小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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竜の恩讐編

三年前にて…… その13

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 九木くきが探り当てた場所へ地図を確認しながら向かうと、結城ゆうき媛寿えんじゅは九木の言っていた通り、雑木林に行き着いた。
 あまり手入れなどはされておらず、木々の根元から生えている雑草も伸び放題な様相だった。
「ここに入っていったってこと?」
 見たところ誰かが出入りしているような跡もなく、結城はあたりを見回していると、
「ゆうき、こっちこっち」
 少し離れたところで、媛寿が結城を手招きしていた。
「どうしたの、媛寿?」
「これこれ」
 媛寿が指差したところをよく見ると、ほとんど雑草に埋もれてしまっているが、人の足が収まるほどの小さな飛び石が、まるで歩幅に合わせるように点々と続いていた。
「ここを通って行ったのかな?」
「ゆうき、いこ」
 媛寿は左袖ひだりそでから『いちまんきろ木槌ハンマー』を取り出すと、それで雑草を用心深くけながら進んでいく。
 結城も地図の方向を確認し、媛寿とともに飛び石の続く雑木林に分け入っていった。

「ゆうき、まって」
 数十メートルほどの距離を進み、雑木林のかなり深くまで来たところで、結城は媛寿に制止された。
 結城が地図に落としていた目を正面に向けると、媛寿の視線の向こう、林の中にひっそりとたたずむ洋館があった。
 相当に古いのか、ところどころちており、林から伸びたつたが外壁にからみついた様は、ほとんど人が使用しているとは思えない。
 だが、九木のダウジングが示したのは、雑木林のほぼ真ん中であり、ここまでの道程みちのりを照らし合わせると、最も有力なのは目の前の洋館だった。
「この中に依頼者あのひとがいるのかな」
 ここまで来ると、結城も依頼者の素性をいよいよ信用できなくなってきた。
 ただ、こんな場所に出入りしている上に、嘘の素性を語ってピオニーアをさがしているとなると、もはや一般人ではないという予感もある。
 いくらピオニーアが警察に会いたくない理由があるのだとしても、これは九木に応援を要請した方がいいのではないか。
 結城がそう思い始めていた時、
「ゆうき、ちょっといってみよ」
 媛寿がさきんじて歩を進めていた。
「え、媛寿!? まだいきなり行くのは危ないんじゃないかな」
「ほんとにあぶなかったら九木けーさつよんだらいい……ぴおにーあにはわるいけど」
「う……う~ん」
 少し先走り過ぎているとも思えたが、実際にピオニーアにどの程度の危機がせまっているのかも分からず、警察が動いてくれるだけの証拠もない。
 そして媛寿の言葉が本当なら、九木は今日の記憶がなくなっているはずなので、余計に動いてもらう証拠が必要に思えてきた。
「分かった。ほんのちょっとだけね」
「だいじょーぶ。ゆうきはえんじゅがまもる」
 姿勢を低くし、雑草にまぎれて洋館へと近付く結城と媛寿。
 だが、二人は気付いていなかった。別の方向から、洋館へと向かう姿を見つめる目があったことを。

 その頃、
「はっ――――――あれ? オレ、何でこんなところにいるんだ? あんパンと牛乳まで持って。張り込みの途中で寝てたのか? おっかしいな~、署にいたはずなんだけど……」
 不可思議な状況に首をかしげながら、九木は駅の改札まで歩いていった。

 テーブルに広げられた資料を、ピオニーアは速読に等しいスピードで目を通していく。
「三ヶ月前までの日本への入国者。欧州ヨーロッパ限定でもかなりの人数がいるはずだが?」
「名前と顔写真さえわかれば問題ありません」
 姓名と顔写真、簡単な個人情報だけが、一枚にびっしりと記載された資料を、ピオニーアはすでに数十枚分も目を通し終わっていた。
「いた! いました! やっぱり名前は変えても顔までは変えていなかった!」
「そいつが君を追ってきた奴か?」
「至急、この人物が空港に着いてからどこに向かったのか調べてください」
「ああ。警察に伝手つてがあるから、IRシステムで追ってもらうよ」
 ピオニーアからの要求を了承すると、繋鴎けいおうは足早に部屋を出た。
 部屋に一人だけとなったピオニーアは、テーブルの上にある資料を、その中にた写真を、哀しそうな目でもう一度見つめた。
日本ここに来たということは、私の秘密が明らかになってしまったんですね……コチニール」
 窓際の机に置かれた本のページが、十月の冷えた風に吹かれてめくられる。

『十三番目の竜とテルマーは一緒に旅をした。一頭と一人はとても楽しい旅を続けていたが、竜は忘れてしまっていた。自分は竜で、テルマーは人間だったことを』
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