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竜の恩讐編
鬼と姫と女神と・・・ その12
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アテナと千春の心境は完全に真逆だった。
かたやアテナはらしくないほどに焦りを覚え、かたや千春は獲物を見つけた虎のように嬉々としている。
千春の実力は、やはりアテナの想像を超えていた。
アテナに精神的な負荷があったとはいえ、結果としてアテナは圧されたのだ。
そのために、アテナは防衛線を完全に突破されてしまった。
千春の技で弾き飛ばされた先は、天逐山の山頂付近。
結城がいる場所のすぐ近くだった。
「さぁ~て、どうしようかな~?」
千春はアテナの動向を警戒しつつ、結城がいるであろう方向を見て笑みを浮かべた。
千春もまた、アテナが焦りを感じていることを察している。
この状況が充分に有利なものと理解しているからこそ、アテナに対してより重圧をかけるような態度でいた。
千春にとっては非常に旨味のある場面だった。
すぐにアテナを振り切って標的の元まで行き、首を刎ねるか心臓を貫くかすれば、それで依頼は達成となる。
ただ、つまらない仕事と思っていた今回の依頼において、戦女神という稀有な相手と戦えているのは慮外の僥倖。
これもまた千春にとって大変に旨味があった。
暴虐も交合も戦闘も酒も、流血と快楽は有るだけ楽しもうとする。
千春の中にある四姉妹の中で最も濃い鬼の血が、このままつまらない終わり方をすることを惜しんでいた。
「―――そうだ」
千春は再びアテナに目を向けた。さも面白いことを見つけたように破顔して。
「あなたと戦いながらあの小林結城を殺してみるってどうかな?」
「っ!」
「その方が難易度が高くなって面白いでしょ? お互いに」
祢々切丸を構えて笑いかけてくる千春に、アテナは目を細めて戦慄していた。
通常であれば避けて通るであろう選択肢を、天坂千春は愉悦と捉えて躊躇なく選んでくる。
千夏をはじめ、鬼の末裔たる者を何人も見てきたアテナだが、その誰もが半分程度は人間としての気配を持っていた。
だが、目の前の千春は違っていた。
半分以上が人間ならざる者の気配を放っている。
アテナは今、現代において純正の鬼に最も近い存在と対峙していた。
「それじゃあ女神サマ――――――始めよっか!」
その言葉を合図に、千春は結城の元へ駆け出した。
「くっ!」
すかさずアテナも千春を追うように疾駆する。
現在地と結城との距離はそれほど離れてはいない。
祢々切丸を持ってなお素早く動ける千春なら、すぐに結城の元へ 辿り着いてしまうだろう。
そうはさせじと、アテナは槍を横薙ぎに振るう。
狙うは足首。まずは千春の動きを止めようとした。が、
「甘い」
その攻撃を逆に読んでいた千春は、回転しながら跳び上がり、アテナの足払いをかわした。
「間合いに入り込みすぎたね」
回転の遠心力を乗せて、千春は祢々切丸を振るった。
斬り上げられた刀身の軌跡は、横薙ぎを放ったアテナの左前腕を通り過ぎた。
「くっ! ああ!」
アテナの左腕から鮮血が舞い散った。
かたやアテナはらしくないほどに焦りを覚え、かたや千春は獲物を見つけた虎のように嬉々としている。
千春の実力は、やはりアテナの想像を超えていた。
アテナに精神的な負荷があったとはいえ、結果としてアテナは圧されたのだ。
そのために、アテナは防衛線を完全に突破されてしまった。
千春の技で弾き飛ばされた先は、天逐山の山頂付近。
結城がいる場所のすぐ近くだった。
「さぁ~て、どうしようかな~?」
千春はアテナの動向を警戒しつつ、結城がいるであろう方向を見て笑みを浮かべた。
千春もまた、アテナが焦りを感じていることを察している。
この状況が充分に有利なものと理解しているからこそ、アテナに対してより重圧をかけるような態度でいた。
千春にとっては非常に旨味のある場面だった。
すぐにアテナを振り切って標的の元まで行き、首を刎ねるか心臓を貫くかすれば、それで依頼は達成となる。
ただ、つまらない仕事と思っていた今回の依頼において、戦女神という稀有な相手と戦えているのは慮外の僥倖。
これもまた千春にとって大変に旨味があった。
暴虐も交合も戦闘も酒も、流血と快楽は有るだけ楽しもうとする。
千春の中にある四姉妹の中で最も濃い鬼の血が、このままつまらない終わり方をすることを惜しんでいた。
「―――そうだ」
千春は再びアテナに目を向けた。さも面白いことを見つけたように破顔して。
「あなたと戦いながらあの小林結城を殺してみるってどうかな?」
「っ!」
「その方が難易度が高くなって面白いでしょ? お互いに」
祢々切丸を構えて笑いかけてくる千春に、アテナは目を細めて戦慄していた。
通常であれば避けて通るであろう選択肢を、天坂千春は愉悦と捉えて躊躇なく選んでくる。
千夏をはじめ、鬼の末裔たる者を何人も見てきたアテナだが、その誰もが半分程度は人間としての気配を持っていた。
だが、目の前の千春は違っていた。
半分以上が人間ならざる者の気配を放っている。
アテナは今、現代において純正の鬼に最も近い存在と対峙していた。
「それじゃあ女神サマ――――――始めよっか!」
その言葉を合図に、千春は結城の元へ駆け出した。
「くっ!」
すかさずアテナも千春を追うように疾駆する。
現在地と結城との距離はそれほど離れてはいない。
祢々切丸を持ってなお素早く動ける千春なら、すぐに結城の元へ 辿り着いてしまうだろう。
そうはさせじと、アテナは槍を横薙ぎに振るう。
狙うは足首。まずは千春の動きを止めようとした。が、
「甘い」
その攻撃を逆に読んでいた千春は、回転しながら跳び上がり、アテナの足払いをかわした。
「間合いに入り込みすぎたね」
回転の遠心力を乗せて、千春は祢々切丸を振るった。
斬り上げられた刀身の軌跡は、横薙ぎを放ったアテナの左前腕を通り過ぎた。
「くっ! ああ!」
アテナの左腕から鮮血が舞い散った。
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