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レバノン杉騒動
ビーの家 その4
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「ふぅ、いい湯だったな」
「今日もサッパリ~」
入浴の後、簡素な敷物が敷かれた家の中で、エーラとビーは寝転がりながら風呂の余韻にたっぷりと浸っていた。
そして二人とは対照的に、勇男はどんよりと暗い雰囲気で丸まっていた。
「イサオ、どしたの?」
「うぅ……子どもにあんなトコ見せちゃうなんて……」
「そんなに気に病むことないだろ? どのみち誰しも知ることになるんだし」
「いや、気にしているのはオレの方で―――」
「イサオ、さっきの面白かったよ? あれって何?」
「あれはな―――」
ビーに何やら説明し始めるエーラだが、あまりまともに聞くとますます落ち込んでしまいそうなので、勇男はなるべく聞いてないふりを決め込んだ。
「へぇ~、男の子ってそうなんだ」
「そういうことだ。ビーもいつか嫁に行くなら憶えといた方がいいぞ」
「お嫁さんか~」
エーラの『授業』を聞き終わったビーは、少しの間、家の天井をボンヤリと見つめていた。
「いいな~。ビーも神殿で結婚式したいな~」
将来の結婚式の風景を想像したのか、ビーは湯上りの熱気とはまた違う意味で頬を赤らめていた。
(うぅ……オレもう本格的にお婿に行けなくなった気がする……)
虚空に目を輝かせているビーの横で、勇男は背中を向けたまま目元に涙を輝かせていた。
「たっぷり食ったし、風呂も入ったし、そろそろ寝るか」
「あっ、待って」
エーラが寝仕度を整えようとしたところで、ビーはなぜか待ったをかけた。
「何だ、ビー?」
「えっと……その……ビー真ん中で寝たい」
「真ん中?」
エーラが見ると、今の並びは勇男、エーラ、ビーの順で、エーラが川の字の真ん中になっていた。
「まぁ、いいけどな」
「ホント!? エーラありがと!」
エーラにお礼を言ったビーは、いそいそと勇男とエーラの間に寝転んだ。
「えへへ~、父様と母様に挟まれて寝てるみたい」
「……そういえばビーの両親はどうしたんだ? ここに住んでたのか?」
ビーの口から父母についての言葉が出ると、勇男は少し迷ったが聞いてみることにした。
ビーは案外たくましく生活しているが、それでも子どもであることは変わりない。両親の存在がどうなっているのか、気になるところだった。
「父様は知らないんだ。母様なんにも言わなかったから。母様はもうずっと前に病気で死んじゃった」
「……そっか。ビーは寂しかったりしないか?」
「さみしかったのは壁の外で暮らすことになった一度だけ。悲しかったのは母様が死んじゃった一度だけ。いまは毎日楽しいし、イサオとエーラもいてくれるから大丈夫だよ」
両脇に寝ている勇男とエーラの腕を抱き寄せ、ビーはいつもの満面の笑みを見せた。子どもであるからこその裏表のないその笑顔が、ビーが日々を充足させている証明だと、勇男は思った。
「ビーは本当にスゴいヤツだな。オレなんて気がついたら荒野の真ん中でどうしていいか分からな―――」
「くか~」
「ビー、もう寝てるぞ」
口を開けて気持ち良さそうな寝息を立てているビーの頬を、エーラは人差し指で軽く押していた。完全にビーは眠っている。
「……本当にマイペースなヤツだな」
「まいぺーすって何だ?」
「ビーみたいなヤツってこと。オレも寝ちまお」
エーラに適当に返すと、勇男も天井を向いて目を閉じた。まだモヤモヤは残っているが、ビーを見ていると、下手に悩んでいるのが馬鹿らしく思えてきたからだ。
(今日はいろいろあったな。なんか……イイ感じに……眠れそう……だ……)
一日に体験したことに思いを巡らせながら、勇男の意識は夢の中に落ちていった。
「今日もサッパリ~」
入浴の後、簡素な敷物が敷かれた家の中で、エーラとビーは寝転がりながら風呂の余韻にたっぷりと浸っていた。
そして二人とは対照的に、勇男はどんよりと暗い雰囲気で丸まっていた。
「イサオ、どしたの?」
「うぅ……子どもにあんなトコ見せちゃうなんて……」
「そんなに気に病むことないだろ? どのみち誰しも知ることになるんだし」
「いや、気にしているのはオレの方で―――」
「イサオ、さっきの面白かったよ? あれって何?」
「あれはな―――」
ビーに何やら説明し始めるエーラだが、あまりまともに聞くとますます落ち込んでしまいそうなので、勇男はなるべく聞いてないふりを決め込んだ。
「へぇ~、男の子ってそうなんだ」
「そういうことだ。ビーもいつか嫁に行くなら憶えといた方がいいぞ」
「お嫁さんか~」
エーラの『授業』を聞き終わったビーは、少しの間、家の天井をボンヤリと見つめていた。
「いいな~。ビーも神殿で結婚式したいな~」
将来の結婚式の風景を想像したのか、ビーは湯上りの熱気とはまた違う意味で頬を赤らめていた。
(うぅ……オレもう本格的にお婿に行けなくなった気がする……)
虚空に目を輝かせているビーの横で、勇男は背中を向けたまま目元に涙を輝かせていた。
「たっぷり食ったし、風呂も入ったし、そろそろ寝るか」
「あっ、待って」
エーラが寝仕度を整えようとしたところで、ビーはなぜか待ったをかけた。
「何だ、ビー?」
「えっと……その……ビー真ん中で寝たい」
「真ん中?」
エーラが見ると、今の並びは勇男、エーラ、ビーの順で、エーラが川の字の真ん中になっていた。
「まぁ、いいけどな」
「ホント!? エーラありがと!」
エーラにお礼を言ったビーは、いそいそと勇男とエーラの間に寝転んだ。
「えへへ~、父様と母様に挟まれて寝てるみたい」
「……そういえばビーの両親はどうしたんだ? ここに住んでたのか?」
ビーの口から父母についての言葉が出ると、勇男は少し迷ったが聞いてみることにした。
ビーは案外たくましく生活しているが、それでも子どもであることは変わりない。両親の存在がどうなっているのか、気になるところだった。
「父様は知らないんだ。母様なんにも言わなかったから。母様はもうずっと前に病気で死んじゃった」
「……そっか。ビーは寂しかったりしないか?」
「さみしかったのは壁の外で暮らすことになった一度だけ。悲しかったのは母様が死んじゃった一度だけ。いまは毎日楽しいし、イサオとエーラもいてくれるから大丈夫だよ」
両脇に寝ている勇男とエーラの腕を抱き寄せ、ビーはいつもの満面の笑みを見せた。子どもであるからこその裏表のないその笑顔が、ビーが日々を充足させている証明だと、勇男は思った。
「ビーは本当にスゴいヤツだな。オレなんて気がついたら荒野の真ん中でどうしていいか分からな―――」
「くか~」
「ビー、もう寝てるぞ」
口を開けて気持ち良さそうな寝息を立てているビーの頬を、エーラは人差し指で軽く押していた。完全にビーは眠っている。
「……本当にマイペースなヤツだな」
「まいぺーすって何だ?」
「ビーみたいなヤツってこと。オレも寝ちまお」
エーラに適当に返すと、勇男も天井を向いて目を閉じた。まだモヤモヤは残っているが、ビーを見ていると、下手に悩んでいるのが馬鹿らしく思えてきたからだ。
(今日はいろいろあったな。なんか……イイ感じに……眠れそう……だ……)
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