小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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竜の恩讐編

鬼と姫と女神と・・・ その17

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「うおぉああ!」
 媛寿えんじゅ左袖ひだりそでから掛け矢ハンマーを取り出し、猛然と千春ちはるに突進した。
「たあああ――――――!?」
 だが掛け矢ハンマーを振りかぶろうとした時、千春はめ上げていたリズベルを放り投げた。
 ただ、その方向は媛寿ではなく、明らかに狙いをはずしていた。
 媛寿の目には、笑みを浮かべる千春と、宙を舞うリズベルの二人が映った。
 その瞬間、媛寿は迷うことなくリズベルの方へ転身した。
「リズベル!」
 地面に衝突する前にリズベルを受け止めた媛寿だったが、そのために掛け矢ハンマーを手放してしまっていた。
 千春はそのすきを見逃すことなく、
「しゅっ!」
 媛寿に回しりを食らわせた。リズベル諸共もろともに。
「ぐあっ!」
「うぐっ!」
 千春の蹴りの威力にうめく媛寿とリズベル。
 主に狙われたのは媛寿だったので、リズベルは地面を転がるだけにとどまったが、媛寿は結城ゆうきが腰かけていた大木の幹に、激しく背中を打ちつけることになった。
「が……はぁ……」
「媛寿! ラナンさん!」
「はい、そこまで」
 結城が動くよりも先に、千春は結城の首をつかみ上げた。
「ぐが……ぎ……」
「このままくびり殺してもいいけど、刀でバッサリの方が苦しくないよ? どうする?」
 そう聞きながら、千春は結城の首を絞める手に力を込める。当然、答えられようはずもない。
「う―――うわあああ!」
 突如、立ち上がったリズベルが、叫びながら千春に向かって駆け出した。手には拳大こぶしだいの石が握られている。
 しかし、千春に肉薄する前に、リズベルは足を止めてしまった。
 祢々切丸ねねきりまるの切っ先が、リズベルの左腿ひだりももを刺し貫いていた。
「あ―――うぅ!」
 持っていた石を取り落とし、痛みでその場にうずくまるリズベル。
「その心意気は認めてあげるけど、おとなしくそこで見てなさい。あっ、それと下手へたに動くとけんが切れるから」
 祢々切丸を引き抜きながらそう言うと、千春は再び結城に顔を向けた。
「さてと、どうもさっさとませた方がよさそうだし、あなたは上に放り投げて串刺しにするわ。一発で心臓とおしてあげる」
 結城を空中に投げ放とうとかまえる千春。
 だが、
「っ!?」
 千春と結城の間をうようにして、何か飛来物が通り過ぎた。
 木の幹に刺さったそれは、双方にとって見覚みおぼえのある物だった。
「槍!?」
「アテナ様の!?」
 二人が刺さった槍の逆方向を見ると、
「おおおぉ!」
 鎧を取り去って身軽となったアテナが、今まさに突撃を敢行かんこうする姿があった。
「けっこう深く斬ったはずなのに、あのあしでよくもまぁ」
 防具を全て捨てたとはいえ、両腿りょうももの傷はアテナの動きを明らかににぶらせていた。
 それでもアテナは真っ直ぐに、千春に向かって猛進する。
「いいよ。乗ってあげる」
「うあっ!」
 千春は掴み上げていた結城を地面に降ろすと、みずからもアテナに真っ直ぐ相対あいたいした。
「ここでやっておくのもいいかもしれない――――――神殺しっていうのを!」
 天をく気勢で、祢々切丸を大上段に構える千春。
 アテナもそれを確認したが、突撃の勢いを落とすことはない。
(神サマの脳天を! 兜割かぶとわってやる!)
(さぁ! 来なさい!)
 アテナが祢々切丸の間合いに一歩踏み込むと同時に、千春は渾身こんしん唐竹割からたけわりを見舞った。
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