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レバノン杉騒動
女神との取引き その1
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「目覚めなさい、荒雲勇男」
「うぅ……う~ん……」
「……目覚めなさい、荒雲勇男」
「う……ん…………………………すぴ~……」
「ちょっと! 寝るな! 起きろって言ってるでしょ!」
「うぎっ!?」
いきなり怒号に変わった声と、左のほっぺたを強く引っ張られる痛みで、さすがの勇男も起きざるを得なかった。
「やっと起きた。まったく。もうちょっと優雅に登場したかったのに。おかげで玉座から駆け寄ることになっちゃったじゃない」
まだ寝ぼけ眼の視界の中、勇男を起こした誰かはブツクサ言いながら大股で玉座へと戻っていった。
「うん?」
目を擦りながら勇男は周りを見渡してみる。一面、真っ白な景色が広がっていた。
「ん!?」
その光景に見覚えがあった勇男は、バネ仕掛けの人形のように飛び起きた。
ミケナイ国で過ごした際、ゼウス神と夢の中で話した空間と同じだったからだ。
「こっちよ、こっち」
そう言われて振り向いた勇男の視線の先には、玉座に気だるげに座る美女がいた。
艶のある長い黒髪を琥珀をいくつも付けた髪紐で結い上げ、頭頂には円形から放射状に線が伸びた金細工が施された冠のような物を載せている。
それだけでも豪華な装飾だったが、首からは大粒の紅玉で作った首飾りが下げられ、両手首には金の腕輪、両足首には青い鉱石で作った足輪を付け、宝飾品に疎い勇男でも、それぞれが驚くほど高価なものと判った。
だが、それ以上に勇男が目を見張ったのは衣服の方だった。シャマーナが着ていた神官服も相当だったが、その美女が身に付けているのはさらに大胆な代物で、袖は肩まで切り取られ、側面にスリットの入った裾は太腿の辺りまでしかない。しかも太腿もほとんど露になっている上に、胸元はギリギリ隠れているというほどに面積が少ない。
豪華な宝飾と大胆な衣装で着飾った端正な顔立ちの美女。一目でかなり位の高い相手と分かるのだが、なぜかその美女は憮然とした表情で玉座に座り、勇男を見つめている始末だった。
「はあ~~~~」
ひとしきり勇男を品定めした後、美女は心底ガッカリしたと言わんばかりの、大きな溜め息を吐いた。
「急がなきゃいけなかったとはいえ、ゼウスもこんなの選んでくるなんて。案外見る目なかったのかしら」
頭痛を抑えるように額に手をやって呟く美女だったが、勇男はその言葉に引っかかりを覚えた。
「え? ゼウス? ゼウス神のこと?」
「あなた、ゼウスには会ったわよね? 何て言われた?」
「あ~、えっと、適当に旅をすればいいって」
「はあ~、もうちょっと急がせればいいのに。それこそ『なに適当なこと言ってんのよ』って感じよ」
「あの~」
「何よ」
声をかけてきた勇男に、美女はさらに機嫌を損ねて睨みつけてきた。
「その、えっと……あなた誰ですか?」
何か勝手に話を進めているが、とりあえず勇男は目の前にいる美女が誰なのかをハッキリさせておきたかった。ゼウス神のことを知っているので、おそらく神様の一柱ではあると思うのだが。
「見た目も冴えないけど勘も鈍いのね。私は性愛と豊穣を司る女神、イナンナ。ウルクの聖塔に祀られてるわ」
「うぅ……う~ん……」
「……目覚めなさい、荒雲勇男」
「う……ん…………………………すぴ~……」
「ちょっと! 寝るな! 起きろって言ってるでしょ!」
「うぎっ!?」
いきなり怒号に変わった声と、左のほっぺたを強く引っ張られる痛みで、さすがの勇男も起きざるを得なかった。
「やっと起きた。まったく。もうちょっと優雅に登場したかったのに。おかげで玉座から駆け寄ることになっちゃったじゃない」
まだ寝ぼけ眼の視界の中、勇男を起こした誰かはブツクサ言いながら大股で玉座へと戻っていった。
「うん?」
目を擦りながら勇男は周りを見渡してみる。一面、真っ白な景色が広がっていた。
「ん!?」
その光景に見覚えがあった勇男は、バネ仕掛けの人形のように飛び起きた。
ミケナイ国で過ごした際、ゼウス神と夢の中で話した空間と同じだったからだ。
「こっちよ、こっち」
そう言われて振り向いた勇男の視線の先には、玉座に気だるげに座る美女がいた。
艶のある長い黒髪を琥珀をいくつも付けた髪紐で結い上げ、頭頂には円形から放射状に線が伸びた金細工が施された冠のような物を載せている。
それだけでも豪華な装飾だったが、首からは大粒の紅玉で作った首飾りが下げられ、両手首には金の腕輪、両足首には青い鉱石で作った足輪を付け、宝飾品に疎い勇男でも、それぞれが驚くほど高価なものと判った。
だが、それ以上に勇男が目を見張ったのは衣服の方だった。シャマーナが着ていた神官服も相当だったが、その美女が身に付けているのはさらに大胆な代物で、袖は肩まで切り取られ、側面にスリットの入った裾は太腿の辺りまでしかない。しかも太腿もほとんど露になっている上に、胸元はギリギリ隠れているというほどに面積が少ない。
豪華な宝飾と大胆な衣装で着飾った端正な顔立ちの美女。一目でかなり位の高い相手と分かるのだが、なぜかその美女は憮然とした表情で玉座に座り、勇男を見つめている始末だった。
「はあ~~~~」
ひとしきり勇男を品定めした後、美女は心底ガッカリしたと言わんばかりの、大きな溜め息を吐いた。
「急がなきゃいけなかったとはいえ、ゼウスもこんなの選んでくるなんて。案外見る目なかったのかしら」
頭痛を抑えるように額に手をやって呟く美女だったが、勇男はその言葉に引っかかりを覚えた。
「え? ゼウス? ゼウス神のこと?」
「あなた、ゼウスには会ったわよね? 何て言われた?」
「あ~、えっと、適当に旅をすればいいって」
「はあ~、もうちょっと急がせればいいのに。それこそ『なに適当なこと言ってんのよ』って感じよ」
「あの~」
「何よ」
声をかけてきた勇男に、美女はさらに機嫌を損ねて睨みつけてきた。
「その、えっと……あなた誰ですか?」
何か勝手に話を進めているが、とりあえず勇男は目の前にいる美女が誰なのかをハッキリさせておきたかった。ゼウス神のことを知っているので、おそらく神様の一柱ではあると思うのだが。
「見た目も冴えないけど勘も鈍いのね。私は性愛と豊穣を司る女神、イナンナ。ウルクの聖塔に祀られてるわ」
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