小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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竜の恩讐編

三年前にて…… その7

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「いいよ」
 そう短く答えた媛寿えんじゅに、ピオニーアは安心して目を閉じようとしたが、
「ただし」
 媛寿の続く言葉に、閉じかけた目を再び開いた。
「えんじゅからもやくそく」
 後ろから抱きすくめているピオニーアに、媛寿はもたれかかるように少し体重を預けた。
「もしゆうきにすきっていうときは、えんじゅにもこえかけて。えんじゅもいっしょにすきっていうから」
 媛寿からの予想外の提案に驚いたピオニーアは、数秒ほど目を丸くして固まってしまった。
「? どしたのぴおにーあ?」
「あ―――ごめんなさい。ちょっとビックリしちゃって。えっと……媛寿ちゃんと私が、同時に結城ゆうきさんに告白するっていうこと、ですよね?」
「そう」
「……もし、結城さんが私の告白を受け入れたら、媛寿ちゃんはどうするんですか?」
「え? どうもしないよ? ゆうきやぴおにーあといっしょにいる」
「……じゃあ、私が結城さんに断られたら?」
「ゆうきはそんなことしない。だからぴおにーあはえんじゅやゆうきとこれからもいっしょ。その……えんじゅもぴおにーあのこと……けっこうすきだし」
 ピオニーアはさらに驚いた。媛寿の出した答えは、全てがピオニーアの想像を超えるものばかりだった。
 自身が想定していた未来も、不安も、座敷童子ざしきわらしの、いや、媛寿という永遠のお子様の前には足元にも及ばない。
 そう気付いた時、
「ふ……ふふ……くす……」
 ピオニーアは自然と笑いがこみ上げてきた。
「くふふ……あはは……」
「ぴ、ぴおにーあどしたの? まだえんじゅくすぐってないよ?」
 急に笑い始めたピオニーアに驚き、媛寿は先ほどのくすぐりの仕返しに使おうとしていた羽ボウキを左袖ひだりそでに収めてしまった。
「う……ふふ……何でもありませんよ。媛寿ちゃんのことも本気で好きになっちゃいそうって思っただけです」
「へ? なにそれ、へんなの」
 笑いで出た涙を指でぬぐうピオニーアを、媛寿が怪訝けげんな顔で見ていると、
「お~い、媛寿~」
 紙コップを持った結城が祭り客の波からい出してきた。
「いや~、大変だったよ。かかりの人に紙コップとお水もらえたまではよかったんだけど、途中で人混みに押されて金魚すくいの水槽に頭つっこんじゃったり、ヨーヨー釣りの水槽に頭つっこんじゃったり―――って、二人ともどうしたの?」
 戻ってきた結城は、ピオニーアのひざの上にいる媛寿を見て目を丸くした。
 媛寿と出逢であって以降、媛寿が他の誰かの膝に座っているところを、結城は一度も見たことがなかったからだ。
「媛寿、もう頭は痛くないの?」
「あ、うん。もうなおった」
「そっか。なら良かったよ―――あ! もしかして僕がいない間にピオニーアさんに何か悪戯イタズラしようとしてた?」
「そんなことないですよ。女の子同士で楽しくお話してただけですよ」
「はわっ! ぴ、ぴおにーあ!?」
 なぜかピオニーアはかなり上機嫌で、媛寿の後頭部にほおり寄せ、媛寿を困惑させていた。
「う~ん、よく分からないけど、まぁ、いっか。それよりも『カラアゲちゃん』の屋台で追加ががったみたいだよ?」
「からあげちゃん! たべたいたべたい! いこ! ぴおにーあ! ゆうき!」
 揚げたての唐揚げを想像して我慢できなくなった媛寿は、ピオニーアの膝から降りると、ピオニーアと結城の手を取って屋台へと走り出した。
 結城がなぜか祭り客のひじばかりにぶつかる中、ピオニーアは自身の手を引く媛寿の小さな手を見て、記憶の彼方かなたにある手を思い出していた。
 故郷に残してきた、そのいとしき者の手のことを。

「その話、間違いないんだな?」
「ああ。連絡コンタクトを取ってきた奴が、血液サンプルも送ってきた。モグリの霊媒医師にせたら、相当驚いてたから本物だ」
「その霊媒医師は?」
「もちろん始末した。この秘密を知ってるのは少ない方がいいからな」
流石さすがは我が弟だ。が、話に乗ったとしても、後々あとあと二十八家にじゅうはっけ』から追われるのではな……」
「安心しろ、兄貴。事が済んだら『敷岐内家しきうちけ』が全ての家を黙らせる」
「そうだな。必ず・・そうなるな。ふふふ」
「くくく」
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