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竜の恩讐編
凶撃 その4
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「しろがね! だいじょうぶ!?」
「媛、寿」
掛け矢を振るって武装集団を少し押し返した媛寿は、ゴム弾を受けて屈みこんでいるシロガネに振り返った。
「大丈、夫――――――媛寿!」
「っ!?」
立ち上がろうとしていたシロガネは、視界に入った異変に気付き、咄嗟に媛寿に呼びかけた。
媛寿もそれを察知し、反射的に掛け矢を防具代わりに前へかざす。
するとゴム弾の一斉射が雨あられと叩きつけてきた。
「うぐっ!」
掛け矢を盾にしたことで頭や胴への直撃は避けられたが、手や足に数発を食らい、媛寿は痛みに呻いた。
「なんで!? おもいっきりあてたのに――――――!?」
一斉射が止んで、掛け矢の陰から様子を見た媛寿は驚愕した。
武装集団は誰一人倒れておらず、媛寿とシロガネに銃口を向けている。中には片腕をだらりと力なく垂らした者や、上体を不自然に傾けている者もいた。
明らかに媛寿の掛け矢による一撃は受けている。命に影響が及ばないまでも、しばらく動けなくなるくらいには、ダメージが入っているはずだった。
しかし、武装集団はそれをものともせず、痛みも感じていないようだった。
「こいつら、なに?」
「媛寿、行って」
武装集団の不気味さにたじろいでいる媛寿の背に、シロガネが武器を出しながら先を促した。
「しろがね?」
「こいつら、普通じゃ、ない。結城が、危ない」
シロガネは右手にサバイバルナイフと、左手に山刀を構え、媛寿の前に出た。
媛寿もまたシロガネの言葉で、漠然とした不安が確実に大きくなりつつあった。
謎の狙撃から始まり、マスクマンやシロガネを追い詰める状況と武装集団。
結城が依頼を受けたラナン・キュラスなる人物にどんな裏事情があるかは分からないが、少なくともかなりの危険が迫っているのは間違いない。
「わかった! おねがい!」
シロガネの意思を汲んだ媛寿は、回り道をして結城たちに追いつくべく、武装集団が固めている道とは逆方向へ走り出した。
「了、解」
武器を構えて武装集団を牽制するシロガネがそう返す。
媛寿もシロガネも、いま置かれている状況の危うさが判るからこその役割分担だった。
女神アテナという最強の護りを欠いている以上、結城の身が一番危険である、と。
目の前に現れた少女を前に、結城は言葉で言い表せないほどの戦慄を覚えていた。
単なる見た目だけなら、ブレザーの制服を着た女子高生。艶のある長い黒髪に、整った目鼻立ちの美貌。背は高すぎず低すぎず、均整の取れた体つきに、すらりと伸びた四肢。
道を行けば誰もが一目は振り返りそうな美少女であるにもかかわらず、結城はとても嫌な感じの動悸に襲われていた。
口角を上げて笑いかけてくる少女の雰囲気は、とても友好的とはいえない。
さながら追い詰めた小動物をどう引き裂いてやろうかと品定めする、凶悪な怪物の本性が滲み出ている。
少女は結城を人間として見ておらず、結城もまた少女を人間として見れない。
人の姿をしていながら、その内面は全く違うものなのだと、結城は少女が放つ気配に知らしめられている気がしていた。
「だ、誰だ、君は!?」
震える脚を意識で必死に支えながら、結城は少女に問い質した。
「あっ、意外な言葉が出てきた。それを聞かれると困っちゃうな~。仕事の最中は基本的に名乗らないようにしてるし。そもそも大抵の標的が名前を聞いてくる前に死ぬか半狂乱になってるし。標的に名前を言ったことってなかったんじゃないかな~」
結城の言葉がよほど予想外だったのか、少女は軽く悩むような素振りを見せた。
その間にも、少女の纏う雰囲気は少しも揺らがず、結城はほとんど動けずにいる。
せめて背後に庇っているラナンだけでも逃がしたいが、下手に動こうものならどうなるか、結城の脳は確固たるイメージを浮かべていた。
二人まとめて、刺し貫かれてしまう場面を。
「まっ、いっか。別に何か変わるわけじゃないし」
しばらく考えた末、少女はあっさりと割り切った様子だった。
「あたしの名前は皆本千春。あなたは小林結城、さんで合ってるわね?」
「そ、そうだけど……」
なぜ眼前の少女、千春は自分の名前を知っているのかと、結城は疑問に思いかけた時、
「長ったらしく話すつもりはないから、単刀直入に言うわね」
千春は左手に持っていた細長い袋を持ち上げて、結城を、いや、その後ろを指し示した。
「その女をこっちに渡してくれない? 殺すから」
「媛、寿」
掛け矢を振るって武装集団を少し押し返した媛寿は、ゴム弾を受けて屈みこんでいるシロガネに振り返った。
「大丈、夫――――――媛寿!」
「っ!?」
立ち上がろうとしていたシロガネは、視界に入った異変に気付き、咄嗟に媛寿に呼びかけた。
媛寿もそれを察知し、反射的に掛け矢を防具代わりに前へかざす。
するとゴム弾の一斉射が雨あられと叩きつけてきた。
「うぐっ!」
掛け矢を盾にしたことで頭や胴への直撃は避けられたが、手や足に数発を食らい、媛寿は痛みに呻いた。
「なんで!? おもいっきりあてたのに――――――!?」
一斉射が止んで、掛け矢の陰から様子を見た媛寿は驚愕した。
武装集団は誰一人倒れておらず、媛寿とシロガネに銃口を向けている。中には片腕をだらりと力なく垂らした者や、上体を不自然に傾けている者もいた。
明らかに媛寿の掛け矢による一撃は受けている。命に影響が及ばないまでも、しばらく動けなくなるくらいには、ダメージが入っているはずだった。
しかし、武装集団はそれをものともせず、痛みも感じていないようだった。
「こいつら、なに?」
「媛寿、行って」
武装集団の不気味さにたじろいでいる媛寿の背に、シロガネが武器を出しながら先を促した。
「しろがね?」
「こいつら、普通じゃ、ない。結城が、危ない」
シロガネは右手にサバイバルナイフと、左手に山刀を構え、媛寿の前に出た。
媛寿もまたシロガネの言葉で、漠然とした不安が確実に大きくなりつつあった。
謎の狙撃から始まり、マスクマンやシロガネを追い詰める状況と武装集団。
結城が依頼を受けたラナン・キュラスなる人物にどんな裏事情があるかは分からないが、少なくともかなりの危険が迫っているのは間違いない。
「わかった! おねがい!」
シロガネの意思を汲んだ媛寿は、回り道をして結城たちに追いつくべく、武装集団が固めている道とは逆方向へ走り出した。
「了、解」
武器を構えて武装集団を牽制するシロガネがそう返す。
媛寿もシロガネも、いま置かれている状況の危うさが判るからこその役割分担だった。
女神アテナという最強の護りを欠いている以上、結城の身が一番危険である、と。
目の前に現れた少女を前に、結城は言葉で言い表せないほどの戦慄を覚えていた。
単なる見た目だけなら、ブレザーの制服を着た女子高生。艶のある長い黒髪に、整った目鼻立ちの美貌。背は高すぎず低すぎず、均整の取れた体つきに、すらりと伸びた四肢。
道を行けば誰もが一目は振り返りそうな美少女であるにもかかわらず、結城はとても嫌な感じの動悸に襲われていた。
口角を上げて笑いかけてくる少女の雰囲気は、とても友好的とはいえない。
さながら追い詰めた小動物をどう引き裂いてやろうかと品定めする、凶悪な怪物の本性が滲み出ている。
少女は結城を人間として見ておらず、結城もまた少女を人間として見れない。
人の姿をしていながら、その内面は全く違うものなのだと、結城は少女が放つ気配に知らしめられている気がしていた。
「だ、誰だ、君は!?」
震える脚を意識で必死に支えながら、結城は少女に問い質した。
「あっ、意外な言葉が出てきた。それを聞かれると困っちゃうな~。仕事の最中は基本的に名乗らないようにしてるし。そもそも大抵の標的が名前を聞いてくる前に死ぬか半狂乱になってるし。標的に名前を言ったことってなかったんじゃないかな~」
結城の言葉がよほど予想外だったのか、少女は軽く悩むような素振りを見せた。
その間にも、少女の纏う雰囲気は少しも揺らがず、結城はほとんど動けずにいる。
せめて背後に庇っているラナンだけでも逃がしたいが、下手に動こうものならどうなるか、結城の脳は確固たるイメージを浮かべていた。
二人まとめて、刺し貫かれてしまう場面を。
「まっ、いっか。別に何か変わるわけじゃないし」
しばらく考えた末、少女はあっさりと割り切った様子だった。
「あたしの名前は皆本千春。あなたは小林結城、さんで合ってるわね?」
「そ、そうだけど……」
なぜ眼前の少女、千春は自分の名前を知っているのかと、結城は疑問に思いかけた時、
「長ったらしく話すつもりはないから、単刀直入に言うわね」
千春は左手に持っていた細長い袋を持ち上げて、結城を、いや、その後ろを指し示した。
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