小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

文字の大きさ
383 / 464
竜の恩讐編

鬼と姫と女神と・・・ その2

しおりを挟む
 天逐山てんぢくざん山道さんどうで対面を果たしたアテナと千春ちはる
 二人は互いに一足いっそく得物えものが届く間合いまで歩み寄ると、示し合わせたかのようにそこでぴたりと止まった。
「武具のふうきなさい。それまでは待ちます」
 千春の得物がまだ布にくるまれていることを見て取ったアテナは、それを解くよううながした。
「ふふ、思った通り正々堂々としたタイプ」
 アテナの性質を見抜いていた千春は、相手からの厚意を受けて、得物の封を解き始めた。
「ところで、戦う前に聞いておきたいんだけど」
「……何をうかがいたいと?」
「正直な話、あの結城おとこはどうやったって助からない。あたしたちが勝とうが、あなたたちが勝とうが、ね」
「……」
「なのにこんな戦いを仕掛しかけたのは、一体どんな理由があったっていうの? わざわざ場所まで指定して。あの結城おとこ、こんな真似まねする偏屈へんくつには見えなかったけど?」
 あえてゆっくりと布を取りながら、千春はアテナからの回答に耳をかたむける。
 アテナは少し悲しげな目で沈黙していたが、やがて溜め息をくように口を開いた。
「この場を用意したのはユウキの意向ですが、戦っているのは私たちの意思です」
「その理由は? ここで守ったって、どの道お陀仏だぶつなのに」
「……いて言えば、矜持きょうじのため」
「矜持?」
「神として、守るべき者を守れなかった。その失態、おのれへの敗北にむくいるため」
「へぇ~、あんな凡庸ぼんようそうな人間に、神サマがそこまでする価値があるって言うんだ?」
「無論です」
 アテナの迷いのない回答に、千春は思わず手を止めた。驚いたといってもいい。
「あなたたちがユウキの命を狙うというなら、あなたたちの依頼主がユウキに復讐を敢行かんこうするなら、存分にめ入ってくるがいい。だが―――」
 アテナは右手に持っていた槍を、千春に真っ直ぐ向けて言った。
「―――容易たやすく取ることができるほど、ユウキの命、軽いと思うな!」
 そう言い放つアテナに、千春は『なるほど』と笑みを浮かべた。
(納得した。神サマっていうのも案外可愛かわいらしい理由で動くのね。このまま取られるのが悔しいんだ。何で小林結城あのおとこがわざわざこんな場所を用意したのかはわかんないけど)
OKオッケー! そこまで言うなら、こっちも全力で取りに行かないとね!」
 千春はついに得物を包んでいた布を解き放った。
「!?」
 その長さから、アテナは槍か薙刀なぎなただと予想していたが、違っていた。
 千春がたずさえていたのは、3メートルをゆうに超える長大な日本刀だった。

 千春たちが天逐山に入り、三十分を過ぎようとしていた。
 ふもとに残ったのは、リズベル、キュウ、千夏ちなつの三人のみ。
 まだ小雨が降る中、キュウと千夏はどこからか出した番傘ばんがさを差し、リズベルは雨に打たれながら山頂をにらみ続けている。
 キュウが『お使いになりますか?』と傘を差し出しても、それを聞き入れることはなかった。
 ピオニーアを殺した男が、死に至る傷を負わされながら、あつかましくも命を取れるものなら取りに来いと挑発まで仕掛けてきた。
 リズベルの怨嗟えんさと憎悪は、もはや感情という域ではなく、全てをなげうってでも果たす使命へと昇華していた。
 だからこそ、聞き逃さず待っている。小林結城こばやしゆうきの断末魔が、山頂から届く時を。
 だからこそ、確かめるべく待っている。小林結城の首級しるしから、死に際の苦悶くもんの表情を見る時を。
(千春、早く! 早く持って来て! ピオニーアの命を奪った、その男の命を!」
 爪がてのひらに食い込むほどの力で、リズベルは拳をにぎめる。
(地獄へちる前に、ピオニーアの前で血の涙を流して平伏へいふくするがいい! この世に残った肉体は、一切の痕跡を残さず焼き尽くして―――)
 心の内で怨嗟の声をつぶやくリズベルの後方で、不意にドイツ製の高級車が停止した。
「リズベル!」
 あわてた様子でドアを開けて出てきたのは、播海家はるみけの現当主、繋鴎けいおうだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...