小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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竜の恩讐編

決戦場 その1

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 進むにつれて霧は徐々に晴れていき、気付けば車両は閑散とした田舎いなかの道路へと変わっていた。
 元は村落でもあったのか、道路脇には荒地と化した田畑や、崩れかかった家屋が見て取れる。
 道路自体もあまり整備されているとは言えず、アスファルトの皹割ひびわれは顕著だった。
 だが、そんな道であってもキュウと千夏ちなつが乗った人力車を先頭に、千春ちはるたちのリムジンと、クドの乗る小型車は問題なく進んでいる。揺れ一つなく・・・・・・
「あ―――」
 不意にルーシーが声を出した。
 リムジンを追っていた小型車が、脇道に進路を変え、去って行ったからだ。
「放っておいていいの?」
 小型車のヘッドライトの明かりが見えなくなると、ルーシーはそれとなく千春に聞いた。
「お目付け役なんてどうでもいいわ。それより―――」
 千春は空になったワイングラスを座席のサイドテーブルに置くと、
「―――見えてきた」
 進行方向にそびえる小高い山を見た。
「ご丁寧ていねいあつらえてくれた舞台が」
 近付きつつある山をながめながら、千春は口角を上げて歯をきだした。

 アスファルトが途切れ、完全にあぜ道となったところで、キュウの人力車は停止した。
 それに合わせ、千春たちのリムジンも並んで停車する。
 先に人力車から降りていたキュウと千夏が、山のふもとにある入り口らしき場所で待機していた。
 千春たちもリムジンを降り、山を見上げてみる。
 標高はそれほど高くなく、傾斜けいしゃゆるやかに思えるが、ただの山ではないことは一目いちもくで感じ取れた。
 強烈な殺気が山全体から漂い出ていたからだ。
「やっぱりタダらせてくれるわけないか。みんな、一番いい得物えもの準備して」
 千春の指示で、それぞれがリムジンのトランクや隠し収納から、布やケースにおさめられた物を取り出した。
「じゃあ、行こっか」
 自らの得物もたずさえた千春が先頭に立ち、山の入り口へと五人は歩き出した。
 千春たちを待っていたキュウは、広げたおうぎを口元にかざすと、非常に美しい動作で頭を下げた。
「ようこそ、我が天逐山てんぢくざんへ」
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