上 下
394 / 405
竜の恩讐編

鬼と姫と女神と・・・ その12

しおりを挟む
 アテナと千春ちはるの心境は完全に真逆だった。
 かたやアテナはらしくないほどにあせりをおぼえ、かたや千春は獲物を見つけた虎のように嬉々としている。
 千春の実力は、やはりアテナの想像を超えていた。
 アテナに精神的な負荷があったとはいえ、結果としてアテナはされたのだ。
 そのために、アテナは防衛線を完全に突破されてしまった。
 千春の技ではじき飛ばされた先は、天逐山てんぢくざんの山頂付近。
 結城ゆうきがいる場所のすぐ近くだった。
「さぁ~て、どうしようかな~?」
 千春はアテナの動向を警戒しつつ、結城がいるであろう方向を見て笑みを浮かべた。
 千春もまた、アテナが焦りを感じていることを察している。
 この状況が充分に有利なものと理解しているからこそ、アテナに対してより重圧プレッシャーをかけるような態度でいた。
 千春にとっては非常に旨味うまみのある場面だった。
 すぐにアテナを振り切って標的ターゲットの元まで行き、首をねるか心臓を貫くかすれば、それで依頼は達成となる。
 ただ、つまらない仕事と思っていた今回の依頼において、戦女神アテナという稀有けうな相手と戦えているのは慮外りょがい僥倖ぎょうこう
 これもまた千春にとって大変に旨味があった。
 暴虐も交合も戦闘も酒も、流血と快楽は有るだけ楽しもうとする。
 千春の中にある四姉妹の中で最も濃い鬼の血が、このままつまらない終わり方をすることをしんでいた。
「―――そうだ」
 千春は再びアテナに目を向けた。さも面白いことを見つけたように破顔はがんして。
「あなたと戦いながらあの小林結城おとこを殺してみるってどうかな?」
「っ!」
「その方が難易度が高くなって面白いでしょ? お互いに」
 祢々切丸ねねきりまるかまえて笑いかけてくる千春に、アテナは目を細めて戦慄していた。
 通常であればけて通るであろう選択肢を、天坂あまさか千春は愉悦ととらえて躊躇ちゅうちょなく選んでくる。
 千夏ちなつをはじめ、鬼の末裔まつえいたる者を何人も見てきたアテナだが、その誰もが半分程度は人間ひととしての気配を持っていた。
 だが、目の前の千春は違っていた。
 半分以上が人間ひとならざる者の気配を放っている。
 アテナは今、現代において純正の鬼に最も近い存在と対峙していた。
「それじゃあ女神サマ――――――始めよっか!」
 その言葉を合図に、千春は結城の元へ駆け出した。
「くっ!」
 すかさずアテナも千春を追うように疾駆する。
 現在地と結城との距離はそれほど離れてはいない。
 祢々切丸を持ってなお素早く動ける千春なら、すぐに結城の元へ 辿たどり着いてしまうだろう。
 そうはさせじと、アテナは槍を横薙よこなぎに振るう。
 狙うは足首。まずは千春の動きを止めようとした。が、
「甘い」
 その攻撃を逆に読んでいた千春は、回転しながらび上がり、アテナの足払いをかわした。
「間合いに入り込みすぎたね」
 回転の遠心力を乗せて、千春は祢々切丸を振るった。
 斬り上げられた刀身の軌跡は、横薙ぎを放ったアテナの左前腕ひだりぜんわんを通り過ぎた。
「くっ! ああ!」
 アテナの左腕から鮮血が舞い散った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

処理中です...