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竜の恩讐編
鬼と姫と女神と・・・ その5
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(この人、クイーン・アグリッピーナ号で見かけたような……まっ、今はそんなこと、どうでもいいことですね~)
「そのお話、聞き捨てなりませんね~」
稔丸の背後を取ったキュウは、いつもの間延びした口調で声をかけた。
狐耳と九本の尾は隠し、扇で顔を軽くあおいでいるだけだが、キュウの思惑は稔丸にひしひしと伝わっていた。
行動如何によっては、いつでも命を取ろうとしている、と。
(なるほど。こいつはヤバイわ)
「あ~、っと、自己紹介が遅れたかな。ボクは多珂倉―――」
「必要ありませんよ~」
キュウはにこやかに微笑みかけるが、そこに親愛の情というものは欠片もない。
あるのは掛け値なしの恫喝だった。
稔丸と繋鴎に強力な妖気をぶつけることで、キュウの殺意が本物であることを伝えるという。
(ホントにヤバイな。『二十八家』が把握してない中で、こんな妖怪が残ってたなんて)
対策は打ってきたとはいえ、稔丸はキュウを相手取ることを考えると冷や汗が出た。
それは繋鴎も同じだったようで、キュウの妖気を感じ、大いに慄いていた。
稔丸は繋鴎に目配せすると、
「分かった分かった。じゃあ大人しくしてるから、ちょっと連絡だけさせてもらっていいかな?」
右耳に装着した小さな通信機を指し示し、通信の許可を得ようとした。
「う~ん……」
キュウは少し考えるように唸ると、
「いいですよ~」
と、あっさり許可を出した。
「ありがとう―――シトローネ、準備できてる?」
『OK』
稔丸と短い通信を終えると、シトローネは弓に番えていた矢を引き、弦を限界まで張った。
シトローネを始めとした、戦闘に長けた者たちが、中、長距離からキュウを攻撃する準備を終えていた。
「いま八箇所から狙わせてる。ボクも手荒なことは好きじゃないんだ」
「それで~?」
「君が何者かは知らないし、詮索する気もない。だからここは穏便に、あの娘のことは見逃してくれないかな?」
「う~ん……」
またもキュウは少し考えるように唸ると、扇を畳んで稔丸の右肩に軽く置いた。
「お断りしますよ~」
『お断りしますよ~』
キュウがそう答えるのと、インカムから全く同じ声が聞こえてくるのは、ほぼ同時だった。
「なっ!?」
「!?」
シトローネのインカムに触れていたのは、鏃の先に捉えていたはずのキュウだった。
稔丸が慌てて振り返ると、そこには笑みを浮かべたキュウが立っていた。
(ど、どうして―――)
「驚くことは」
『ないですよ~』
再びキュウの言葉に続いて、インカムの向こうからもキュウの声も聞こえてくる。
そこから『きゃああ!』と悲鳴も上がり、その声色からシトローネからの通信ではないと稔丸は覚り、さらに驚愕した。
「こういうの」
『得意なんですよ~』
「八箇所」
『ぜ~んぶ』
「押さえ」
『ました~』
「これでも」
『まだ』
「お話」
『続けますか~?』
稔丸の背筋に最大級の悪寒が走った。
目の前にいる巫女装束の女は、急ごしらえとはいえ稔丸が用意した包囲網を、奇怪な業でいとも容易く手玉に取ってきた。
その様を嫌というほど見せ付けられた稔丸は思った。
「大人しくしているのは~」
『あなたたちの方ですよ』『あなたたちの方ですよ』『あなたたちの方ですよ』『あなたたちの方ですよ』『あなたたちの方ですよ』『あなたたちの方ですよ』『あなたたちの方ですよ』『あなたたちの方ですよ』
これは多珂倉家や播海家では対処できない、二十八家総出で挑まなければならない相手だった、と。
(おや?)
キュウは何かに気付き、天逐山から少し離れた小高い丘に目をやった。
(あそこにもう一人いますね~)
「そのお話、聞き捨てなりませんね~」
稔丸の背後を取ったキュウは、いつもの間延びした口調で声をかけた。
狐耳と九本の尾は隠し、扇で顔を軽くあおいでいるだけだが、キュウの思惑は稔丸にひしひしと伝わっていた。
行動如何によっては、いつでも命を取ろうとしている、と。
(なるほど。こいつはヤバイわ)
「あ~、っと、自己紹介が遅れたかな。ボクは多珂倉―――」
「必要ありませんよ~」
キュウはにこやかに微笑みかけるが、そこに親愛の情というものは欠片もない。
あるのは掛け値なしの恫喝だった。
稔丸と繋鴎に強力な妖気をぶつけることで、キュウの殺意が本物であることを伝えるという。
(ホントにヤバイな。『二十八家』が把握してない中で、こんな妖怪が残ってたなんて)
対策は打ってきたとはいえ、稔丸はキュウを相手取ることを考えると冷や汗が出た。
それは繋鴎も同じだったようで、キュウの妖気を感じ、大いに慄いていた。
稔丸は繋鴎に目配せすると、
「分かった分かった。じゃあ大人しくしてるから、ちょっと連絡だけさせてもらっていいかな?」
右耳に装着した小さな通信機を指し示し、通信の許可を得ようとした。
「う~ん……」
キュウは少し考えるように唸ると、
「いいですよ~」
と、あっさり許可を出した。
「ありがとう―――シトローネ、準備できてる?」
『OK』
稔丸と短い通信を終えると、シトローネは弓に番えていた矢を引き、弦を限界まで張った。
シトローネを始めとした、戦闘に長けた者たちが、中、長距離からキュウを攻撃する準備を終えていた。
「いま八箇所から狙わせてる。ボクも手荒なことは好きじゃないんだ」
「それで~?」
「君が何者かは知らないし、詮索する気もない。だからここは穏便に、あの娘のことは見逃してくれないかな?」
「う~ん……」
またもキュウは少し考えるように唸ると、扇を畳んで稔丸の右肩に軽く置いた。
「お断りしますよ~」
『お断りしますよ~』
キュウがそう答えるのと、インカムから全く同じ声が聞こえてくるのは、ほぼ同時だった。
「なっ!?」
「!?」
シトローネのインカムに触れていたのは、鏃の先に捉えていたはずのキュウだった。
稔丸が慌てて振り返ると、そこには笑みを浮かべたキュウが立っていた。
(ど、どうして―――)
「驚くことは」
『ないですよ~』
再びキュウの言葉に続いて、インカムの向こうからもキュウの声も聞こえてくる。
そこから『きゃああ!』と悲鳴も上がり、その声色からシトローネからの通信ではないと稔丸は覚り、さらに驚愕した。
「こういうの」
『得意なんですよ~』
「八箇所」
『ぜ~んぶ』
「押さえ」
『ました~』
「これでも」
『まだ』
「お話」
『続けますか~?』
稔丸の背筋に最大級の悪寒が走った。
目の前にいる巫女装束の女は、急ごしらえとはいえ稔丸が用意した包囲網を、奇怪な業でいとも容易く手玉に取ってきた。
その様を嫌というほど見せ付けられた稔丸は思った。
「大人しくしているのは~」
『あなたたちの方ですよ』『あなたたちの方ですよ』『あなたたちの方ですよ』『あなたたちの方ですよ』『あなたたちの方ですよ』『あなたたちの方ですよ』『あなたたちの方ですよ』『あなたたちの方ですよ』
これは多珂倉家や播海家では対処できない、二十八家総出で挑まなければならない相手だった、と。
(おや?)
キュウは何かに気付き、天逐山から少し離れた小高い丘に目をやった。
(あそこにもう一人いますね~)
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