小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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竜の恩讐編

コチニールの襲撃 その3

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「ちっ!」
 酸性の血液をびたブレザーを捨て、千春ちはるは再びコチニールへ肉薄しようとした。
 さすがに丸腰では分が悪く、コチンールに刺さったままの祢々切丸ねねきりまるを取り戻す必要がある。
 また酸性の血液をかぶる可能性はあるが、それでも状況を推し進めるためと割り切り、千春はコチニールに刺さる刀に手を伸ばした。
 だが、コチニールも油断していなかった。
 アテナに牙を食い込ませたまま首を振り、接近してきた千春に衝突させた。
 千春もまた、脹脛ふくらはぎと内臓の損傷ダメージのせいで、本来の動きで回避することができなかった。
 見事、アテナの背中が激突し、重なりながら木の幹に叩きつけられた。
 そこをコチニールは見逃さず、重なった二人を両手でおおい、強くめ上げた。
「ぐあああ!」
「ぐっ……ぐぶっ!」
 木の幹諸共もろともに締め上げられ、アテナは苦悶にあえぎ、千春はさらなる吐血を吹いた。
「死ネ! 死ネ! 我が行く手ヲ阻害すル者ハ全て滅べ! 『赤の一族ジェラグ』復権ノにえとなレ!」
 コチニールは口を限界まで開き、並び立つ鋭い牙を見せ付けてきた。
 アテナと千春の頭を同時にみ砕こうというのだ。
「がアあア!」
 その凶悪な牙が突き立てられる、その時だった。
「リズベル! だめ!」
 媛寿えんじゅの必死の叫びが、その場の全員の耳に届いた。

「ぐ……うぅ……」
 コチニールが飛ばしたとげの直撃はまぬがれたが、媛寿は左腕に傷を負うことになってしまった。
 ただでさえ千秋ちあきとの闘いで疲弊ひへいしているところ、片腕までも使えなくなってしまった。
 リズベルを連れて逃げるにしても、アテナと千春を振り切ってコチニールが追ってくれば、媛寿はもうまともに戦えない。だが、
「ぐ……うぅあああ!」
 それでも媛寿は立ち上がろうとした。
 歯を食いしばり、右腕だけでうようにしながらも、リズベルの元へ向かおうとした。
(ごめん、ピオニーア……結城ゆうきのことは……助けられなかった……でも……でもせめて……リズベルのことは……助け―――!?)
 リズベルの姿を確認した媛寿は、驚愕きょうがくに目を見開いた。
 結城の亡骸なきがらを前にしたリズベルは、手にとがった石を持ち、それを頭上に大きくかかげていた。
 媛寿の脳裏に三年前の記憶が蘇り、
「リズベル! だめ!」
 思わず声を上げて制止しようとした。
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