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竜の恩讐編
それぞれの向き合い方 その1
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見つめていた自身の両手をぐっと握り、媛寿は追憶を断ち切った。
「媛寿、もしかしてどこか痛いの?」
媛寿がしばらく黙っていたことで、心配したクロランはしきりに媛寿の顔を覗き込んでいた。
「……だいじょうぶ、えんじゅはだいじょうぶだよ、くろらん」
媛寿はクロランを落ち着かせようと頭を撫でてやるが、クロランは余計に不安を募らせてしまった。
心配させまいと撫でてくれている媛寿の笑顔が、あまりにも無理をしているように見えたからだ。
「……くろらん、ちょっとむこうのおへやいってて」
媛寿が指差したのは、クロランが元々控えていた空き部屋だった。
クロランはその意味に気付き、すぐに声を出そうとしたが、
「―――クロラン」
媛寿に制され、喉元まで出かかった言葉を飲み込むしかなかった。
「……おねがい」
額を軽く合わせてそう言われたクロランは、獣耳を下げながら静かに空き部屋へと向かって行った。
クロランが廊下の角を曲がっていく姿を見届けた媛寿は、拝殿に上がると、口元を引き締めて歩き出した。
結城が居るであろう部屋へ。
「……Rξ? IΛ(……本気か? それ)」
結城の話を聞き終わり、最初に確認を取ったのはマスクマンだった。
「そのことで媛寿に伝言をお願いした。たぶん……相手は断らないと思う」
「……、……」
結城の返答を聞き、シロガネは相変わらず無表情だったが、拳だけは震えるほど強く握られていた。
「結城さん、私もそれなりに人間を知っていますけど……それってすごく屈折してると言いますか……」
「お前がそこまでする必要ないと思うぞ、あたしも」
キュウと千夏も、あまり態度には出していないが、結城の選択に納得していないようだった。
「―――ユウキ」
それまで目を閉じて沈黙していたアテナが、ようやく声を出して結城に問いかけた。
「それが、正しくないことと知って、あなたは選んだのですか?」
ここまで全てを聞き届けたアテナは、この場の誰よりも冷静な態度でいた。もはや、冷徹ですらある。
「ピオニーアなる者が、果たしてどうなったのか、それをあなたは知り得ない。それでもなお、あなたはそのような選択を取るというのですか?」
「媛寿が、嘘を言うはずはありません。それに……」
『ピオニーアさんが亡くなったのは……僕のせいなの?』、そう媛寿に聞いた時のことを結城は思い出していた。
媛寿はその時、確かに頷いてみせた。
「ピオニーアさんが亡くなったのが僕のせいなら……僕には『応える』責任があると思うから……」
短剣を突き入れられた箇所に手を添えながら、結城は悲しげにそう告げる。
「僕の命が明後日までだっていうなら……僕は、こういう命の使い方でいい」
結城のその言葉を聞いたカメーリアは、誰にも覚られないように目を伏せた。
そして後悔した。結城に余命を伝えるべきではなかった、と。
「これは、本当に僕個人のことだから、力を貸してとは言えない。ただ……目的の場所まで運ぶだけはお願いしたい。この身体じゃ、もうまともに歩けそうにないから」
頭を下げてくる結城に、各々が視線を向ける。
しばらくは声を発する者はいなかったが、
「……『運ぶまで』、で良いのですね?」
それを最初に破ったのはアテナだった。
「あなたをその場所へ運ぶまで良いのなら、承諾しましょう」
「……はい、ありがとうございます、アテナ様」
アテナと結城のやり取りを見ていたマスクマンとシロガネだったが、やがてあることに気付き、
「MΞ5→(俺も付き合おう)」
「ワタシ、も」
アテナに続いて賛同した。
「二人とも、ありがとう」
マスクマンとシロガネにも、結城は礼を述べて頭を下げた。
話がそこまで進んだところで、部屋の障子が静かに開いた。
ようやく収まってきた夜の雨を背に、媛寿が廊下に立っていた。
「媛寿、もしかしてどこか痛いの?」
媛寿がしばらく黙っていたことで、心配したクロランはしきりに媛寿の顔を覗き込んでいた。
「……だいじょうぶ、えんじゅはだいじょうぶだよ、くろらん」
媛寿はクロランを落ち着かせようと頭を撫でてやるが、クロランは余計に不安を募らせてしまった。
心配させまいと撫でてくれている媛寿の笑顔が、あまりにも無理をしているように見えたからだ。
「……くろらん、ちょっとむこうのおへやいってて」
媛寿が指差したのは、クロランが元々控えていた空き部屋だった。
クロランはその意味に気付き、すぐに声を出そうとしたが、
「―――クロラン」
媛寿に制され、喉元まで出かかった言葉を飲み込むしかなかった。
「……おねがい」
額を軽く合わせてそう言われたクロランは、獣耳を下げながら静かに空き部屋へと向かって行った。
クロランが廊下の角を曲がっていく姿を見届けた媛寿は、拝殿に上がると、口元を引き締めて歩き出した。
結城が居るであろう部屋へ。
「……Rξ? IΛ(……本気か? それ)」
結城の話を聞き終わり、最初に確認を取ったのはマスクマンだった。
「そのことで媛寿に伝言をお願いした。たぶん……相手は断らないと思う」
「……、……」
結城の返答を聞き、シロガネは相変わらず無表情だったが、拳だけは震えるほど強く握られていた。
「結城さん、私もそれなりに人間を知っていますけど……それってすごく屈折してると言いますか……」
「お前がそこまでする必要ないと思うぞ、あたしも」
キュウと千夏も、あまり態度には出していないが、結城の選択に納得していないようだった。
「―――ユウキ」
それまで目を閉じて沈黙していたアテナが、ようやく声を出して結城に問いかけた。
「それが、正しくないことと知って、あなたは選んだのですか?」
ここまで全てを聞き届けたアテナは、この場の誰よりも冷静な態度でいた。もはや、冷徹ですらある。
「ピオニーアなる者が、果たしてどうなったのか、それをあなたは知り得ない。それでもなお、あなたはそのような選択を取るというのですか?」
「媛寿が、嘘を言うはずはありません。それに……」
『ピオニーアさんが亡くなったのは……僕のせいなの?』、そう媛寿に聞いた時のことを結城は思い出していた。
媛寿はその時、確かに頷いてみせた。
「ピオニーアさんが亡くなったのが僕のせいなら……僕には『応える』責任があると思うから……」
短剣を突き入れられた箇所に手を添えながら、結城は悲しげにそう告げる。
「僕の命が明後日までだっていうなら……僕は、こういう命の使い方でいい」
結城のその言葉を聞いたカメーリアは、誰にも覚られないように目を伏せた。
そして後悔した。結城に余命を伝えるべきではなかった、と。
「これは、本当に僕個人のことだから、力を貸してとは言えない。ただ……目的の場所まで運ぶだけはお願いしたい。この身体じゃ、もうまともに歩けそうにないから」
頭を下げてくる結城に、各々が視線を向ける。
しばらくは声を発する者はいなかったが、
「……『運ぶまで』、で良いのですね?」
それを最初に破ったのはアテナだった。
「あなたをその場所へ運ぶまで良いのなら、承諾しましょう」
「……はい、ありがとうございます、アテナ様」
アテナと結城のやり取りを見ていたマスクマンとシロガネだったが、やがてあることに気付き、
「MΞ5→(俺も付き合おう)」
「ワタシ、も」
アテナに続いて賛同した。
「二人とも、ありがとう」
マスクマンとシロガネにも、結城は礼を述べて頭を下げた。
話がそこまで進んだところで、部屋の障子が静かに開いた。
ようやく収まってきた夜の雨を背に、媛寿が廊下に立っていた。
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