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竜の恩讐編
三年前にて…… その5
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結城の伝言を伝えた媛寿は、クロランを伴い、金毛稲荷神宮へと歩いていた。
だが、その表情は沈みきり、足取りもようやく歩を進められているという、まるで生ける屍のような有様だった。
クロランも、そんな媛寿の様子を見るのは初めてであり、どう話しかけていいかも分からず、不安そうに数歩離れてついていくしかできなかった。
暗い街路を彷徨うように歩く媛寿の脳裏には、三年前の思い出が何度となく繰り返されていた。
結果として、ピオニーアの推理はほとんど当たっていた。
聖フランケンシュタイン大学病院から手紙を出していたのは、小児科に入院していた少女であり、手紙は別々に引き取られた姉に送ったものだった。
姉妹二人の思い入れが深かった絵本を元に、離れ離れになってからも暗号でやり取りをしており、偶然、一通分の手紙が里親の手に渡り、結城たちに依頼が来たという経緯だ。
少し難しい手術をする旨を暗号で伝えられていた姉は、手術の成否を報せる手紙が来ないことに不安を募らせていたが、結城たちが事の子細を伝えると安心した様子だった。
この一件以降、結城、媛寿、ピオニーアの三人は、持ち込まれる様々な依頼や事件と対峙していくことになる。
日本有数の名家の当主に噂される、不老不死の真相を確かめてみれば、かつて当主に世話になった猫が変化の術を覚えて成りすましていた『不死貴族事件』。
誰も使ったはずのない旧紙幣が多く出回りだし、その流通路を辿って見つけたのは、盗難に遭ったまま誰にも使われずに放置された旧紙幣の反乱だったという『金霊の暴走事件』。
はたまた旧家の遺産相続の最中に起こった『首塚家連続殺人事件』。
どれも世間を騒がせたり、不要な混乱を避けるために静かに幕引きが成されたりしたが、いずれも結城たちの活躍によって解決された事件であることを、当人たちと一部の者たちだけしか知らない。
そうして二ヶ月ほど経った頃、一時期、媛寿の機嫌が良くなかった時があった。
「む~~~」
「どしたの媛寿? かき氷と睨めっこして」
ベンチに座った浴衣姿の媛寿は、なぜか先ほど屋台で買ったメロンシロップのかき氷を、難しい顔をして睨んでいた。
近くで夏祭りが催されるということで、結城、媛寿、ピオニーアの三人は、『獄悪島事件』の解決を祝って、屋台巡りをしようと祭りに赴いていた。
だが、いつもなら祭りと聞けばイの一番に大はしゃぎする媛寿が、どういうわけか今日は静かにしている。
定番のかき氷ですら、すぐには手をつけず、睨めっこを決め込んでいる始末だった。
「もしかして調子が悪いの? 夏バテ?」
「ちがう……けど……」
媛寿は結城とは反対方向に目を向けた。
媛寿の隣には、浴衣に身を包んだピオニーアが、いちごシロップのかき氷を笑顔で堪能していた。
ピオニーアに覚られないよう、媛寿はピオニーアの上から下までを見通した。
煌くプラチナブロンドの長髪、緑玉のような翠の瞳、線の細い整った顔立ち、浴衣を着ているが故に判るスタイルの良さ。
普段は地味なブラウスやロングスカートでいることが多いが、ピオニーアは充分に美人といえる。
「? 媛寿ちゃんもいちごのかき氷を食べたいんですか?」
そう言って柔和に微笑んでくるピオニーアは、媛寿から見ても、容姿、内面ともに魅力的だった。
「ち、ちがうもん! えんじゅはかきごおりはめろんってきめてるから!」
それが判るからこそ、媛寿としては気が気でなかったのだ。
結城がピオニーアに取られてしまうのではないか、と。
だが、その表情は沈みきり、足取りもようやく歩を進められているという、まるで生ける屍のような有様だった。
クロランも、そんな媛寿の様子を見るのは初めてであり、どう話しかけていいかも分からず、不安そうに数歩離れてついていくしかできなかった。
暗い街路を彷徨うように歩く媛寿の脳裏には、三年前の思い出が何度となく繰り返されていた。
結果として、ピオニーアの推理はほとんど当たっていた。
聖フランケンシュタイン大学病院から手紙を出していたのは、小児科に入院していた少女であり、手紙は別々に引き取られた姉に送ったものだった。
姉妹二人の思い入れが深かった絵本を元に、離れ離れになってからも暗号でやり取りをしており、偶然、一通分の手紙が里親の手に渡り、結城たちに依頼が来たという経緯だ。
少し難しい手術をする旨を暗号で伝えられていた姉は、手術の成否を報せる手紙が来ないことに不安を募らせていたが、結城たちが事の子細を伝えると安心した様子だった。
この一件以降、結城、媛寿、ピオニーアの三人は、持ち込まれる様々な依頼や事件と対峙していくことになる。
日本有数の名家の当主に噂される、不老不死の真相を確かめてみれば、かつて当主に世話になった猫が変化の術を覚えて成りすましていた『不死貴族事件』。
誰も使ったはずのない旧紙幣が多く出回りだし、その流通路を辿って見つけたのは、盗難に遭ったまま誰にも使われずに放置された旧紙幣の反乱だったという『金霊の暴走事件』。
はたまた旧家の遺産相続の最中に起こった『首塚家連続殺人事件』。
どれも世間を騒がせたり、不要な混乱を避けるために静かに幕引きが成されたりしたが、いずれも結城たちの活躍によって解決された事件であることを、当人たちと一部の者たちだけしか知らない。
そうして二ヶ月ほど経った頃、一時期、媛寿の機嫌が良くなかった時があった。
「む~~~」
「どしたの媛寿? かき氷と睨めっこして」
ベンチに座った浴衣姿の媛寿は、なぜか先ほど屋台で買ったメロンシロップのかき氷を、難しい顔をして睨んでいた。
近くで夏祭りが催されるということで、結城、媛寿、ピオニーアの三人は、『獄悪島事件』の解決を祝って、屋台巡りをしようと祭りに赴いていた。
だが、いつもなら祭りと聞けばイの一番に大はしゃぎする媛寿が、どういうわけか今日は静かにしている。
定番のかき氷ですら、すぐには手をつけず、睨めっこを決め込んでいる始末だった。
「もしかして調子が悪いの? 夏バテ?」
「ちがう……けど……」
媛寿は結城とは反対方向に目を向けた。
媛寿の隣には、浴衣に身を包んだピオニーアが、いちごシロップのかき氷を笑顔で堪能していた。
ピオニーアに覚られないよう、媛寿はピオニーアの上から下までを見通した。
煌くプラチナブロンドの長髪、緑玉のような翠の瞳、線の細い整った顔立ち、浴衣を着ているが故に判るスタイルの良さ。
普段は地味なブラウスやロングスカートでいることが多いが、ピオニーアは充分に美人といえる。
「? 媛寿ちゃんもいちごのかき氷を食べたいんですか?」
そう言って柔和に微笑んでくるピオニーアは、媛寿から見ても、容姿、内面ともに魅力的だった。
「ち、ちがうもん! えんじゅはかきごおりはめろんってきめてるから!」
それが判るからこそ、媛寿としては気が気でなかったのだ。
結城がピオニーアに取られてしまうのではないか、と。
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