小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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竜の恩讐編

鬼と姫と女神と・・・ その18

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った!)
 祢々切丸ねねきりまるを振り下ろしながら、千春ちはるは勝利を確信した。
 アテナは両腿りょうももを斬られたために、本来の走力は出せないでいる。
 加えて結城ゆうきが危機におちいり、冷静な判断力も欠いていた。
 正面から、それも祢々切丸の絶好の間合いに見事にまった。
 刀身の最大効果域に、アテナのひたいがちょうど合わさっている。
 次の瞬間には、戦女神いくさめがみ頭蓋ずがいが一刀の元に分かたれる。
 千春は確かに、その決着を見ていたはずだった。
「――――――――――え?」
 アテナに兜割かぶとわりが決まる、まさにその時だった。
 祢々切丸の刀身は、アテナの頭部に届いたところで停止した。
 完全に予想が外れた千春は驚愕きょうがくしたが、すぐに原因が判明した。
 アテナの両掌りょうてのひらが刀身をはさみこみ、白刃取しらはどりによって斬撃を止めていた。
「……」
 アテナは無言のまま千春を見返す。
 その目には闘志が静かに宿っていた。
 アテナは冷静さを欠いてはいなかったのだ。
 千春が確実にとどめを刺しに来るであろうタイミング。そのために確実な絶命を狙う唐竹割からたけわりを使ってくるタイミング。
 アテナはそこに勝負をけた。
 その読みは正しく、千春は勝利を確信し、純粋な振り下ろしを敢行かんこうした。
 千春が持つ人を超越した剣技であっても、唐竹割り以外の攻撃がないと分かっていれば、アテナも白刃取りすることは可能だった。
 それでも千春の技はすさまじく、紙一重で止めてさえ、アテナの額からは一筋の血が流れ出た。
「か、感服したわ。まさか白刃取りを狙ってくるなんて」
 千春は驚嘆きょうたんすると同時に、アテナが見せた文字通りの神業に、もはや歓喜すらおぼえていた。
「けど、これでもう逃げようがない」
 つかを握る手の内をめた千春は、
「終わりだぁ!」
 そのまま力をかけてアテナを押し斬ろうとした。
「ぬぅ!」
 だが、アテナはその力に逆らうことなく、流れるような動きで右へと身体を反転させた。
「あっ!」
 アテナを斬りそこなった祢々切丸は、斬る対象を失って地面に叩きつけられた。
「はあ!」
 アテナが祢々切丸の刀身を左足で踏みつけ、千春は耐え切れずに柄を離してしまった。
「ぬん!」
 すかさずアテナは間合いを詰める。
 千春はアテナが頭部に拳をびせてくると読んで、両腕で素早く頭部をガードした。
 しかし、これもまた誤りだった。
 アテナの狙いは、最初から千春のどうにあった。
「はあ!」
 両脇に引いていた二つの拳を、アテナはほぼ同時に突き出す。
 アテナの拳は第11肋骨ろっこつのやや下、その両側に打ち込まれた。
 両腿りょうももに傷を負ったアテナでは、地面を踏みしめる力が足りず、本来の拳の威力は決して出せないはずだった。が、
「ぐっ―――ぶふぁっ!」
 アテナの拳が当たってすぐ、千春はいちじるしく吐血した。
(内臓が損傷した!? それもかなり深刻な!)
「い、いったい……今のは……」
 さすがの千春も理解が追いつかない中、
(あ、あれは!)
 結城はその技の正体を見抜いていた。
 その原理は二点同時攻撃によって、一点集中破壊を起こさせるというもの。
 アテナですら十回に一回の割合でしか成功せず、実戦での使用は難しいと判断していた技。
二頭獣オルトロスの牙」
 結城が言葉を発する前に、アテナがその絶技の名前を口にした。
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