小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

文字の大きさ
上 下
314 / 418
竜の恩讐編

凶撃 その4

しおりを挟む
「しろがね! だいじょうぶ!?」
えん寿じゅ
 掛け矢ハンマーを振るって武装集団を少し押し返した媛寿は、ゴム弾を受けてかがみこんでいるシロガネに振り返った。
「大丈、夫――――――媛寿!」
「っ!?」
 立ち上がろうとしていたシロガネは、視界に入った異変に気付き、咄嗟とっさに媛寿に呼びかけた。
 媛寿もそれを察知し、反射的に掛け矢を防具代わりに前へかざす。
 するとゴム弾の一斉射が雨あられと叩きつけてきた。
「うぐっ!」
 掛け矢を盾にしたことで頭や胴への直撃は避けられたが、手や足に数発を食らい、媛寿は痛みにうめいた。
「なんで!? おもいっきりあてたのに――――――!?」
 一斉射がんで、掛け矢の陰から様子を見た媛寿は驚愕した。
 武装集団は誰一人倒れておらず、媛寿とシロガネに銃口を向けている。中には片腕をだらりと力なく垂らした者や、上体を不自然に傾けている者もいた。
 明らかに媛寿の掛け矢による一撃は受けている。命に影響が及ばないまでも、しばらく動けなくなるくらいには、ダメージが入っているはずだった。
 しかし、武装集団はそれをものともせず、痛みも感じていないようだった。
「こいつら、なに?」
「媛寿、行って」
 武装集団の不気味さにたじろいでいる媛寿の背に、シロガネが武器を出しながら先をうながした。
「しろがね?」
「こいつら、普通じゃ、ない。結城ゆうきが、危ない」
 シロガネは右手にサバイバルナイフと、左手に山刀マチェットを構え、媛寿の前に出た。
 媛寿もまたシロガネの言葉で、漠然とした不安が確実に大きくなりつつあった。
 謎の狙撃から始まり、マスクマンやシロガネを追い詰める状況と武装集団。
 結城が依頼を受けたラナン・キュラスなる人物にどんな裏事情があるかは分からないが、少なくともかなりの危険が迫っているのは間違いない。
「わかった! おねがい!」
 シロガネの意思をんだ媛寿は、回り道をして結城たちに追いつくべく、武装集団が固めている道とは逆方向へ走り出した。
「了、解」
 武器を構えて武装集団を牽制するシロガネがそう返す。
 媛寿もシロガネも、いま置かれている状況の危うさがわかるからこその役割分担だった。
 女神アテナという最強の護りを欠いている以上、結城の身が一番危険である、と。

 目の前に現れた少女を前に、結城は言葉で言い表せないほどの戦慄をおぼえていた。
 単なる見た目だけなら、ブレザーの制服を着た女子高生。つやのある長い黒髪に、整った目鼻立ちの美貌。背は高すぎず低すぎず、均整の取れた体つきに、すらりと伸びた四肢。
 道を行けば誰もが一目は振り返りそうな美少女であるにもかかわらず、結城はとても嫌な感じの動悸に襲われていた。
 口角を上げて笑いかけてくる少女の雰囲気は、とても友好的とはいえない。
 さながら追い詰めた小動物をどう引き裂いてやろうかと品定めする、凶悪な怪物の本性がにじみ出ている。
 少女は結城を人間として見ておらず、結城もまた少女を人間として見れない。
 人の姿をしていながら、その内面は全く違うものなのだと、結城は少女が放つ気配に知らしめられている気がしていた。
「だ、誰だ、君は!?」
 震える脚を意識で必死に支えながら、結城は少女に問いただした。
「あっ、意外な言葉が出てきた。それを聞かれると困っちゃうな~。仕事の最中は基本的に名乗らないようにしてるし。そもそも大抵の標的が名前を聞いてくる前に死ぬか半狂乱になってるし。標的に名前を言ったことってなかったんじゃないかな~」
 結城の言葉がよほど予想外だったのか、少女は軽く悩むような素振りを見せた。
 その間にも、少女のまとう雰囲気は少しも揺らがず、結城はほとんど動けずにいる。
 せめて背後にかばっているラナンだけでも逃がしたいが、下手に動こうものならどうなるか、結城の脳は確固たるイメージを浮かべていた。
 二人まとめて、刺し貫かれてしまう場面を。
「まっ、いっか。別に何か変わるわけじゃないし」
 しばらく考えた末、少女はあっさりと割り切った様子だった。
「あたしの名前は皆本千春みなもとちはる。あなたは小林結城、さんで合ってるわね?」
「そ、そうだけど……」
 なぜ眼前の少女、千春は自分の名前を知っているのかと、結城は疑問に思いかけた時、
「長ったらしく話すつもりはないから、単刀直入に言うわね」
 千春は左手に持っていた細長い袋を持ち上げて、結城を、いや、その後ろを指し示した。
「そのひとをこっちに渡してくれない? 殺すから」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...