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竜の恩讐編
伯爵の血を継ぐ者 その2
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マスクマンの顔は木彫りの仮面なので、表情をほとんど窺い知ることはできないが、今のマスクマンは確実に顔をしかめたい心情だった。
マスクマンが黒曜石で作った手斧は、黒のスーツ姿の女、ルーシーの左腕を捉え、切断したはずだった。
切り離された左腕は、そのまま地面を転がり、やがて微動だにしない肉の塊と成り果てたはずだった。
だが、ルーシーはそれを拾い上げると、人形の関節を繋げる気安さで切断面を接ぎ、あっさりと元に戻してしまった。
「言ったでしょ? あなたじゃ妾を殺せないって」
ルーシーの左手は握っては開いてを繰り返し、完全に治癒したことを明確に証明している。
これまでも結城たちとともに、様々な怪物たちを相手取ってきたマスクマンでさえ、ルーシーのようなタイプは怖気を感じさせた。
「ねっ? 分かったら通してくれる? 妾たち、この山にいる小林結城にしか用がないから」
先程まで腕を切り落とされていたとは思えない笑顔でルーシーは説く。
それもまた薄気味悪かったが、マスクマンは申し出に受けるつもりは全くなかった。
「NΔ4→(断らせてもらおう)」
「……これでも妾、平和主義なんだけどな~。そもそもあの小林結城、放っておいても遠からず死んじゃうはずだけど? そこまで強情になって守る意味ある?」
「AΞ5←YG。TΛ1↓TD(別に結城を守ってるつもりはない。そもそも結城は、天逐山まで連れてきてほしいと言っただけだ)」
「なおさら戦う意味ないじゃない。なんで?」
「SΦ8↑AT(強いて言うなら八つ当たりだな)」
「……そう……じゃあ死ねとは言わないわ―――」
ルーシーは右手の指の間に三本の投擲用の針を挟み込むと、
「―――死なない程度に壊れて」
マスクマンに向けて投げ放った。
「!?」
マスクマンは横に跳んで針を回避した。
投擲武器を使うのはマスクマンも同じだが、弧状に飛ぶブーメランと違い、投げ針は的に直進してくる上に、投擲のモーションも小さい。
マスクマンほどの鋭敏な感覚がなければ、針が飛んできたということさえ気付かなかっただろう。
(DΘ8……BΣ!(厄介だな……だが!))
マスクマンは背中に装備していたブーメランに手をかけると、
(RΞ3↓!(引くわけにいくか!))
ルーシーに向かって抜き打つように投げ放った。
(背中からちょっと見えてたのはブーメランか)
夜を山中を弧を描いて飛ぶ物を、ルーシーの夜目は正確に捕捉していた。
(と、なれば―――)
死角に回り込んで迫り来るブーメランを、ルーシーはあえて避けてみせた。
そこへ避けることを見越していたマスクマンが、手斧を振り上げて突撃してくる。
ルーシーは牙を見せて微笑った。
(思ったとおり)
マスクマンの手斧が届く前に、ルーシーは地面を強く蹴り上げた。
人間を超えた力で蹴られた地面は、土石流のようにマスクマンに襲いかかり、突進の勢いを完全に殺した。
そこへルーシーが逆に攻撃を仕掛ける。
吸血鬼特有の鋭い牙が、マスクマンの肩口に噛みつこうと迫る。
「!」
マスクマンはとっさに左腕を前に出し、ルーシーに手首あたりを噛ませた。
牙は深々とマスクマンの手首に食い込むが、すかさずマスクマンは手斧を振りかぶり、ルーシーの左の鎖骨を目がけて打ち下ろした。
こちらも人間以上の力による一撃であり、斧の刃先は鎖骨を割り、肋骨を砕き、心臓にまで達していた。
決着がついたと確信したマスクマンだったが、
「!?」
噛み付いたままのルーシーの目元が笑う様を見て、またも得体の知れない怖気を感じた。
マスクマンが黒曜石で作った手斧は、黒のスーツ姿の女、ルーシーの左腕を捉え、切断したはずだった。
切り離された左腕は、そのまま地面を転がり、やがて微動だにしない肉の塊と成り果てたはずだった。
だが、ルーシーはそれを拾い上げると、人形の関節を繋げる気安さで切断面を接ぎ、あっさりと元に戻してしまった。
「言ったでしょ? あなたじゃ妾を殺せないって」
ルーシーの左手は握っては開いてを繰り返し、完全に治癒したことを明確に証明している。
これまでも結城たちとともに、様々な怪物たちを相手取ってきたマスクマンでさえ、ルーシーのようなタイプは怖気を感じさせた。
「ねっ? 分かったら通してくれる? 妾たち、この山にいる小林結城にしか用がないから」
先程まで腕を切り落とされていたとは思えない笑顔でルーシーは説く。
それもまた薄気味悪かったが、マスクマンは申し出に受けるつもりは全くなかった。
「NΔ4→(断らせてもらおう)」
「……これでも妾、平和主義なんだけどな~。そもそもあの小林結城、放っておいても遠からず死んじゃうはずだけど? そこまで強情になって守る意味ある?」
「AΞ5←YG。TΛ1↓TD(別に結城を守ってるつもりはない。そもそも結城は、天逐山まで連れてきてほしいと言っただけだ)」
「なおさら戦う意味ないじゃない。なんで?」
「SΦ8↑AT(強いて言うなら八つ当たりだな)」
「……そう……じゃあ死ねとは言わないわ―――」
ルーシーは右手の指の間に三本の投擲用の針を挟み込むと、
「―――死なない程度に壊れて」
マスクマンに向けて投げ放った。
「!?」
マスクマンは横に跳んで針を回避した。
投擲武器を使うのはマスクマンも同じだが、弧状に飛ぶブーメランと違い、投げ針は的に直進してくる上に、投擲のモーションも小さい。
マスクマンほどの鋭敏な感覚がなければ、針が飛んできたということさえ気付かなかっただろう。
(DΘ8……BΣ!(厄介だな……だが!))
マスクマンは背中に装備していたブーメランに手をかけると、
(RΞ3↓!(引くわけにいくか!))
ルーシーに向かって抜き打つように投げ放った。
(背中からちょっと見えてたのはブーメランか)
夜を山中を弧を描いて飛ぶ物を、ルーシーの夜目は正確に捕捉していた。
(と、なれば―――)
死角に回り込んで迫り来るブーメランを、ルーシーはあえて避けてみせた。
そこへ避けることを見越していたマスクマンが、手斧を振り上げて突撃してくる。
ルーシーは牙を見せて微笑った。
(思ったとおり)
マスクマンの手斧が届く前に、ルーシーは地面を強く蹴り上げた。
人間を超えた力で蹴られた地面は、土石流のようにマスクマンに襲いかかり、突進の勢いを完全に殺した。
そこへルーシーが逆に攻撃を仕掛ける。
吸血鬼特有の鋭い牙が、マスクマンの肩口に噛みつこうと迫る。
「!」
マスクマンはとっさに左腕を前に出し、ルーシーに手首あたりを噛ませた。
牙は深々とマスクマンの手首に食い込むが、すかさずマスクマンは手斧を振りかぶり、ルーシーの左の鎖骨を目がけて打ち下ろした。
こちらも人間以上の力による一撃であり、斧の刃先は鎖骨を割り、肋骨を砕き、心臓にまで達していた。
決着がついたと確信したマスクマンだったが、
「!?」
噛み付いたままのルーシーの目元が笑う様を見て、またも得体の知れない怖気を感じた。
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