽りなく、勇男たちに感謝を伝えるものだった。
「い、いや、そんなにしてもらわなくても……」
「あたしたちだってビーに世話になってるしな」
あまりに真っ直ぐに感謝を伝えられ、勇男もエーラもちょっと照れくさくなってしまった。
「いいや、私にはあなた方に礼を言わねばならない理由があるのだ」
「理由?」
勇男はなぜか切実な様子のハトゥアが気になったが、その時、
「ハトゥア様! 東西南北の各部隊長の招集完了しました!」
やって来た伝令の兵士が、よく響く声で状況を報告してきた。
「分かった! すぐに行く! すまない、イサオ殿、エーラ殿。また機会を見つけてゆっくり話そう」
それだけ言って、ハトゥアは足早に伝令の兵士を伴ってその場を後にした。
「ビーとハトゥアさんって昔から知り合いなのか?」
「そだよー。よくレスリングごっこして遊んだんだー」
「へ、へ~、そうなのか」
(ビーとレスリングしてたって……それで強くなっちゃったとか?)
恵まれた体格に、引き締まった四肢、そして纏っている雰囲気を見るに、ハトゥアがビーと『遊んで』強くなったのは否めないと勇男は思っていた。
ただ、それとは別に気になることもあった。
ハトゥアが言っていた『理由』とは何だったのか。
「では日が高いうちに『供物の儀』を済ませてしまいましょう」
「あっ! そうだった! イサオ! エーラ! 早く終わらせて美味しいもの食べに行こ!」
「お、おお、そうだな」
「あたしもそろそろ腹が減ってきそうなもんだしな」
シャマーナに促され、勇男たちは聖塔の最上階へ上がるべく、『ウトゥ神の小箱』へと乗り込んだ。
聖塔の壁面を上がっていく中、勇男は大通りを走っていくハトゥアの姿を目にした。
(やっぱり……似てるな)
勇男は横にいるビーをチラリと見る。
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