355 / 419
竜の恩讐編
それぞれの向き合い方 その1
しおりを挟む
見つめていた自身の両手をぐっと握り、媛寿は追憶を断ち切った。
「媛寿、もしかしてどこか痛いの?」
媛寿がしばらく黙っていたことで、心配したクロランはしきりに媛寿の顔を覗き込んでいた。
「……だいじょうぶ、えんじゅはだいじょうぶだよ、くろらん」
媛寿はクロランを落ち着かせようと頭を撫でてやるが、クロランは余計に不安を募らせてしまった。
心配させまいと撫でてくれている媛寿の笑顔が、あまりにも無理をしているように見えたからだ。
「……くろらん、ちょっとむこうのおへやいってて」
媛寿が指差したのは、クロランが元々控えていた空き部屋だった。
クロランはその意味に気付き、すぐに声を出そうとしたが、
「―――クロラン」
媛寿に制され、喉元まで出かかった言葉を飲み込むしかなかった。
「……おねがい」
額を軽く合わせてそう言われたクロランは、獣耳を下げながら静かに空き部屋へと向かって行った。
クロランが廊下の角を曲がっていく姿を見届けた媛寿は、拝殿に上がると、口元を引き締めて歩き出した。
結城が居るであろう部屋へ。
「……Rξ? IΛ(……本気か? それ)」
結城の話を聞き終わり、最初に確認を取ったのはマスクマンだった。
「そのことで媛寿に伝言をお願いした。たぶん……相手は断らないと思う」
「……、……」
結城の返答を聞き、シロガネは相変わらず無表情だったが、拳だけは震えるほど強く握られていた。
「結城さん、私もそれなりに人間を知っていますけど……それってすごく屈折してると言いますか……」
「お前がそこまでする必要ないと思うぞ、あたしも」
キュウと千夏も、あまり態度には出していないが、結城の選択に納得していないようだった。
「―――ユウキ」
それまで目を閉じて沈黙していたアテナが、ようやく声を出して結城に問いかけた。
「それが、正しくないことと知って、あなたは選んだのですか?」
ここまで全てを聞き届けたアテナは、この場の誰よりも冷静な態度でいた。もはや、冷徹ですらある。
「ピオニーアなる者が、果たしてどうなったのか、それをあなたは知り得ない。それでもなお、あなたはそのような選択を取るというのですか?」
「媛寿が、嘘を言うはずはありません。それに……」
『ピオニーアさんが亡くなったのは……僕のせいなの?』、そう媛寿に聞いた時のことを結城は思い出していた。
媛寿はその時、確かに頷いてみせた。
「ピオニーアさんが亡くなったのが僕のせいなら……僕には『応える』責任があると思うから……」
短剣を突き入れられた箇所に手を添えながら、結城は悲しげにそう告げる。
「僕の命が明後日までだっていうなら……僕は、こういう命の使い方でいい」
結城のその言葉を聞いたカメーリアは、誰にも覚られないように目を伏せた。
そして後悔した。結城に余命を伝えるべきではなかった、と。
「これは、本当に僕個人のことだから、力を貸してとは言えない。ただ……目的の場所まで運ぶだけはお願いしたい。この身体じゃ、もうまともに歩けそうにないから」
頭を下げてくる結城に、各々が視線を向ける。
しばらくは声を発する者はいなかったが、
「……『運ぶまで』、で良いのですね?」
それを最初に破ったのはアテナだった。
「あなたをその場所へ運ぶまで良いのなら、承諾しましょう」
「……はい、ありがとうございます、アテナ様」
アテナと結城のやり取りを見ていたマスクマンとシロガネだったが、やがてあることに気付き、
「MΞ5→(俺も付き合おう)」
「ワタシ、も」
アテナに続いて賛同した。
「二人とも、ありがとう」
マスクマンとシロガネにも、結城は礼を述べて頭を下げた。
話がそこまで進んだところで、部屋の障子が静かに開いた。
ようやく収まってきた夜の雨を背に、媛寿が廊下に立っていた。
「媛寿、もしかしてどこか痛いの?」
媛寿がしばらく黙っていたことで、心配したクロランはしきりに媛寿の顔を覗き込んでいた。
「……だいじょうぶ、えんじゅはだいじょうぶだよ、くろらん」
媛寿はクロランを落ち着かせようと頭を撫でてやるが、クロランは余計に不安を募らせてしまった。
心配させまいと撫でてくれている媛寿の笑顔が、あまりにも無理をしているように見えたからだ。
「……くろらん、ちょっとむこうのおへやいってて」
媛寿が指差したのは、クロランが元々控えていた空き部屋だった。
クロランはその意味に気付き、すぐに声を出そうとしたが、
「―――クロラン」
媛寿に制され、喉元まで出かかった言葉を飲み込むしかなかった。
「……おねがい」
額を軽く合わせてそう言われたクロランは、獣耳を下げながら静かに空き部屋へと向かって行った。
クロランが廊下の角を曲がっていく姿を見届けた媛寿は、拝殿に上がると、口元を引き締めて歩き出した。
結城が居るであろう部屋へ。
「……Rξ? IΛ(……本気か? それ)」
結城の話を聞き終わり、最初に確認を取ったのはマスクマンだった。
「そのことで媛寿に伝言をお願いした。たぶん……相手は断らないと思う」
「……、……」
結城の返答を聞き、シロガネは相変わらず無表情だったが、拳だけは震えるほど強く握られていた。
「結城さん、私もそれなりに人間を知っていますけど……それってすごく屈折してると言いますか……」
「お前がそこまでする必要ないと思うぞ、あたしも」
キュウと千夏も、あまり態度には出していないが、結城の選択に納得していないようだった。
「―――ユウキ」
それまで目を閉じて沈黙していたアテナが、ようやく声を出して結城に問いかけた。
「それが、正しくないことと知って、あなたは選んだのですか?」
ここまで全てを聞き届けたアテナは、この場の誰よりも冷静な態度でいた。もはや、冷徹ですらある。
「ピオニーアなる者が、果たしてどうなったのか、それをあなたは知り得ない。それでもなお、あなたはそのような選択を取るというのですか?」
「媛寿が、嘘を言うはずはありません。それに……」
『ピオニーアさんが亡くなったのは……僕のせいなの?』、そう媛寿に聞いた時のことを結城は思い出していた。
媛寿はその時、確かに頷いてみせた。
「ピオニーアさんが亡くなったのが僕のせいなら……僕には『応える』責任があると思うから……」
短剣を突き入れられた箇所に手を添えながら、結城は悲しげにそう告げる。
「僕の命が明後日までだっていうなら……僕は、こういう命の使い方でいい」
結城のその言葉を聞いたカメーリアは、誰にも覚られないように目を伏せた。
そして後悔した。結城に余命を伝えるべきではなかった、と。
「これは、本当に僕個人のことだから、力を貸してとは言えない。ただ……目的の場所まで運ぶだけはお願いしたい。この身体じゃ、もうまともに歩けそうにないから」
頭を下げてくる結城に、各々が視線を向ける。
しばらくは声を発する者はいなかったが、
「……『運ぶまで』、で良いのですね?」
それを最初に破ったのはアテナだった。
「あなたをその場所へ運ぶまで良いのなら、承諾しましょう」
「……はい、ありがとうございます、アテナ様」
アテナと結城のやり取りを見ていたマスクマンとシロガネだったが、やがてあることに気付き、
「MΞ5→(俺も付き合おう)」
「ワタシ、も」
アテナに続いて賛同した。
「二人とも、ありがとう」
マスクマンとシロガネにも、結城は礼を述べて頭を下げた。
話がそこまで進んだところで、部屋の障子が静かに開いた。
ようやく収まってきた夜の雨を背に、媛寿が廊下に立っていた。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説


ここは貴方の国ではありませんよ
水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。
厄介ごとが多いですね。
裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。
※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。
転生した元社畜ですがタッチの差で勇者の座を奪われたので紆余曲折あって魔王代理になりました ~魔王城の雑用係の立身出世術~
きのと
ファンタジー
社畜だった俺が転生したのは、大人気RPG『ワイバーン・クエスト』。これからは勇者としてがんがんチートする予定が、なぜか偽勇者として追われる羽目に。行く場をなくした俺は魔王城で見習い雑用係として働くことになったが、これが超絶ホワイトな職場環境!元気すぎるウサ耳の相棒、頼りがいある上司、セクシーなお姉さまモンスターに囲まれて充実した毎日を送っていた。ところがある日、魔王様に呼び出されて魔王城の秘密を打ち明けられる。さらに魔王代理を仰せつかってしまった。そんな大役、無理だから!どうなる、俺の見習いライフ⁉

もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?

王女、豹妃を狩る
遠野エン
ファンタジー
ベルハイム王国の王子マルセスは身分の差を超えて農家の娘ガルナと結婚を決意。王家からは驚きと反対の声が上がるが、マルセスはガルナの自由闊達な魅力に惹かれ押し切る。彼女は結婚式で大胆不敵な豹柄のドレスをまとい、周囲をあ然とさせる。
ガルナは王子の妻としての地位を得ると、侍女や家臣たちを手の平で転がすかのように振る舞い始める。王宮に新しい風を吹かせると豪語し、次第に無茶な要求をし出すようになる。
マルセスの妹・フュリア王女はガルナの存在に潜む危険を察知し、独自に調査を開始する。ガルナは常に豹柄の服を身にまとい人々の視線を引きつけ、畏怖の念を込めて“豹妃”というあだ名で囁かれるのだった。

貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
スーパー忍者・タカシの大冒険
Selfish
ファンタジー
時は現代。ある日、タカシはいつものように学校から帰る途中、目に見えない奇妙な光に包まれた。そして、彼の手の中に一通の封筒が現れる。それは、赤い文字で「スーパー忍者・タカシ様へ」と書かれたものだった。タカシはその手紙を開けると、そこに書かれた内容はこうだった。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる