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レバノン杉騒動
ビーの家 その1
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ウルク国の南門から出た勇男とエーラは、ビーの案内で陽が傾いた平野を歩いていた。
急ぎ足でしばらく進んでいくと、ウルク国の壁が見えなくなる頃、代わりに小さな森がポツンと平野に立っているのが見えてきた。
「あそこがビーのお家」
一瞬振り返ったビーが勇男たちにそう言うと、ビーはさらにスピードを上げて森へと進んでいった。
そこがビーの住居で間違いないと思った勇男とエーラも、足を速めて後についていく。
「ぜえっ! はあっ! ぜえっ!」
森の手前に着いた時には、勇男は息も絶え絶えの状態になっていた。ビーはもちろんだが、エーラもまた足がかなり速かったので、ついていこうとしたら勇男の体力ではキツすぎた。
「イサオ、大丈夫か?」
「ごめんイサオ。ビー嬉しくなってつい走っちゃった」
「だ、ダイじょうブっ! だいジョウブだっ! ぜぇ!」
大丈夫ではないと言うのはさすがに情けないので、せめてもの見栄でちょっと強がってみせる。
「こ、ここが?」
「そっ。ビーのお家」
ビーは『ようこそ』と言うように森を背に両手を拡げた。
意外なことに森は思っていたほど大きくはなかった。
歩けば十分もかからない時間で周回できそうなほど、小さな小さな森、オアシスだった。
湧き水が出ている泉のほとりに、かまくらに似た丸い建物らしきものがある。
「ちょっと待っててね。いま明かり点けてくるから」
ビーが歩いていった先、かまくらのすぐ横には、細かな石で円を作った場所があった。薪も一緒においてあったので、焚き火用の釜戸であると分かった。
「ふーっ! ふーっ!」
ビーは火打石で種火を作り、そこに息を吹きかけて薪に移った火を大きくしていく。
割と早く火が灯ったので、
「いいよー! 二人とも来てー!」
ビーは勇男とエーラを手招きした。
「ふっふっふーん♪ 晩ご飯晩ご飯♪」
三人で火を囲いながら食事の準備をしていると、ビーはよほど嬉しいのか鼻歌交じりになっていた。
「ビーはここにずっと住んでるのか?」
「そだよー」
勇男の素朴な疑問に、ビーは上機嫌で答える。
「あれがお家で」
ビーはかまくら状の小ぶりな住居――おそらく粘土で作ってある――を指差し、
「あっちがお風呂」
次にかまくらの横にある窪み――こっちはおそらく煉瓦と粘土――を指差した。
「お水は泉からいくらでも使えるよ。すっごくキレイだから飲んでも平気」
招いた客に自分の家を紹介するのが楽しくてしょうがないらしく、ビーの声は弾んでいた。
「いいトコ住んでるんだな、ビーは。他のウルクの連中はここに来ようとしないのか?」
「他の人たちは壁の中の方が安全だって言ってる。ここに来る人ほとんどいないけど――――――あっ」
エーラの質問に答えていたビーは、何かを思い出したのか声を上げた。
「そうだ。イサオやエーラの前にもここに来た人いた。何だか難しいこと言うおじちゃん」
「難しいこと言うおじちゃん?」
「うん。ウルクに旅行に来たって言ってた。そのおじちゃんにいろいろ教わってお家作ったりお風呂作ったりしたんだ」
ビーはその『難しいこと言うおじちゃん』のことを思い出しているのか、そろそろ星が見え始めた空を仰いだ。
「今どうしてるかな~――――――あっ、ウビ魚の串焼きもういい頃だよ。食べてる間に羊肉の包み焼きも温めちゃおっ。はい、イサオ、エーラ」
「お、おう」
「じゃ、お言葉に甘えて」
ビーから秋刀魚とも川魚ともつかない魚の刺さった串を受け取る勇男とエーラ。火の近くの石に包み焼きを置いたビーも、魚の串焼きを手に取った。
「それじゃ―――いったっだっきまーす!」
ビーの音頭に合わせて、三人はそれぞれ串焼きにかぶりついた。
急ぎ足でしばらく進んでいくと、ウルク国の壁が見えなくなる頃、代わりに小さな森がポツンと平野に立っているのが見えてきた。
「あそこがビーのお家」
一瞬振り返ったビーが勇男たちにそう言うと、ビーはさらにスピードを上げて森へと進んでいった。
そこがビーの住居で間違いないと思った勇男とエーラも、足を速めて後についていく。
「ぜえっ! はあっ! ぜえっ!」
森の手前に着いた時には、勇男は息も絶え絶えの状態になっていた。ビーはもちろんだが、エーラもまた足がかなり速かったので、ついていこうとしたら勇男の体力ではキツすぎた。
「イサオ、大丈夫か?」
「ごめんイサオ。ビー嬉しくなってつい走っちゃった」
「だ、ダイじょうブっ! だいジョウブだっ! ぜぇ!」
大丈夫ではないと言うのはさすがに情けないので、せめてもの見栄でちょっと強がってみせる。
「こ、ここが?」
「そっ。ビーのお家」
ビーは『ようこそ』と言うように森を背に両手を拡げた。
意外なことに森は思っていたほど大きくはなかった。
歩けば十分もかからない時間で周回できそうなほど、小さな小さな森、オアシスだった。
湧き水が出ている泉のほとりに、かまくらに似た丸い建物らしきものがある。
「ちょっと待っててね。いま明かり点けてくるから」
ビーが歩いていった先、かまくらのすぐ横には、細かな石で円を作った場所があった。薪も一緒においてあったので、焚き火用の釜戸であると分かった。
「ふーっ! ふーっ!」
ビーは火打石で種火を作り、そこに息を吹きかけて薪に移った火を大きくしていく。
割と早く火が灯ったので、
「いいよー! 二人とも来てー!」
ビーは勇男とエーラを手招きした。
「ふっふっふーん♪ 晩ご飯晩ご飯♪」
三人で火を囲いながら食事の準備をしていると、ビーはよほど嬉しいのか鼻歌交じりになっていた。
「ビーはここにずっと住んでるのか?」
「そだよー」
勇男の素朴な疑問に、ビーは上機嫌で答える。
「あれがお家で」
ビーはかまくら状の小ぶりな住居――おそらく粘土で作ってある――を指差し、
「あっちがお風呂」
次にかまくらの横にある窪み――こっちはおそらく煉瓦と粘土――を指差した。
「お水は泉からいくらでも使えるよ。すっごくキレイだから飲んでも平気」
招いた客に自分の家を紹介するのが楽しくてしょうがないらしく、ビーの声は弾んでいた。
「いいトコ住んでるんだな、ビーは。他のウルクの連中はここに来ようとしないのか?」
「他の人たちは壁の中の方が安全だって言ってる。ここに来る人ほとんどいないけど――――――あっ」
エーラの質問に答えていたビーは、何かを思い出したのか声を上げた。
「そうだ。イサオやエーラの前にもここに来た人いた。何だか難しいこと言うおじちゃん」
「難しいこと言うおじちゃん?」
「うん。ウルクに旅行に来たって言ってた。そのおじちゃんにいろいろ教わってお家作ったりお風呂作ったりしたんだ」
ビーはその『難しいこと言うおじちゃん』のことを思い出しているのか、そろそろ星が見え始めた空を仰いだ。
「今どうしてるかな~――――――あっ、ウビ魚の串焼きもういい頃だよ。食べてる間に羊肉の包み焼きも温めちゃおっ。はい、イサオ、エーラ」
「お、おう」
「じゃ、お言葉に甘えて」
ビーから秋刀魚とも川魚ともつかない魚の刺さった串を受け取る勇男とエーラ。火の近くの石に包み焼きを置いたビーも、魚の串焼きを手に取った。
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ビーの音頭に合わせて、三人はそれぞれ串焼きにかぶりついた。
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