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竜の恩讐編
鬼と姫と女神と・・・ その14
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「知って、た?」
結城にはリズベルの質問の意図が解らなかった。
結城自身、ここ数日の間で知るところとなった真相が多すぎるくらいにある。
ピオニーアの安否、リズベルの素性、自分自身の命運。
どれも結城にとって衝撃的な情報ばかりであり、何より衝撃を受けたのは、結城が重要なことを一切知らされていなかったという事実だった。
ただ、それはあえて伝えられていなかったというのは想像に難くない。
結城の脳裏に、着物姿の小柄な少女の姿が思い浮かんだ。
「僕は……ピオニーアさんが亡くなったことは受け入れていた。でも……ピオニーアさんが僕のせいで亡くなったことは……知らなかった」
「ピオニーアが……お前のせいで?」
「君のことも、ピオニーアさんから何も聞いていなかった。知ったのは……君から直接聞かされた時だ」
「……」
「だから君にはピオニーアさんの仇を討つ権利が―――!?」
結城が改めてリズベルの方を見ると、リズベルは先程よりもひどく動揺した表情になっていた。
それを見た結城もまた、少なからず混乱した。
リズベルにとって、結城は紛れもない、ピオニーアの仇だったはずだ。
一連の行動からも、激しい憎悪があったことは、結城も大いに感じていた。
なのに、今のリズベルからは何の憎悪も怨嗟も見受けられない。
結城にとって、そんなリズベルの変化は、まるで理解の範疇を超えていた。
「どうして……お前は、私のことを憎まないんだ!?」
「?」
「どうして、そんな考え方をするんだ!? どうして、そんな風に全てを受け入れられるんだ!? どうして、態と憎まれるようなことをしたんだ!? どうして! どうして! どうして! どうして!」
リズベルは頭を抱えて髪を振り乱し、ひたすらに浮かんでくる疑問を結城にぶつける。
「どうして……こんな……」
ついに混乱が極まり、リズベルはその場で膝をついた。
「……君にとって、ピオニーアさんが大事な人だったから」
「っ!?」
「ピオニーアさんが亡くなって、君は復讐をしようとした。君が僕に向けてくる恨みや憎しみの気持ちで分かったんだ。君がすごく、ピオニーアさんのことを大事に想ってたって」
「……」
「ピオニーアさんからは君のことを何も知らされてなかったけど、ピオニーアさんのことだ。何か事情があったんだと思う。そして、ピオニーアさんもきっと君のことを大事に想っていた。だって、ピオニーアさんは君の―――」
「私は!」
意図してなのかどうなのか、リズベルは結城の言葉を遮って声を上げた。
「私は……生まれてはいけなかったんだ。誰も彼もが、私を疎ましい目で見てきた。何でそんな扱いをされるのか解らなかった。恐かった。でも、ピオニーアだけは、私に優しくしてくれた。私のことを心から愛してくれた。ピオニーアだけが、私を人間として見てくれた」
その独白が結城に向けたものなのか、結城には判断できなかったが、それでもリズベルが心の奥底に持っていた気持ちであることだけは判った。
「なのに……なのに……ピオニーア……ああ、ああああ!」
蹲り、咽び泣くリズベルを、結城はただ見ていることしかできなかった。
自分を仇と狙ってきた相手が、今はこんなにも弱々しくなっていることが、まるで信じられなかったからだ。
「どうしてお前だったんだ。どうしてピオニーアは私を置いて逝ってしまったんだ。ピオニーアは私のことを……本当は愛していなかったのか?」
「それは違う」
リズベルの言葉を否定したのは結城ではなく、雑木林の中から出てきた媛寿だった。
「媛寿……」
媛寿の意外な登場に結城は少し驚いたが、媛寿は結城を一瞥すると、蹲るリズベルの横についた。
「ピオニーアは最期まで、お前のこと、大事に想ってた」
「え?」
「ピオニーアは、あの時―――」
媛寿がそう言いかけた時、すぐ近くで何かが爆発したような音と衝撃があった。
見れば、結城がいた天逐山山頂の大木から少し離れた場所に、濛々と土煙が上がっていた。
結城にはリズベルの質問の意図が解らなかった。
結城自身、ここ数日の間で知るところとなった真相が多すぎるくらいにある。
ピオニーアの安否、リズベルの素性、自分自身の命運。
どれも結城にとって衝撃的な情報ばかりであり、何より衝撃を受けたのは、結城が重要なことを一切知らされていなかったという事実だった。
ただ、それはあえて伝えられていなかったというのは想像に難くない。
結城の脳裏に、着物姿の小柄な少女の姿が思い浮かんだ。
「僕は……ピオニーアさんが亡くなったことは受け入れていた。でも……ピオニーアさんが僕のせいで亡くなったことは……知らなかった」
「ピオニーアが……お前のせいで?」
「君のことも、ピオニーアさんから何も聞いていなかった。知ったのは……君から直接聞かされた時だ」
「……」
「だから君にはピオニーアさんの仇を討つ権利が―――!?」
結城が改めてリズベルの方を見ると、リズベルは先程よりもひどく動揺した表情になっていた。
それを見た結城もまた、少なからず混乱した。
リズベルにとって、結城は紛れもない、ピオニーアの仇だったはずだ。
一連の行動からも、激しい憎悪があったことは、結城も大いに感じていた。
なのに、今のリズベルからは何の憎悪も怨嗟も見受けられない。
結城にとって、そんなリズベルの変化は、まるで理解の範疇を超えていた。
「どうして……お前は、私のことを憎まないんだ!?」
「?」
「どうして、そんな考え方をするんだ!? どうして、そんな風に全てを受け入れられるんだ!? どうして、態と憎まれるようなことをしたんだ!? どうして! どうして! どうして! どうして!」
リズベルは頭を抱えて髪を振り乱し、ひたすらに浮かんでくる疑問を結城にぶつける。
「どうして……こんな……」
ついに混乱が極まり、リズベルはその場で膝をついた。
「……君にとって、ピオニーアさんが大事な人だったから」
「っ!?」
「ピオニーアさんが亡くなって、君は復讐をしようとした。君が僕に向けてくる恨みや憎しみの気持ちで分かったんだ。君がすごく、ピオニーアさんのことを大事に想ってたって」
「……」
「ピオニーアさんからは君のことを何も知らされてなかったけど、ピオニーアさんのことだ。何か事情があったんだと思う。そして、ピオニーアさんもきっと君のことを大事に想っていた。だって、ピオニーアさんは君の―――」
「私は!」
意図してなのかどうなのか、リズベルは結城の言葉を遮って声を上げた。
「私は……生まれてはいけなかったんだ。誰も彼もが、私を疎ましい目で見てきた。何でそんな扱いをされるのか解らなかった。恐かった。でも、ピオニーアだけは、私に優しくしてくれた。私のことを心から愛してくれた。ピオニーアだけが、私を人間として見てくれた」
その独白が結城に向けたものなのか、結城には判断できなかったが、それでもリズベルが心の奥底に持っていた気持ちであることだけは判った。
「なのに……なのに……ピオニーア……ああ、ああああ!」
蹲り、咽び泣くリズベルを、結城はただ見ていることしかできなかった。
自分を仇と狙ってきた相手が、今はこんなにも弱々しくなっていることが、まるで信じられなかったからだ。
「どうしてお前だったんだ。どうしてピオニーアは私を置いて逝ってしまったんだ。ピオニーアは私のことを……本当は愛していなかったのか?」
「それは違う」
リズベルの言葉を否定したのは結城ではなく、雑木林の中から出てきた媛寿だった。
「媛寿……」
媛寿の意外な登場に結城は少し驚いたが、媛寿は結城を一瞥すると、蹲るリズベルの横についた。
「ピオニーアは最期まで、お前のこと、大事に想ってた」
「え?」
「ピオニーアは、あの時―――」
媛寿がそう言いかけた時、すぐ近くで何かが爆発したような音と衝撃があった。
見れば、結城がいた天逐山山頂の大木から少し離れた場所に、濛々と土煙が上がっていた。
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