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竜の恩讐編
三年前にて…… その3
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聖フランケンシュタイン大学病院の入院棟の裏で出会った三人は、古びたベンチに並んで座り、それぞれ好みのカップアイスをつまんでいた。
「んふふ~、くっきーあんどくりーむさいこー」
桜色の着物を着た小柄な少女、媛寿はプラスチックのスプーンでアイスを口に運ぶと、さも嬉しそうに足をぱたぱたと動かした。
「媛寿、30+1に寄ったら必ずそれ選ぶよね。もう注文する前にお店の人が箱に入れてたよ」
ビターチョコレートのアイスを食べながら、鞠男水道設備のロゴが入った作業着を着る青年、結城が言った。
「つぎでぽいんとたまるから、こんどはにこたべちゃうもんね」
「そんなに食べたら夜ご飯が入らなくなるよ?」
「つくってるのえんじゅだもん。だいじょうぶ」
ピオニーアはミントのアイスを少しずつ口にしながら、二人のやり取りを不思議そうに見ていた。
憩いの場で思索に耽っていたら、いきなり現れた青年と少女。
これまで誰一人来ることのなかった入院棟の裏に二人が来たのは、単に途中で立ち寄ったアイスクリーム屋で買ったアイスを、ゆっくり食べられる場所を探していただけ、ということだった。
それだけで院内では全く目立たない入院棟の裏に辿り着いたというのも驚きだが、ピオニーアはそれ以上に、二人の関係性が分からなかった。
(ご兄妹?)
というには二人はまるで似ておらず、
(お友達?)
その感覚に近いようには思うが、どういう知り合い方をしたのか見当がつかず、
(親子? …………いえ、まさか)
そこまで考えて、ピオニーアは気付かれないように小さく首を振った。
親子というには結城という青年があまりにも若すぎた。
それほど自分と年が離れていないような普通の青年が、一体どういう経緯で子を持つに至ったのか、ピオニーアには思い当たらなかった。媛寿の年齢を考えても、十代半ばか、さらに前に媛寿が生まれていなければ説明がつかない。
(う~ん……)
結城と媛寿の関係について思考しながら、また一口ミントアイスを口に運ぶピオニーア。
「ん?」
考え事に夢中になっていたせいか、ピオニーアは隣に座る媛寿がじ~っと視線を向けていたことにようやく気付いた。
「え~と……何か?」
「みんとあじ、おいしい?」
「え? 美味しい、ですよ?」
「えんじゅ、みんとはちょっとにがて。ちょこみんとはたべれるけど」
さもミント味のアイスを食べた時のように、媛寿は苦々しい顔をしながらべっと舌を出した。
「あっ、なら残ってるもう一つのミントアイスは私がいただきますね。媛寿ちゃんはブルーハワイを」
「ほんと!? ありがとぉ!」
ピオニーアに促され、両手を上げて喜ぶ媛寿だったが、
「ちょっと待って、媛寿。いまミントアイスを押し付けようとしたでしょ」
「ぎくっ」
結城からの指摘を受けて肩を強張らせた。
「そ、そんなことないよ~?」
「相席させてもらってるんだから、ここは……え~っと……」
「ピオニーアです」
「ああ、そうそう。おっほん! ピオニーアさんに好きなの選んでもらった方がいいと思うな」
「うぅ~……わかった~」
迷う様子は見せたが、媛寿は納得し、『ごめんなさい』と言いながら二個のカップアイスが入った紙箱を差し出した。
「いえ、本当にミントアイスでいいんです。私だって席を譲っただけでアイスクリームをいただいてるんですから」
「ほんと!?」
「だから媛寿ちゃんがブルーハワイをどうぞ」
「やったー!」
媛寿は箱を掲げたままベンチから飛び出し、辺りを跳ね回って全身で嬉しさを表していた。
「も~、媛寿~。ごめんなさい、ピオニーアさん」
「お気になさらないで下さい。ミント味が好きなのは本当ですから」
結城にやんわりと言った後、ピオニーアはまだ跳ね回っている媛寿に目を向けた。あれだけ喜んでもらえたなら、譲った方としても思わず嬉しくなってきてしまう。
「ところで、お二人はどうして聖フランケンシュタイン大学病院に?」
「へ? あ~、その~」
「今日は水道の工事や点検はなかったと思いましたけど」
ピオニーアは結城が身に付けている『鞠男水道設備』の作業着を見ながら言う。
「う~ん…………ふぅ」
結城はしばらく答えづらそうに悩んでいたが、やがて割り切ったような溜め息を吐いた。
「仕方ない。何だかピオニーアさんには嘘が通じなさそうだし」
独りごちた結城は、持ってきていたリュックを開け、クリアケースに入った封筒を一つ取り出した。
「この手紙を出した人が聖フランケンシュタイン大学病院にいるはずだから、探しに来たんです」
封筒の裏面には、確かに聖フランケンシュタイン大学病院の名前と、その所在地が書かれていた。
「んふふ~、くっきーあんどくりーむさいこー」
桜色の着物を着た小柄な少女、媛寿はプラスチックのスプーンでアイスを口に運ぶと、さも嬉しそうに足をぱたぱたと動かした。
「媛寿、30+1に寄ったら必ずそれ選ぶよね。もう注文する前にお店の人が箱に入れてたよ」
ビターチョコレートのアイスを食べながら、鞠男水道設備のロゴが入った作業着を着る青年、結城が言った。
「つぎでぽいんとたまるから、こんどはにこたべちゃうもんね」
「そんなに食べたら夜ご飯が入らなくなるよ?」
「つくってるのえんじゅだもん。だいじょうぶ」
ピオニーアはミントのアイスを少しずつ口にしながら、二人のやり取りを不思議そうに見ていた。
憩いの場で思索に耽っていたら、いきなり現れた青年と少女。
これまで誰一人来ることのなかった入院棟の裏に二人が来たのは、単に途中で立ち寄ったアイスクリーム屋で買ったアイスを、ゆっくり食べられる場所を探していただけ、ということだった。
それだけで院内では全く目立たない入院棟の裏に辿り着いたというのも驚きだが、ピオニーアはそれ以上に、二人の関係性が分からなかった。
(ご兄妹?)
というには二人はまるで似ておらず、
(お友達?)
その感覚に近いようには思うが、どういう知り合い方をしたのか見当がつかず、
(親子? …………いえ、まさか)
そこまで考えて、ピオニーアは気付かれないように小さく首を振った。
親子というには結城という青年があまりにも若すぎた。
それほど自分と年が離れていないような普通の青年が、一体どういう経緯で子を持つに至ったのか、ピオニーアには思い当たらなかった。媛寿の年齢を考えても、十代半ばか、さらに前に媛寿が生まれていなければ説明がつかない。
(う~ん……)
結城と媛寿の関係について思考しながら、また一口ミントアイスを口に運ぶピオニーア。
「ん?」
考え事に夢中になっていたせいか、ピオニーアは隣に座る媛寿がじ~っと視線を向けていたことにようやく気付いた。
「え~と……何か?」
「みんとあじ、おいしい?」
「え? 美味しい、ですよ?」
「えんじゅ、みんとはちょっとにがて。ちょこみんとはたべれるけど」
さもミント味のアイスを食べた時のように、媛寿は苦々しい顔をしながらべっと舌を出した。
「あっ、なら残ってるもう一つのミントアイスは私がいただきますね。媛寿ちゃんはブルーハワイを」
「ほんと!? ありがとぉ!」
ピオニーアに促され、両手を上げて喜ぶ媛寿だったが、
「ちょっと待って、媛寿。いまミントアイスを押し付けようとしたでしょ」
「ぎくっ」
結城からの指摘を受けて肩を強張らせた。
「そ、そんなことないよ~?」
「相席させてもらってるんだから、ここは……え~っと……」
「ピオニーアです」
「ああ、そうそう。おっほん! ピオニーアさんに好きなの選んでもらった方がいいと思うな」
「うぅ~……わかった~」
迷う様子は見せたが、媛寿は納得し、『ごめんなさい』と言いながら二個のカップアイスが入った紙箱を差し出した。
「いえ、本当にミントアイスでいいんです。私だって席を譲っただけでアイスクリームをいただいてるんですから」
「ほんと!?」
「だから媛寿ちゃんがブルーハワイをどうぞ」
「やったー!」
媛寿は箱を掲げたままベンチから飛び出し、辺りを跳ね回って全身で嬉しさを表していた。
「も~、媛寿~。ごめんなさい、ピオニーアさん」
「お気になさらないで下さい。ミント味が好きなのは本当ですから」
結城にやんわりと言った後、ピオニーアはまだ跳ね回っている媛寿に目を向けた。あれだけ喜んでもらえたなら、譲った方としても思わず嬉しくなってきてしまう。
「ところで、お二人はどうして聖フランケンシュタイン大学病院に?」
「へ? あ~、その~」
「今日は水道の工事や点検はなかったと思いましたけど」
ピオニーアは結城が身に付けている『鞠男水道設備』の作業着を見ながら言う。
「う~ん…………ふぅ」
結城はしばらく答えづらそうに悩んでいたが、やがて割り切ったような溜め息を吐いた。
「仕方ない。何だかピオニーアさんには嘘が通じなさそうだし」
独りごちた結城は、持ってきていたリュックを開け、クリアケースに入った封筒を一つ取り出した。
「この手紙を出した人が聖フランケンシュタイン大学病院にいるはずだから、探しに来たんです」
封筒の裏面には、確かに聖フランケンシュタイン大学病院の名前と、その所在地が書かれていた。
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