小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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竜の恩讐編

フランケンシュタインの夢 その1

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 霧の中にぽっかりといた道を、ヴィクトリアは無表情にひたすら進み続けていた。
 ヴィクトリアの感覚としては、山頂へと近付いているのは間違いなかった。
 霧そのものは自然現象によるものと大差はなかったらしい。
「…、…」
 示された道を一歩一歩進みながら、ヴィクトリアは少し考え事をしていた。
 千春ちはるけ負う『仕事』について、ヴィクトリアは常にドライな気分で向き合い続けている。
 なので、それは『仕事』中のヴィクトリアにしては珍しく、あるいは霧の中という状況がそうさせたのかもしれない。
 報酬および一部の標的ターゲットを実験に使用できる権利。
 それが、ヴィクトリアが千春の『仕事』に協力する理由だった。
 ただ、今回の内容に限っては、ヴィクトリアは依頼を受けたこと、正確には千春をリズベルに紹介したことを、わずかに後悔していた。
 旧知である播海繋鴎はるみけいおうからつなぎを頼まれたとはいえ、今回の『仕事』は複雑の極みにある。
 標的ターゲットにしても、その始末の方法にしても、何より依頼者リズベルに関してが最も割合が大きい。
 ヴィクトリアは患者の事情に深入りしないが、一切の事情を無視しているわけでもない。
 たとえ十数年前の施術せじゅつであったとしても、自身が関わった患者のことは記憶している。
 山道を踏みしめながら、ヴィクトリアのぎの脳組織は、『ピオニーア・ジェラグ』のカルテを思い出していた。三年前のものと、十数年前のものを。
「っ!」
 まされた刃物のような鋭い気配を感じ、ヴィクトリアは山道を進んでいた足を止めた。
 進行方向を見れば、上から下まで白一色で統一したメイド服の少女が、静かにたたずんでいた。右手には肉厚の日本刀、左手には頑丈そうな両手剣を持って。
「あなた、が、私、の、相手?」
 ヴィクトリアが質問すると、
「そ、う」
 白いメイドの少女、シロガネは答えた。
「…、…」
 返答を聞いたヴィクトリアは、無言で背負っていた大型のケースを置き、ふたを開いて準備をする。
 シロガネはほとんど表情を動かさなかったが、その奥にあるやいばのような殺気から、ヴィクトリアは戦闘が必至であるとさとった。
 右腕の接続機コネクターはずし、ケースにおさめられた得物えもの接続機コネクターに合わせ、装着する。
 裏ルートでジャンク品同然で流れていた物を、ヴィクトリアが買い付け、修復、改造。
 これまで数えるほどしか使用したことがない、ヴィクトリアが持つ交換武装アタッチメントの中でも、極めて強力な代物。
「ふしゅ~……」
 本体を始め18kgを超える超重量を、直接接続した右腕と、本体上部に備えられた取っ手を握る左手で持ち上げ、同時に給弾ベルトが軽快な金属音を鳴らす。
はちの巣になれやあああ!」
 電気バッテリー式の動力がうなりを上げ、六連装の銃身を高速回転させる。
 M61A1バルカンを小型化したM134、通称ミニガンと呼ばれる兵器の銃声が、霧の山中にひびき渡った。
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