小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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特定

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 結城が出したのは一枚の写真と、狭丘市周辺の地図だった。写真は依頼者が置いていったもの、地図は今朝、狭丘市に着いた時に近くのコンビニで購入したものだ。
「ん? この写真は?」
「僕たちの依頼者が置いていったんですよ。この染井未幸って人の遺体を探してるんです」
 テーブルに置かれた写真の中に写っている五人のうち、一人を結城は指差した。
「ああ。確か遺体のリストの中にいたな。なんかスンゴイ長ったらしい名前の病気で死んだらしいけど」
「病死、だったんですか?」
「リストに簡単なプロフィールもあったんだ。って言っても殺人とかじゃないから、ホントに簡単な情報しか載ってなかったよ。まぁ、病院で死んでるの分かってるから、今さら死因は意味ないけど・・・で、コレでどうすんの?」
 結城が差し出した二つのキーアイテムと思しきものを目にしたが、九木はその意図をはかりかねている。
「クキ、これらを使ってダウジングをお願いしたいのです」
 眉根を寄せてしかめ面をしていた九木に、アテナはキーアイテムを指して言った。
「は? いやいやいや、それは昨日オレだってやってましたよ。けど反応がいちいち微妙で分かんなかったんですって」
「昨日の時点では情報不足で遺体が歩いたという発想もなかったでしょう? しかし今は違います。そのソウシジュツという力が使われ、死者は操られた。その力を使った術者もいることが判明した。ならば、あなたのダウジングも反応が違ってくるのではなくて?」
「あっ、そっか。ただの遺体なら物と変わらないからすぐ見つかると踏んだけど、あの変な反応は遺体が術をかけられてたから―」
「マスクマン。ソメイミユキの遺体が外に出て、どの方向ににおいが途切れたかは憶えていますか?」
「S☆36W6NE(訳:北東あたり、だな)」
「ケンミダイ病院からソメイミユキが移動した痕跡を辿ります。加えて、あなたのダウジングに私とエンジュの力を付加して能力を増幅します。これだけ条件を整えれば印を付けて放ったアリを見つけることさえ容易です」
 アテナはそう言いきり、形の良い胸を張った。まるで気分は『メガネ探偵ドイルくん』か『銀畑一少年』とでも言いたげだ。知略の女神だけあって、その隙のない戦術眼はいつも結城を驚かせた。
「さっそく、やる」
「お、おぅ。分かったよ」
 アテナの弁舌に圧倒されていた九木の前に、シロガネが地図を手際よく広げた。
「それじゃあ媛寿。お願い」
「おっけー」
 結城に元気良く返事をした媛寿は席を降り、九木の元に寄っていって彼の体をよじ登り始めた。その間に九木は紐の付いた五円玉を取り出す。
「う~、なんかベチャベチャする」
 九木に肩車の要領で乗っかった媛寿だったが、手を置いた彼の頭髪の感触が悪かったのか、不機嫌そうに顔を歪めた。
「あっ、ごめん媛寿ちゃん。ワックス付けてた上に昨日は風呂入ってないんだった」
「ひぃやあぁ! ばっちいばっちい!」
 媛寿は小さな握り拳をポカポカと九木の頭に打ちつける。頭への肩叩きだった。
「イタッ! イタタッ! ちょっ! 媛寿ちゃん、やめっ!」
「え、媛寿。パフェ二つ食べていいから、少しだけ我慢して。ねっ」
「う~・・・・・・わかった」
 かなりの葛藤があったようだが、結城の出した条件に媛寿は渋々了承した。実際、ここで下手に機嫌を損ねられたら、事件解決どころか突発的な暴風雨が起こりそうなものだ。
「では始めましょうか」
 媛寿が九木の頭にスタンバイし、次にアテナが紐付き五円玉を持った九木の右手に自分の右手をゆっくりと添えた。
(おほっ! 手ぇ白い! 柔らかい! イイ匂い! こりゃ役得~)
「あまり邪なことを考えていると神の雷槍が落ちてきますよ」
(うっ、聞こえてるのか!? ったく、やっぱ美人だけどおっかない神様だぜ)
「聞こえてませんよ。けれど恐ろしさが知りたいなら後で存分に教えて差し上げます」
「聞こえてるじゃんか!」
「ごめんなさい。どうも下種の考えてることはよく分かってしまうもので」
「さりげにオレのこと下種って言ってますよね。くっそ~、なんだよ~。オレってばこんなに頑張ってるのに~」
「そんな瑣末なことはどうでも良いですから。早く始めなさい」
 九木の嘆きはバッサリ切り捨て、アテナは顎で地図を指し示す。
 心身ともボコボコにされ、涙目になりながらも、九木はとりあえずダウジングに意識を集中させた。
 ダウジングは本来誰もがが持つ直感や潜在意識を、より分かりやすく表面化させるための方法である。思考では至っていない解答も、直感はすでに解答を知っている。地下に埋没した見えない物体さえも探り出せる。九木は少なからず霊能力を身に付けているため、より精度の高いダウジングが可能となっていた。
 これまで知り得た情報を九木に供与し、そこから媛寿とアテナの能力によってダウジングの精度を底上げし、遺体の足取りを確実に追えるようにする。これがアテナの組み上げた策だった。
 紐に吊るされた五円玉は、地図の見美台病院の真上に据えられていた。それは少しずつ時計回りに揺らぎ始め、病院の敷地を覆うように円を描いた。
「おっ! 分かる分かる! 確かにいつもより冴えてる! 北東に・・・・・・うん、続いてる」
 九木の右手は円を描く五円玉に導かれるように、地図上を移動していく。指し示される道程は、人口密集地から外れ、深い山林の奥へと向かっていった。
「ずいぶん長い距離を移動してるな。しかも歩き方が生きてる人間のモンじゃない。けどゾンビみたくフラフラしてるわけでもない。なんだ、この反応?」
 媛寿とアテナの増幅効果よって、九木は非常に細かい情報までも感知していた。だが、やはり遺体については不審な点があるようだ。
 やがて九木の右手は人の手の及んでいない山林の真ん中で停まった。
「ここだ。ここに行き着いてる」
 五円玉が回転する中心点を見つめ、九木は断言した。
「ここって・・・・・・山の中ですよね?」
 ダウジングで示されたのは、狭丘市の郊外にある山林地帯。そのほぼど真ん中だった。
「まさか土に埋めたとか?」
「いや、ちょっと待てよ・・・・・・ここに何かあるぞ」
 九木は空いている左手でスマートフォンを取り出すと、すぐさまインターネットに接続した。指で画面をスクロールし、拡大し、表示されたものを凝視する。
「やっぱりだ。建物がある」
 九木がスマートフォンをテーブルに置き、全員に画面が見えるようにした。映し出されているのは『ベーグルマップ』の航空写真モードだが、緑一色の風景の中に、確かにくすんだ色の建造物らしき物が見て取れた。
「こんなところになんで建物が?」
「分かんないが、遺体がここにあるのは間違いない」
 地図にさえ載っていない建造物。あるいは相当古い時代の代物かもしれないが、場所は特定された。ここまでの行動が実を結び、ようやく光明が差した。これは流れに乗るしかない。
「よしっ! じゃあ早速行って遺体を取り返えそう!」
「ここまでよく辿り着けましたね、ユウキ。さすがは私の鍛えた戦士です」
「ゆうき、えらーい! ごーごー!」
「って見つけたのはオレでしょ! オレの手柄でしょ! くぅ~、なんでいっつも損な役回り。けど行くのは機動隊とSATの準備ができてからにしてくれよ?」
 九木の言葉の端を聞いて、結城の頭に疑問が湧いた。機動隊にしてもスペシャル・アサルト・チームにしても、相当な荒事が予想される場合に出動する部署である。
「なんでそんな物騒な人たちが必要なんです?」
 結城の問いに、またも九木は苦々しげな顔をした。髪をボリボリ掻いたあと、その理由を口にした。
「さっき言った暴力団の事務所から大量の武器と弾薬が盗まれたんだ。たぶん、遺体を盗んだ術者はそれを持ってる」
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