荒雲勇男と英雄の娘たち

木林 裕四郎

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レバノン杉騒動

ビーの家 その3

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「ちょっとっさいけど、イイ風呂だな」
「でしょでしょ! がんばって作ったんだー」
 すりばち状にくぼんだ浴槽で大きく伸びをしながら、エーラはビーが作った手製の風呂をめた。ビーも褒められて嬉しいのか、湯船でバシャバシャと腕をバタつかせている。
 構造としては単純で、土鍋と同じような物だった。
 粘土を成形して焼き固めたであろう浴槽は、良質な粘土を使っているのか、不純物がなく滑らかだった。このあたりはビーの器用さがあるのかもしれない。
 そして、その下に据えられた煉瓦レンガで作った風呂釜で浴槽内が温められ、土ならではの保温効果も大きかった。
 ウルクの街で暮らしてはいないが、小さいながらも個人で風呂まで所有するビーは、それなりに良い暮らしをしていると言えるだろう。
 と、普段の状態の勇男いさおなら考えられていただろうが、今の勇男は普段の状態というわけにはいかなかった。
 タッグを組んだエーラとビーに衣類一切を引っぺがされた勇男は、そのまま湯船に投げ込まれ、そこへ服を脱いだエーラとビーが入ってきてしまったので出るに出られなくなってしまった。
「……」
 湯に顔を半分沈めながら、チラリと二人の様子をうかがう勇男。
 エーラは浴槽の端に背中を預け、大きく伸びをしている。
 ビーは湯船から顔だけを出して、気持ち良さそうに頬をゆるめている。
 子ども子どもしたビーはともかく、相変わらずエーラは勇男がいても何も隠そうとせず、大胆すぎるくらいに肌を晒している。
 おかげで勇男は湯加減を気にする余裕もなく、湯船にかったままカチコチに固まってしまっていた。いろんな意味で。
「ん? イサオ、どうしたんだ? さっきから黙ったまんまで」
ばむべぼばびなんでもない……」
 湯に顔をほとんど浸けたままそう返す勇男だったが、その反応で何かを察したのか、エーラは悪戯イタズラを思いついた子どものようにニヤリと笑った。
「ほぉ~ん、なんでもない・・・・・・、か。じゃあこっちに来てあたしの背中かいてくれないか? かゆくってさぁ」
 エーラはニヤニヤと笑いながら、湯船に立って背中を勇男の方へ向けた。
「いっ!?」
 銀髪をかき上げ、露になったエーラの背中に目を剥く勇男。その姿を見ているだけでも脈拍が速くなり、ますます反応・・してしまう。
「ほら、早くしろよイサオ」
 エーラは急かすように背中を左右に振る。その動作がさらに勇男を刺激・・した。
(エ、エーラ~! 分かっててやってるだろぉ!)
 わざとらしいくらいに誘いをかけてくるエーラの行動の真意を、勇男も充分に理解していた。
 これで否が応でも勇男を湯船から立ち上がらせ、その様子をからかおうという魂胆だった。
(こ、このままじゃエーラの思うツボだ!)
 状況的にどうしたって勇男の反応・・は治まってくれない。
(お、おまけに……)
 勇男はビーの方を見た。
 ビーはまだ湯の心地よさに酔いしれているが、勇男が立ち上がった時、その変化・・に気付いてしまうだろう。
 ごまかしようがない。
(こ、子ども相手に何て説明すればいいんだ!? いや説明しちまったらアウトだろ!)
 一度ひとたび立ち上がってしまえば、左のエーラと右のビー、どちらからも逃げられなくなってしまう。
 というわけで勇男はエーラが背中を向けているうちに、静かに湯船を去ろうと判断したわけだが、
「あっ、イサオ。ちゃんとあったまってから出ないといけないんだよー」
 なぜか目ざとく見ていたビーの一言であえなく失敗した。
「あっ! イサオ! いま逃げようとしてたな!」
 勇男が湯船から逃亡しようとしたことに気付いたエーラは、すぐさま振り向くと勇男の背に覆い被さった。
「わああぁ! エーラ!?」
「捕まえたぞ!」
「ちょっ! ちょおぉ! 当たってる! 当たってるから!」
 ジタバタともがく勇男だが、エーラにガッチリ羽交い絞めにされているので逃げられない。その最中もエーラに密着されてより反応・・してしまう。
「イサオ~? 逃げようとしたからには……分かってるよな?」
「ま、待って! エーラ! それはあああ!」
「とおりゃあ!」
 勇男を羽交い絞めにしたまま、エーラは湯船から立ち上がった。
「……イサオ、どしたの、それ?」
 エーラに立ち上がらされた勇男を見て、ビーは不思議そうに首をかしげた。
「ビー! 見るな! 見るなあああ!」
「いーや、よっく見とけよ、ビー。今から面白いモノ見せてやるからな」
「ま、まさか……」
 勇男はとてつもなくイヤな予感がした。そしてエーラが背中越しにニヤリと笑うのが容易に分かった。
「エーラ! 待て待て! ちょっ! 掴むなああああ!」
「ビー。イサオがメシの礼に面白いモノ見せてくれるそうだぞ」
「面白いもの? 見る見る!」
「見るなああああ!」
ソレ・・、よく見とけよ」
「ちょっ! あっ! おっ! ひぎっ! あああああ!」
 ウルク国の外れにある平野の夜に、誰に聞くこともない勇男の悲鳴が再び響き渡った。
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