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レバノン杉騒動
女神との取引き その6
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「……」
ビルガメスの力を最も強く受け継いだことが、ビーがウルク国を追われる原因となってしまった。
イナンナから語られたその事実に、勇男は静かな怒りと、大きな悲しみが湧き上がってくるのを感じた。
結局のところ、ビーには何の落ち度もない。
伝説の王、ビルガメスの血を一番受け継いでいたから。ただ、それだけだった。
初めて訪れた勇男から見ても、ウルク国は豊かな国だ。
そしてビーはそこで生まれ、さらに王族の血も引いている。
なのにウルク国で暮らすことが許されない。
いろいろなことが重なったとはいえ、それが二千年以上も続いてしまっている。
こんな理不尽があるのか。
(ビーが気にしてないようだったけど、ホントのところはどうだったんだ? 寂しかったり悲しかったりしたのか?)
勇男の脳裏に、ビーの明るい笑顔が思い起こされた。その笑顔の裏で、実は泣いていたのではないかと。
「ちょっと。なに沈鬱な感じになってるの?」
急に黙りこくってしまった勇男を怪訝に思ったイナンナが聞いてきた。
「もしかして、あのチンチクリンに悲しい過去があった、みたいに考えてる? 言っておくけど、それ見当違いよ?」
「へ?」
勇男の懸念をよそに、イナンナは呆れたように訂正してきた。勇男も想定していたことと全く違う言葉が来たので、思わず間の抜けた声が出てしまった。
「仕方ないとはいえ、追い出された時はあのチンチクリンも大泣きしてたわ。それこそ城壁の外からウルク国全体に聞こえるくらいビービー泣いて。けど一晩経ったらケロッと泣き止んで、平野の方に駆けてったわよ。『おなかすいた~』とか『朝ごはん探そ~!』とか言いながら」
(……ありそうだ)
まだ一日程度の付き合いしかない勇男だが、ビーの性格からすると、イナンナの言っていることは妙に説得力があった。
外野から見ると確かに悲惨な過去に感じられるが、ビー本人は二千年以上が経っても無邪気に暮らしているわけだから、それほど気にしてないのかもしれない。
「許されていないのはウルク国の中に住むことだけ。出入りは自由にできるし、力仕事や店の給仕してウルク国の民からは重宝されてるわ。ただ城壁の外に住んでるだけで、あいつ自身、別に暮らしに困ってなんかいないわよ」
「そ、そうなんですか……」
言われてみればウルク国の人々はビーを邪険に扱うどころか、むしろかなり厚遇し、慕っていた。おまけにビーも平野のオアシスに居を構え、悪い暮らしぶりではない。
「少なくともあなたが心配するようなことなんか、大麦の粉一粒ほどもないわ。解った?」
「え、ええ。まあ、何とか……」
納得はしたが、勇男としては何だか骨折り損な気がしないでもない。湧き上がった分の怒りと悲しみをどう消化しようか、ちょっとモヤモヤしたままだった。
「あ~あ。あのチンチクリンが倒した小グガルアンナを、気まぐれ起こして神殿に持ち込んだりしなかったら、私もあんな不味いお肉を二千年以上も食べずに済んだのに。ホント、ビルガメスにしても、その娘にしても、私に悪いことしかもたらさないんだから。迷惑な話よ」
イナンナはここに来て、最初に零していた愚痴に立ち戻っていた。
ただ、大体の話を聞き終わった後では、さすがの勇男も、『イナンナが小グガルアンナ食べることになったのは自業自得では……』と思わざるを得なかった。
「ビルガメスの娘なら、せめてもうちょっと大きな功績でも上げてくれればいいのに。そうしたらコジ付けで父神に小グガルアンナが出てこないように上申できそうなモンなのに。アイツ、地道で平穏な一日ばかり二千年も送っちゃって。もう!」
「ちょっ、ちょっと待ってください! ソレ、どういう意味ですか?」
イナンナの発言で気になる部分があった勇男は、慌ててその意味を聞こうとした。
「は? 何?」
「『功績を上げたら』とか、『上申できる』とか」
「どうもこうも、私がウルク国の王の任命権を持ってるからよ」
ビルガメスの力を最も強く受け継いだことが、ビーがウルク国を追われる原因となってしまった。
イナンナから語られたその事実に、勇男は静かな怒りと、大きな悲しみが湧き上がってくるのを感じた。
結局のところ、ビーには何の落ち度もない。
伝説の王、ビルガメスの血を一番受け継いでいたから。ただ、それだけだった。
初めて訪れた勇男から見ても、ウルク国は豊かな国だ。
そしてビーはそこで生まれ、さらに王族の血も引いている。
なのにウルク国で暮らすことが許されない。
いろいろなことが重なったとはいえ、それが二千年以上も続いてしまっている。
こんな理不尽があるのか。
(ビーが気にしてないようだったけど、ホントのところはどうだったんだ? 寂しかったり悲しかったりしたのか?)
勇男の脳裏に、ビーの明るい笑顔が思い起こされた。その笑顔の裏で、実は泣いていたのではないかと。
「ちょっと。なに沈鬱な感じになってるの?」
急に黙りこくってしまった勇男を怪訝に思ったイナンナが聞いてきた。
「もしかして、あのチンチクリンに悲しい過去があった、みたいに考えてる? 言っておくけど、それ見当違いよ?」
「へ?」
勇男の懸念をよそに、イナンナは呆れたように訂正してきた。勇男も想定していたことと全く違う言葉が来たので、思わず間の抜けた声が出てしまった。
「仕方ないとはいえ、追い出された時はあのチンチクリンも大泣きしてたわ。それこそ城壁の外からウルク国全体に聞こえるくらいビービー泣いて。けど一晩経ったらケロッと泣き止んで、平野の方に駆けてったわよ。『おなかすいた~』とか『朝ごはん探そ~!』とか言いながら」
(……ありそうだ)
まだ一日程度の付き合いしかない勇男だが、ビーの性格からすると、イナンナの言っていることは妙に説得力があった。
外野から見ると確かに悲惨な過去に感じられるが、ビー本人は二千年以上が経っても無邪気に暮らしているわけだから、それほど気にしてないのかもしれない。
「許されていないのはウルク国の中に住むことだけ。出入りは自由にできるし、力仕事や店の給仕してウルク国の民からは重宝されてるわ。ただ城壁の外に住んでるだけで、あいつ自身、別に暮らしに困ってなんかいないわよ」
「そ、そうなんですか……」
言われてみればウルク国の人々はビーを邪険に扱うどころか、むしろかなり厚遇し、慕っていた。おまけにビーも平野のオアシスに居を構え、悪い暮らしぶりではない。
「少なくともあなたが心配するようなことなんか、大麦の粉一粒ほどもないわ。解った?」
「え、ええ。まあ、何とか……」
納得はしたが、勇男としては何だか骨折り損な気がしないでもない。湧き上がった分の怒りと悲しみをどう消化しようか、ちょっとモヤモヤしたままだった。
「あ~あ。あのチンチクリンが倒した小グガルアンナを、気まぐれ起こして神殿に持ち込んだりしなかったら、私もあんな不味いお肉を二千年以上も食べずに済んだのに。ホント、ビルガメスにしても、その娘にしても、私に悪いことしかもたらさないんだから。迷惑な話よ」
イナンナはここに来て、最初に零していた愚痴に立ち戻っていた。
ただ、大体の話を聞き終わった後では、さすがの勇男も、『イナンナが小グガルアンナ食べることになったのは自業自得では……』と思わざるを得なかった。
「ビルガメスの娘なら、せめてもうちょっと大きな功績でも上げてくれればいいのに。そうしたらコジ付けで父神に小グガルアンナが出てこないように上申できそうなモンなのに。アイツ、地道で平穏な一日ばかり二千年も送っちゃって。もう!」
「ちょっ、ちょっと待ってください! ソレ、どういう意味ですか?」
イナンナの発言で気になる部分があった勇男は、慌ててその意味を聞こうとした。
「は? 何?」
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