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竜の恩讐編
鬼と姫と女神と・・・ その10
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槍の穂先と祢々切丸の刃がぶつかり、暗い山道に激しい火花が散る。
アテナ渾身の打撃を受け、さすがの千春も技に若干の乱れが出てきていた。
だが、アテナもまた左足を負傷している。
そして依然、得物によるリーチの差は埋まらぬままだ。
力が落ちた千春の斬撃を防ぐことはできても、アテナから決定的な攻撃を打つことは困難だった。
(アマサカチハルがあの剣を手にしているうちは、防戦に徹するしかない。剣を封じるか、あるいは剣の間合いに踏み込むか―――!?)
戦いながら戦術を練っていたアテナだったが、不意に千春が猛攻を止め、後ろに跳んでアテナと距離を取った。
「……いかがしましたか?」
「な~に、先刻イイ技を見せてもらったから―――」
千春は構えていた祢々切丸を左の腰に移動させ、
「こっちも面白い技でお返ししようかな~、って」
切っ先をアテナに向けた腰溜めの構えを取った。
(あの構え……刺突を撃とうとしている? しかし『ヒラヅキ』ではない。ではただの刺突? それとも……)
「しゅっ!」
アテナの分析を待つことなく、千春は地面を蹴って攻撃を仕掛けてきた。
(たとえどんな刺突であろうと、切っ先を捉えて迎え撃つ!)
アテナは槍を構え、いつでも祢々切丸の切っ先に返し突きを撃てるよう備えた。
祢々切丸の切っ先が、鋭い刺突となって空を切る。
その刃がもう少しでアテナの間合いに入ろうとしている。
アテナの感覚は、確かに祢々切丸の刀身を捕捉していた。
が、突然、
(!?)
アテナが捉えていた刀身が消失した。
槍を撃ち出す直前だったために、アテナも困惑を隠しきれない。
(消えた!? なぜ―――!?)
疑問を持つ間もなく、またも祢々切丸の切っ先が迫る。
「っ!」
今度こそ迎撃すべく槍を出そうとするが、その刀身も霞のように消えてしまった。
(また消えた―――!)
三度目の刀身が迫るが、アテナの直感は確信していた。
これが本物である、と。
同時に技の正体も判明したが、その時にはもうアテナは迎撃のタイミングを完全に逸していた。
「くっ!」
返し突きを諦めたアテナは、槍を引き戻し、穂先を祢々切丸が狙う箇所に重ね、後ろに跳躍した。
千春の刺突を穂先によって防ぎつつ、後ろに跳ぶことで膂力を打ち消そうとしたのだ。
しかし、
「たあああ!」
渾身の技を放ったのは千春も同じだった。
穂先によって刺突そのものは防いだが、その強大な威力までは殺しきれなかった。
「ぐっ!」
受け流せなかった刺突の威力が、アテナを空中へ吹き飛ばした。
元より宙に跳んでいただけに、アテナは浴びせられた力の方向を制御することができなかった。
「幕末は上手くできなかったけど、コレ、練習しておいて良かったみたいね」
アテナの落下音を確認した千春は、その音が響いた方向へと駆け出した。
「……に……ったら……しく……して……あげて……」
震える唇と寂しげな笑顔が、力なくそう告げていた。
「ぴお……にーあ……ぴおにーあ!?」
飛び起きた媛寿は慌てて辺りを見回した。
薙ぎ倒されて、か細い煙を立てている木々と、頭にたんこぶを腫らして倒れているゴシックドレスの少女。
それを見た媛寿は、つい先程まで千秋と戦っていたことを思い出した。
「……」
何かが落下する音が山頂付近に響き渡り、媛寿はその方向を無言で見つめた。
まだ戦いが続いているというなら、結城もまた存命であるということ。
「ゆうき……」
媛寿は立ち上がり、山頂へと足を進めようとする。
だがその前に、倒れている千秋の傍らに、徳用フルーツキャンディの袋を置いていった。
今回の一件に巻き込んでしまったお侘びのつもりだった。
まだ回復していない身体に鞭打ちながら、媛寿は自問を繰り返している。
自分が結城の元へ行く資格があるのか、と。
真実を告げられないまま、このような事態を招いてしまった自分が、結城に顔向けできるのか、と。
山道を一人進む座敷童子の胸中は、夜の暗さと同じく闇の只中にあった。
「きゃっ!」
突如、媛寿の歩く先で誰かが躓いた。
媛寿の目が慣れてくると、その人物は千春と同じ、 私立皆本学園の制服を着ていることが判った。
そして、夜の闇の中ですら輝きを放つ、プラチナブロンドの髪を持っていることも。
「―――あっ」
それがリズベルだと気付くまで、媛寿は少し時間がかかった。
いま目の前にいるリズベルは、憎悪に満ちた刺々しさなど微塵も感じられず、あまりにも弱々しく見えてしまったからだ。
「なんで―――」
媛寿が質問する前に、リズベルは媛寿の両肩を強く掴んだ。
「お……お願い……」
そう懇願するリズベルの顔は、涙を流しながら震えていた。
「小林結城のところに……連れてって……」
アテナ渾身の打撃を受け、さすがの千春も技に若干の乱れが出てきていた。
だが、アテナもまた左足を負傷している。
そして依然、得物によるリーチの差は埋まらぬままだ。
力が落ちた千春の斬撃を防ぐことはできても、アテナから決定的な攻撃を打つことは困難だった。
(アマサカチハルがあの剣を手にしているうちは、防戦に徹するしかない。剣を封じるか、あるいは剣の間合いに踏み込むか―――!?)
戦いながら戦術を練っていたアテナだったが、不意に千春が猛攻を止め、後ろに跳んでアテナと距離を取った。
「……いかがしましたか?」
「な~に、先刻イイ技を見せてもらったから―――」
千春は構えていた祢々切丸を左の腰に移動させ、
「こっちも面白い技でお返ししようかな~、って」
切っ先をアテナに向けた腰溜めの構えを取った。
(あの構え……刺突を撃とうとしている? しかし『ヒラヅキ』ではない。ではただの刺突? それとも……)
「しゅっ!」
アテナの分析を待つことなく、千春は地面を蹴って攻撃を仕掛けてきた。
(たとえどんな刺突であろうと、切っ先を捉えて迎え撃つ!)
アテナは槍を構え、いつでも祢々切丸の切っ先に返し突きを撃てるよう備えた。
祢々切丸の切っ先が、鋭い刺突となって空を切る。
その刃がもう少しでアテナの間合いに入ろうとしている。
アテナの感覚は、確かに祢々切丸の刀身を捕捉していた。
が、突然、
(!?)
アテナが捉えていた刀身が消失した。
槍を撃ち出す直前だったために、アテナも困惑を隠しきれない。
(消えた!? なぜ―――!?)
疑問を持つ間もなく、またも祢々切丸の切っ先が迫る。
「っ!」
今度こそ迎撃すべく槍を出そうとするが、その刀身も霞のように消えてしまった。
(また消えた―――!)
三度目の刀身が迫るが、アテナの直感は確信していた。
これが本物である、と。
同時に技の正体も判明したが、その時にはもうアテナは迎撃のタイミングを完全に逸していた。
「くっ!」
返し突きを諦めたアテナは、槍を引き戻し、穂先を祢々切丸が狙う箇所に重ね、後ろに跳躍した。
千春の刺突を穂先によって防ぎつつ、後ろに跳ぶことで膂力を打ち消そうとしたのだ。
しかし、
「たあああ!」
渾身の技を放ったのは千春も同じだった。
穂先によって刺突そのものは防いだが、その強大な威力までは殺しきれなかった。
「ぐっ!」
受け流せなかった刺突の威力が、アテナを空中へ吹き飛ばした。
元より宙に跳んでいただけに、アテナは浴びせられた力の方向を制御することができなかった。
「幕末は上手くできなかったけど、コレ、練習しておいて良かったみたいね」
アテナの落下音を確認した千春は、その音が響いた方向へと駆け出した。
「……に……ったら……しく……して……あげて……」
震える唇と寂しげな笑顔が、力なくそう告げていた。
「ぴお……にーあ……ぴおにーあ!?」
飛び起きた媛寿は慌てて辺りを見回した。
薙ぎ倒されて、か細い煙を立てている木々と、頭にたんこぶを腫らして倒れているゴシックドレスの少女。
それを見た媛寿は、つい先程まで千秋と戦っていたことを思い出した。
「……」
何かが落下する音が山頂付近に響き渡り、媛寿はその方向を無言で見つめた。
まだ戦いが続いているというなら、結城もまた存命であるということ。
「ゆうき……」
媛寿は立ち上がり、山頂へと足を進めようとする。
だがその前に、倒れている千秋の傍らに、徳用フルーツキャンディの袋を置いていった。
今回の一件に巻き込んでしまったお侘びのつもりだった。
まだ回復していない身体に鞭打ちながら、媛寿は自問を繰り返している。
自分が結城の元へ行く資格があるのか、と。
真実を告げられないまま、このような事態を招いてしまった自分が、結城に顔向けできるのか、と。
山道を一人進む座敷童子の胸中は、夜の暗さと同じく闇の只中にあった。
「きゃっ!」
突如、媛寿の歩く先で誰かが躓いた。
媛寿の目が慣れてくると、その人物は千春と同じ、 私立皆本学園の制服を着ていることが判った。
そして、夜の闇の中ですら輝きを放つ、プラチナブロンドの髪を持っていることも。
「―――あっ」
それがリズベルだと気付くまで、媛寿は少し時間がかかった。
いま目の前にいるリズベルは、憎悪に満ちた刺々しさなど微塵も感じられず、あまりにも弱々しく見えてしまったからだ。
「なんで―――」
媛寿が質問する前に、リズベルは媛寿の両肩を強く掴んだ。
「お……お願い……」
そう懇願するリズベルの顔は、涙を流しながら震えていた。
「小林結城のところに……連れてって……」
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