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竜の恩讐編
鬼と姫と女神と・・・ その15
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千春は再び刀を左脇に引き、腰溜めの構えを取った。
「!?」
それを見たアテナは、千春がもう一度『三段突き』を打ってこようとしていると読んだ。
しかし、同時に疑念もあった。
実戦において、どれだけ強力な技であろうと、同じ相手に複数回見せれば対策もされようもの。
まして、戦いの女神であるアテナに対し、同じ技など通用するはずもない。
それがたとえ強力無比の『三段突き』であろうと。
千春ほどの手練がそのことに気付かないはずがない。
そう思っていたアテナだったが、千春の構えと、放ってくる気が尋常ではないことが分かり、考えを改めた。
アテナは千春の右脹脛を見た。アテナが斬ったその箇所からは、まだ血が流れ続けている。
(決着を急ぐために、同じ技であっても最も得意な技を選んだ、ということでしょうか……ならば!)
アテナも痛む左腕に構うことなく、両手で槍をしかと握り、足で地面を踏みしめた。
(こちらも正面から相対するのみ!)
いつでも槍を突き出せる姿勢を整え、千春を迎え撃つ準備を済ませたアテナ。
互いに長引けば不利な傷を負った者同士。最大の技を放つ隙を、決して逃さぬよう備に窺う。
「……」
「……」
その瞬間が来るまでに、そう時間はかからなかった。
霧雨によって葉の先に集まった水滴が、一粒だけ地面に落ちて弾けた。
「しゅっ!」
それが合図であったかのように、脹脛から血を溢れさせながら、千春はアテナ目がけて突き込んだ。
アテナの眼前に、祢々切丸の刀身が現れる。
が、アテナはそれを冷静に観察し続けた。
やがて切っ先はアテナに触れて消滅した。
殺気によって見せられる幻の刀身では、騙せるのは視覚のみ。
突き出された刀身から放たれる風圧、触れた際の触感までは持ち得ない。
文字通り神業と言えるアテナの戦闘センスは、刹那の時間の中で、幻影と実体の判別を可能としていた。
一本目が消え、さらに二本目も見極め、消失。
残るは本命である三本目。
アテナはこれを自身に迫る一寸手前で見切り、最小の動きで回避した。
姿勢を崩し過ぎず、槍で返し突きを放つに充分な姿勢を維持している。
祢々切丸の刀身が真横を通り過ぎながら、アテナは大きく踏み出し、渾身の力で槍の柄を突き出した。
狙うは千春の左肩。そこを貫き、千春を戦闘不能にするつもりだった。
『三段突き』はほぼ回避不可能な技だが、逆に回避できてしまえば、後に続く攻撃手段が何もない技でもある。
その必殺性から、『平突き』のように横薙ぎへの派生もできないと、アテナは分析していた。
その読みは正しかった。
千春は三本目の突きを放った後には、アテナの返し技にほとんど対応できなかった。
アテナの槍の穂先は、千春の左肩に見事命中し、背中側まで貫いた。
致命傷ではないにしても、このダメージは千春にとって最大の敗因になる――――――――――はずだった。
千春は肩を貫かれながらも、歯を剥き出して微笑ったのだ。
「!?」
アテナにはその笑みが何を意味しているのか解らなかったが、すでに遅かった。
千春は自身に刺さった槍の柄を左手で掴み、その威力が損なわれないうちに、後方へ思い切り跳躍した。
「なっ!?」
その勢いに槍もろともアテナは引っ張られた。
そこでアテナはようやく千春の狙いに気付いた。
千春はこの場で勝負を決めるつもりはなかったのだ。
最大の技で一騎打ちを仕掛けてくると見せて、それが破られると承知の上で、アテナに返し技を打たせるように仕向けていた。
傷を負った脚ではアテナを撒くことも、アテナと戦いながら結城の元へ向かうこともできない。
ならば、アテナの力を利用し、一気に結城の元まで移動しようと考えていたのだ。
自身が傷を負うことさえ厭わず。
「くっ!」
それに気付いたアテナは歯噛みした。
またも、読みの甘さから結城を危険に晒してしまったと。
「ふふふ……狙い通り」
濛々と上がる土煙の中から、左肩に槍が突き立ったままの千春が姿を現した。
「!?」
それを見たアテナは、千春がもう一度『三段突き』を打ってこようとしていると読んだ。
しかし、同時に疑念もあった。
実戦において、どれだけ強力な技であろうと、同じ相手に複数回見せれば対策もされようもの。
まして、戦いの女神であるアテナに対し、同じ技など通用するはずもない。
それがたとえ強力無比の『三段突き』であろうと。
千春ほどの手練がそのことに気付かないはずがない。
そう思っていたアテナだったが、千春の構えと、放ってくる気が尋常ではないことが分かり、考えを改めた。
アテナは千春の右脹脛を見た。アテナが斬ったその箇所からは、まだ血が流れ続けている。
(決着を急ぐために、同じ技であっても最も得意な技を選んだ、ということでしょうか……ならば!)
アテナも痛む左腕に構うことなく、両手で槍をしかと握り、足で地面を踏みしめた。
(こちらも正面から相対するのみ!)
いつでも槍を突き出せる姿勢を整え、千春を迎え撃つ準備を済ませたアテナ。
互いに長引けば不利な傷を負った者同士。最大の技を放つ隙を、決して逃さぬよう備に窺う。
「……」
「……」
その瞬間が来るまでに、そう時間はかからなかった。
霧雨によって葉の先に集まった水滴が、一粒だけ地面に落ちて弾けた。
「しゅっ!」
それが合図であったかのように、脹脛から血を溢れさせながら、千春はアテナ目がけて突き込んだ。
アテナの眼前に、祢々切丸の刀身が現れる。
が、アテナはそれを冷静に観察し続けた。
やがて切っ先はアテナに触れて消滅した。
殺気によって見せられる幻の刀身では、騙せるのは視覚のみ。
突き出された刀身から放たれる風圧、触れた際の触感までは持ち得ない。
文字通り神業と言えるアテナの戦闘センスは、刹那の時間の中で、幻影と実体の判別を可能としていた。
一本目が消え、さらに二本目も見極め、消失。
残るは本命である三本目。
アテナはこれを自身に迫る一寸手前で見切り、最小の動きで回避した。
姿勢を崩し過ぎず、槍で返し突きを放つに充分な姿勢を維持している。
祢々切丸の刀身が真横を通り過ぎながら、アテナは大きく踏み出し、渾身の力で槍の柄を突き出した。
狙うは千春の左肩。そこを貫き、千春を戦闘不能にするつもりだった。
『三段突き』はほぼ回避不可能な技だが、逆に回避できてしまえば、後に続く攻撃手段が何もない技でもある。
その必殺性から、『平突き』のように横薙ぎへの派生もできないと、アテナは分析していた。
その読みは正しかった。
千春は三本目の突きを放った後には、アテナの返し技にほとんど対応できなかった。
アテナの槍の穂先は、千春の左肩に見事命中し、背中側まで貫いた。
致命傷ではないにしても、このダメージは千春にとって最大の敗因になる――――――――――はずだった。
千春は肩を貫かれながらも、歯を剥き出して微笑ったのだ。
「!?」
アテナにはその笑みが何を意味しているのか解らなかったが、すでに遅かった。
千春は自身に刺さった槍の柄を左手で掴み、その威力が損なわれないうちに、後方へ思い切り跳躍した。
「なっ!?」
その勢いに槍もろともアテナは引っ張られた。
そこでアテナはようやく千春の狙いに気付いた。
千春はこの場で勝負を決めるつもりはなかったのだ。
最大の技で一騎打ちを仕掛けてくると見せて、それが破られると承知の上で、アテナに返し技を打たせるように仕向けていた。
傷を負った脚ではアテナを撒くことも、アテナと戦いながら結城の元へ向かうこともできない。
ならば、アテナの力を利用し、一気に結城の元まで移動しようと考えていたのだ。
自身が傷を負うことさえ厭わず。
「くっ!」
それに気付いたアテナは歯噛みした。
またも、読みの甘さから結城を危険に晒してしまったと。
「ふふふ……狙い通り」
濛々と上がる土煙の中から、左肩に槍が突き立ったままの千春が姿を現した。
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