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竜の恩讐編
幕間 動く者たち その1
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多珂倉家の高級車は今、クドの持つ携帯電話のGPSを頼りに、決戦場と化した天逐山へと向かっていた。
幸い、何県も跨ぐ距離ではなかったので、高級車の性能を考えれば、数時間もかけずに辿り着く。
播海家から佐権院家に協力を要請したことも相まって、交通規制にも引っかからないのだから、なおのこと速く到着するだろう。
だが、それだけの移動時間の短縮が成ったとしても、播海繋鴎は全く心を落ち着かせることができなかった。
じっとりと冷や汗が浮かび、気付けば踵を小刻みに動かしている。
このような状況になったのは、繋鴎にとっては完全に予想外だった。
古い友人からの連絡を受け、その頼みを聞かされた時には、さすがの繋鴎も焦ったものだった。
しかし、冷静になって考えれば、一人の青年の命を差し出すだけで丸く収まる話でもあった。
ことにその青年が、三年前からの懸念材料である小林結城であるならば、それは繋鴎としても悪くない機会だった。
知り合いの闇医者が最凶の暗殺集団『ナラカ』とつながりがあると言っていたので、ヴィクトリアを通じて『ナラカ』に渡りをつけた。
ヴィクトリアが言うに、『ナラカ』の要求する報酬は一定しないらしい。
単純に金銭での支払いを求められることもあれば、依頼者の将来に何かしらの制限をつける、あるいは依頼者の肉体の一部をもらい受ける、果てには依頼者の命そのものを差し出させる場合もあったという。
それこそ『ナラカ』の頭目の匙加減によるところだと、警告はされていた。
繋鴎の一番の問題点はそこのはずだった。
依頼するのが繋鴎であったなら、多少の無理は通すつもりでいた。
だが、依頼するのは古い友人から預かった客だった。
義理も情もある相手から預かった者に、下手な真似をさせるわけにはいかなかった。
最終的に命が代価になることはなかったが、依頼者は惨たらしい支払いをすることになった。
繋鴎も全てを割り切れたわけではなかったが、まだ上々な結果だったと捉え、小林結城の死亡が確認された後、依頼者を中立国へ逃がす算段だった。
それで終われるはずだった。
今や、その構想が甘すぎたことを、繋鴎は後悔を通り越し、過去の自分を呪ってやりたくなるほどだった。
現状は繋鴎の想像だにしなかった方向へ傾き、絶対に守らなければいけなかったはずの依頼者の命が脅かされようとしている。
(なぜだ!? なぜこんなことになった!? あの小林結城という男は何と関わりを持っていたというんだ!?)
もはや手遅れと知りつつも、繋鴎は自問せずにはいられなかった。
クドからの報告では、かなり危険度の高い大妖怪が、依頼者の傍にいるらしい。
それも、依頼者に明確な殺意を持って。
(そっちも厄介だが、その前に)
現地に到着したら、繋鴎はまず『ナラカ』の頭目に依頼をキャンセルないし、依頼料の『変換』を交渉しなければならない。
リズベルが独断で再依頼を決行してしまい、当人はともかく、その依頼料は繋鴎としても到底看過できるものではない。
『この娘が差し出したもの以上に、あたしの気を惹くものを持ってこれるなら、この依頼はキャンセルでいいわ』
『ナラカ』の頭目、千春はそう言っていたが、正直なところ、頼った多珂倉家でも『ナラカ』を納得させるだけの物が出せるか、繋鴎も確信が持てないでいる。しかし、
(どうにかして、せめてリズベルの身の安全だけでも確保できなければ、オレは……ピオニーアにも……パーシアンにも申し訳が立たなくなる)
これは、裏の外交を司る播海家当主としても、繋鴎個人としても、どうあっても避けなければならない事態だった。
そんな動揺と焦燥感を隠し切れずにいる繋鴎を横目に、多珂倉稔丸は新たに目的地の座標をスマホに入力し、上着のポケットの中でメールを送信した。
幸い、何県も跨ぐ距離ではなかったので、高級車の性能を考えれば、数時間もかけずに辿り着く。
播海家から佐権院家に協力を要請したことも相まって、交通規制にも引っかからないのだから、なおのこと速く到着するだろう。
だが、それだけの移動時間の短縮が成ったとしても、播海繋鴎は全く心を落ち着かせることができなかった。
じっとりと冷や汗が浮かび、気付けば踵を小刻みに動かしている。
このような状況になったのは、繋鴎にとっては完全に予想外だった。
古い友人からの連絡を受け、その頼みを聞かされた時には、さすがの繋鴎も焦ったものだった。
しかし、冷静になって考えれば、一人の青年の命を差し出すだけで丸く収まる話でもあった。
ことにその青年が、三年前からの懸念材料である小林結城であるならば、それは繋鴎としても悪くない機会だった。
知り合いの闇医者が最凶の暗殺集団『ナラカ』とつながりがあると言っていたので、ヴィクトリアを通じて『ナラカ』に渡りをつけた。
ヴィクトリアが言うに、『ナラカ』の要求する報酬は一定しないらしい。
単純に金銭での支払いを求められることもあれば、依頼者の将来に何かしらの制限をつける、あるいは依頼者の肉体の一部をもらい受ける、果てには依頼者の命そのものを差し出させる場合もあったという。
それこそ『ナラカ』の頭目の匙加減によるところだと、警告はされていた。
繋鴎の一番の問題点はそこのはずだった。
依頼するのが繋鴎であったなら、多少の無理は通すつもりでいた。
だが、依頼するのは古い友人から預かった客だった。
義理も情もある相手から預かった者に、下手な真似をさせるわけにはいかなかった。
最終的に命が代価になることはなかったが、依頼者は惨たらしい支払いをすることになった。
繋鴎も全てを割り切れたわけではなかったが、まだ上々な結果だったと捉え、小林結城の死亡が確認された後、依頼者を中立国へ逃がす算段だった。
それで終われるはずだった。
今や、その構想が甘すぎたことを、繋鴎は後悔を通り越し、過去の自分を呪ってやりたくなるほどだった。
現状は繋鴎の想像だにしなかった方向へ傾き、絶対に守らなければいけなかったはずの依頼者の命が脅かされようとしている。
(なぜだ!? なぜこんなことになった!? あの小林結城という男は何と関わりを持っていたというんだ!?)
もはや手遅れと知りつつも、繋鴎は自問せずにはいられなかった。
クドからの報告では、かなり危険度の高い大妖怪が、依頼者の傍にいるらしい。
それも、依頼者に明確な殺意を持って。
(そっちも厄介だが、その前に)
現地に到着したら、繋鴎はまず『ナラカ』の頭目に依頼をキャンセルないし、依頼料の『変換』を交渉しなければならない。
リズベルが独断で再依頼を決行してしまい、当人はともかく、その依頼料は繋鴎としても到底看過できるものではない。
『この娘が差し出したもの以上に、あたしの気を惹くものを持ってこれるなら、この依頼はキャンセルでいいわ』
『ナラカ』の頭目、千春はそう言っていたが、正直なところ、頼った多珂倉家でも『ナラカ』を納得させるだけの物が出せるか、繋鴎も確信が持てないでいる。しかし、
(どうにかして、せめてリズベルの身の安全だけでも確保できなければ、オレは……ピオニーアにも……パーシアンにも申し訳が立たなくなる)
これは、裏の外交を司る播海家当主としても、繋鴎個人としても、どうあっても避けなければならない事態だった。
そんな動揺と焦燥感を隠し切れずにいる繋鴎を横目に、多珂倉稔丸は新たに目的地の座標をスマホに入力し、上着のポケットの中でメールを送信した。
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