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レバノン杉騒動
ウルク国への旅路 その5
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「へ~、二人ともウルク国行くんだぁ。あ、お塩味のサソリおいちい♪」
塩をふった焼きサソリの肉を摘みながら、ビーは勇男とエーラの話を聞いていた。
「途中までは乗っけてもらったけど、そこからは歩きだったんだ。ビーはウルク国までの道知ってるんだよな?」
勇男はビーがデザートとして振舞ったナツメヤシのドライフルーツを一口食べた。干し柿を食べたことのない勇男だが、ナツメヤシのジュースの味を見るに、こういう感じなのだろうと思いながら味わう。
「うん、知ってる。今日はあれ持ってくから中に入れる」
ビーは事切れている小グラグアンナを指差した。
「なぁ、あれって不味いんだよな?」
「そだよ」
「何でそんな不味いモンお供え物にするんだよ」
「知らな~い」
「は!?」
勇男がビーの受け答えに驚く一方で、ビーは焼きサソリ(薄塩味)を食べながら呑気な顔をしている。
「知らないって……何でだよ」
「ビーもホントに知らないもん。いつの間にかお供え物にするってことになって、ビーが取って持ってくようになったんだ~」
「いつの間にかそうなったって……そんなんでいいのかよ」
「あんまり深くツッコんだってしょうがないぞ、イサオ」
勇男の隣に座っていたエーラが、乾燥ナツメヤシを摘んで口に放り込んだ。
「エーラ?」
「カミ様の考えてることなんて、所詮人間には解んないことさ。ひょっとしたらカミ様にとってはアレが美味いのかもしれないし」
「そ、そうかぁ~?」
勇男はミケナイ国で会ったゼウス神を思い出していた。話した感じでは妙に人間味があったように思ったが。
(焼けた鉄の味する牛が美味いのか? う~ん……)
あまり考えても仕方なさそうなので、勇男は天牛の供え物についてはそこまでにしておいた。
「なあ、ビー。ウルク国までオレたちも連れてってくれないか? 天牛持ってくの手伝うから」
「いいよ。でも運ぶのはビーだけで大丈夫」
ビーはさっと立ち上がると、とてとてと小グガルアンナまで走っていき、
「ほら」
「うおっ!?」
とても力があるように見えない両腕で、あっさり一頭まるまる持ち上げてみせた。
踏んづけられた時にビーの力が子どものそれとは全く違うことは判っていたが、勇男はこれほどとは思っていなかったので目を丸くした。
年端もいかない子どもが牛一頭を持ち上げているのはかなり現実離れした光景である。
「ビーも結構腕っ節あるんだな。それなら逃げなくたって素手で天牛狩れたんじゃないか?」
心底ビックリしている勇男ほどではないが、エーラもビーの腕力に感心を寄せていた。
「やだよ、恐いもん。それに『爆発する水』でドッカーンってなるかもしれないから」
「『爆発する水』?」
「角に入ってるの」
ビーの視線の先に、青く輝く二本の角があった。
「それが青玉石でできた角か?」
「なん!? サファイア!?」
エーラの見立てに、勇男はまた別の意味で驚いた。
「うん。でも『爆発する水』が入ってるから触っちゃダメ」
ビーにそう説明され、エーラは先ほどの戦いを思い出していた。確かに小グガルアンナは、角に衝撃を受けた時に爆発した。
「行商人も言ってたな。外国から来た盗賊や山師がよく知らずにちょっかい出して死んでるって」
「そうそう。ほとんど小グガルアンナにメタメタにされちゃうけど」
「ソイツそんなに危ないヤツだったのか!?」
二人の会話から小グガルアンナの情報を得た勇男は、今さらながら平野に埋まってて良かったと感じていた。下手に巻き込まれていたら粉みじんになっていたかもしれない。
「武器があったらとはいえ、よくそんなモン獲れるな、ビー」
「ビー何年もやってるから。あっ、ねえねえ」
ビーは一度天牛の身体を下ろすと、また勇男たちの元へ駆け戻ってきた。
「二人はウルク国に行ったらどうするの?」
「どうするって、飯食ったり、いろいろ見て回ったり、あと……」
(オレがこの世界に連れてこられた理由が判りそうならいいんだが)
「あ、あのね……」
勇男の返答を聞いたビーは、両手の人差し指を合わせながらモジモジしだした。少し顔を赤くして何か言いたそうにしている。
「何だ?」
「も、もしよかったら……ビーのお家にも来てほしいなって……お客さん久しぶりだから……」
期待するように上目づかいをしてくるビー。それを見ていると、勇男は何かスゴく断り辛くなってしまった。
「エーラはいいか?」
「あたしはお前についてきてるだけだから構わないぞ」
「じゃあビーの家にも寄せてもらうか」
「ほわぁ~――――――やぁっったあぁー!」
勇男たちから良い返事をもらえたビーは、文字通り跳び上がって喜んだ。
(い、いま何mジャンプして――――)
「――――って、おわっぶ!」
二階建ての家屋も跳び越えるほどにジャンプしたビーは、そのまま勇男の元へと落下して見事に衝突した。
「ありがとイサオー! ありがとエーラー!」
ビーは喜びのあまり勇男の胸に額を擦り付けて感謝を述べるが、
「ぐわわわわ! ま、待て! ビー! む、胸板が熱い! あ、肋骨が折れる~!」
ビーの高速の擦りつけと強烈な抱擁に、勇男は二つの意味で悲鳴を上げていた。
「ぐわあああ! け、煙が立ってきた~! あごぶっ!」
「ん? いま肋骨いったか?」
小気味良い音が響いた後、平野の真ん中に一本の白い煙が立ち昇った。
塩をふった焼きサソリの肉を摘みながら、ビーは勇男とエーラの話を聞いていた。
「途中までは乗っけてもらったけど、そこからは歩きだったんだ。ビーはウルク国までの道知ってるんだよな?」
勇男はビーがデザートとして振舞ったナツメヤシのドライフルーツを一口食べた。干し柿を食べたことのない勇男だが、ナツメヤシのジュースの味を見るに、こういう感じなのだろうと思いながら味わう。
「うん、知ってる。今日はあれ持ってくから中に入れる」
ビーは事切れている小グラグアンナを指差した。
「なぁ、あれって不味いんだよな?」
「そだよ」
「何でそんな不味いモンお供え物にするんだよ」
「知らな~い」
「は!?」
勇男がビーの受け答えに驚く一方で、ビーは焼きサソリ(薄塩味)を食べながら呑気な顔をしている。
「知らないって……何でだよ」
「ビーもホントに知らないもん。いつの間にかお供え物にするってことになって、ビーが取って持ってくようになったんだ~」
「いつの間にかそうなったって……そんなんでいいのかよ」
「あんまり深くツッコんだってしょうがないぞ、イサオ」
勇男の隣に座っていたエーラが、乾燥ナツメヤシを摘んで口に放り込んだ。
「エーラ?」
「カミ様の考えてることなんて、所詮人間には解んないことさ。ひょっとしたらカミ様にとってはアレが美味いのかもしれないし」
「そ、そうかぁ~?」
勇男はミケナイ国で会ったゼウス神を思い出していた。話した感じでは妙に人間味があったように思ったが。
(焼けた鉄の味する牛が美味いのか? う~ん……)
あまり考えても仕方なさそうなので、勇男は天牛の供え物についてはそこまでにしておいた。
「なあ、ビー。ウルク国までオレたちも連れてってくれないか? 天牛持ってくの手伝うから」
「いいよ。でも運ぶのはビーだけで大丈夫」
ビーはさっと立ち上がると、とてとてと小グガルアンナまで走っていき、
「ほら」
「うおっ!?」
とても力があるように見えない両腕で、あっさり一頭まるまる持ち上げてみせた。
踏んづけられた時にビーの力が子どものそれとは全く違うことは判っていたが、勇男はこれほどとは思っていなかったので目を丸くした。
年端もいかない子どもが牛一頭を持ち上げているのはかなり現実離れした光景である。
「ビーも結構腕っ節あるんだな。それなら逃げなくたって素手で天牛狩れたんじゃないか?」
心底ビックリしている勇男ほどではないが、エーラもビーの腕力に感心を寄せていた。
「やだよ、恐いもん。それに『爆発する水』でドッカーンってなるかもしれないから」
「『爆発する水』?」
「角に入ってるの」
ビーの視線の先に、青く輝く二本の角があった。
「それが青玉石でできた角か?」
「なん!? サファイア!?」
エーラの見立てに、勇男はまた別の意味で驚いた。
「うん。でも『爆発する水』が入ってるから触っちゃダメ」
ビーにそう説明され、エーラは先ほどの戦いを思い出していた。確かに小グガルアンナは、角に衝撃を受けた時に爆発した。
「行商人も言ってたな。外国から来た盗賊や山師がよく知らずにちょっかい出して死んでるって」
「そうそう。ほとんど小グガルアンナにメタメタにされちゃうけど」
「ソイツそんなに危ないヤツだったのか!?」
二人の会話から小グガルアンナの情報を得た勇男は、今さらながら平野に埋まってて良かったと感じていた。下手に巻き込まれていたら粉みじんになっていたかもしれない。
「武器があったらとはいえ、よくそんなモン獲れるな、ビー」
「ビー何年もやってるから。あっ、ねえねえ」
ビーは一度天牛の身体を下ろすと、また勇男たちの元へ駆け戻ってきた。
「二人はウルク国に行ったらどうするの?」
「どうするって、飯食ったり、いろいろ見て回ったり、あと……」
(オレがこの世界に連れてこられた理由が判りそうならいいんだが)
「あ、あのね……」
勇男の返答を聞いたビーは、両手の人差し指を合わせながらモジモジしだした。少し顔を赤くして何か言いたそうにしている。
「何だ?」
「も、もしよかったら……ビーのお家にも来てほしいなって……お客さん久しぶりだから……」
期待するように上目づかいをしてくるビー。それを見ていると、勇男は何かスゴく断り辛くなってしまった。
「エーラはいいか?」
「あたしはお前についてきてるだけだから構わないぞ」
「じゃあビーの家にも寄せてもらうか」
「ほわぁ~――――――やぁっったあぁー!」
勇男たちから良い返事をもらえたビーは、文字通り跳び上がって喜んだ。
(い、いま何mジャンプして――――)
「――――って、おわっぶ!」
二階建ての家屋も跳び越えるほどにジャンプしたビーは、そのまま勇男の元へと落下して見事に衝突した。
「ありがとイサオー! ありがとエーラー!」
ビーは喜びのあまり勇男の胸に額を擦り付けて感謝を述べるが、
「ぐわわわわ! ま、待て! ビー! む、胸板が熱い! あ、肋骨が折れる~!」
ビーの高速の擦りつけと強烈な抱擁に、勇男は二つの意味で悲鳴を上げていた。
「ぐわあああ! け、煙が立ってきた~! あごぶっ!」
「ん? いま肋骨いったか?」
小気味良い音が響いた後、平野の真ん中に一本の白い煙が立ち昇った。
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