荒雲勇男と英雄の娘たち

木林 裕四郎

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レバノン杉騒動

聖塔 その1

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「おおぉ~……」
 ウルク国のビル郡にも圧倒されたが、ビーに案内された聖塔エ・ウ・ニルは、勇男いさおとエーラにそれ以上に感嘆させた。
「ミケナイ国の城や神殿よりスゴいんじゃないか、これ?」
(確かに……)
 エーラの呟きに、勇男も心の中で同意する。
 エウリュステス3世の王城も荘厳だったが、聖塔はそれとは全く別の威容があった。
 白亜ではなく煉瓦レンガによる赤褐色の外観。その土台の幅は50メートルを余裕で超えていた。
 そこから少しずつ先細った台形方のシルエットになっているが、高さは街のビル郡のどの建物よりも高く、外壁と同じくらいの高さに勇男は思えた。
「あそこにある神殿にこれ小グガルアンナお供えするんだー」
 はずむ声でビーが聖塔の頂上を指差した。
 真下からでは見えづらいが、よく見ると先鋭化された小さな建物が、頂上に鎮座している。
「ビー、ちょっと待て。まさか……これ上るのか?」
 勇男はちょっとうろたえながら正面を指差した。
 聖塔には地上からはるか頂上まで、真っ直ぐと階段が伸びている。
 頂上にある神殿に行こうというならば、その階段を上ることになる。
 勇男はもう一度、下から上へ続く階段を目でなぞる。少し気が遠くなった。
「違うよ。昔はそうだったけど、いまはあれ・・で行くの」
 ビーがまた指差した方向に勇男は視線を移した。
 聖塔の巨大さと階段の長さにばかり目を奪われていたが、聖塔の壁に沿うようにして二本の溝が切られている。
「え? あれ何だ?」
「んふふ~、ちょっと待っててね」
 ビーは自慢げな笑みを浮かべると、溝が切ってある壁に走っていった。
 壁の前に着いたビーは、担いでいたしょうグガルアンナを降ろすと、
「お願いしまーす!」
 壁に開いていた拳ほどの穴に声をかけた。
 勇男とエーラは最初は何のことか分からなかったが、すぐにその意味を知ることになる。
「おっ!」
「んっ!」
 しばらくすると、聖塔の上部から壁を伝って何かが降りてきた。
 木材とロープで構成されたコンテナのようなものが、壁に切られた二本の溝を規則正しくなぞって地上に向かってくる。
「……まさか、あれって」
 勇男が目を見張っているうちに、コンテナはビーの立つすぐ横に到着した。
「イサオ! エーラ! 乗って乗って!」
 扉を固定していたロープを解き、搭乗口を開いたビーが手を振りながら二人を呼ぶ。
「分かった! いま行く! イサオ、行くぞ」
「へ? あ、ああ……」
 呆気あっけに取られていた勇男も、エーラに続いてコンテナへと小走りした。
 ビーはすでに小グガルアンナと一緒に乗り込んでいたので、勇男とエーラが乗り込むと、ビーは再び搭乗口を閉めた。
 そしてコンテナ内に垂れ下がっていた、引き上げ用のものとは違う一本のロープを二回ほど引いた。
 勇男が遥か上の方で小気味良い鐘の音を聞いたと思った時には、コンテナに結ばれていた引き上げ用のロープが引かれ、上昇を始めていた。
「やっぱりこれエレベーターだったのか!」
「えれべーたー? これ『ウトゥしんの小箱』って名前だよ?」
「ウトゥ神?」
「太陽の神様」
 ビーはそう言って上を指差した。開いた天井の先には、まさに太陽が煌々こうこうと輝いている。
「これは行商人からも聞かなかったな」
 勇男ほどではないが、エーラも『ウトゥ神の小箱』もといエレベーターに感心して辺りを見回していた。
「聖塔にいる人たちとか、よく出入りする人しか使わせてもらえないんだー」
「へ~……あれ? じゃあオレたちが乗って大丈夫なのか?」
「んふふ~」
 勇男の質問に、ビーはなぜか嬉しそうに含み笑いをした。
「イサオとエーラは特別。あっ、ほらほら。これ見せたかったんだー」
 ビーが指差す方向に、勇男とエーラは振り向いた。
 見るといつの間にか、コンテナはビル郡よりも高い位置まで昇り、聖塔の壁面からウルク国の街並みを一望できた。
「おぉ~、すっげ~」
「いい眺めだな」
「でしょでしょ! ビー、ここからの眺め好きなんだ~」
 コンテナの端に並んだ三人は、眼下に拡がる絶景を堪能しながら、聖塔の頂上まで昇っていった。
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