小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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竜の恩讐編

凶撃 その2

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『ますくまん?』
「SΞ4→……BΦ4↓……(おかしいぞ……人の気配が……)」
 マスクマンは着地したビルの屋上から、周りをつぶさに探るように見回した。
 獣並みに優れた感覚を持つマスクマンにとって、いまある状況は震えが来るほどに異常なものだった。
「BΦ0↓……Nξ0↓……(人の気配がない……誰もいなくなったみたいに……)」
『だれもいないの?』
「Iφ6←。Aε1←――――――WΩ(そんなはずねぇ。さっきまで確かに人の気配が――――――ちょっと待て)」
 ビルの屋上の端に立ったマスクマンは、地上にあるものを見て、すぐさま降下した。
「TΘ9→(こ、これは……)」
 歩道に降り立ったマスクマンが見たのは、スマートフォンを片手に立つ通行人だった。
 ただ、その通行人はスマートフォンで道を検索しながら、微動だにせずにその場に立ち尽くしている。まばたきもなく、呼吸もなく、精巧に作られた人形が据えられたように、そこにたたずんでいる。スマートフォンの画面だけが、無情にも現在地を点滅させながら。
「……LΔ1(……生きてる)」
 動きが固まった通行人をじっと見つめたマスクマンは、その通行人が生きていることを確信した。精霊として生命活動の有無が判断できた。
「LΔ2↑AS(生きたまま意識と動きだけを止めちまったってのか?)」
 マスクマンが振り返ると、さらに異様な光景がひろがっていた。
 オープンカフェで紅茶を飲む客。警察官に道をたずねる子ども。雑談しながら歩いている学生たち。その誰もが時間を止められてしまったように固まっている。
「TΣ8↓? MΨ6↑WΦ――――――!?(この区画全部か? こんな凶悪な術、いったい誰が――――――!?)」
 マスクマンはさらに異様な気配を感じ、素早く路地裏に身を隠した。
「BΞ3→(『この中』で動いてる奴らがいる)」
 人間が動きを止められた空間の中で、なお動き回っている者たちの気配を、マスクマンの感覚は鋭敏に察知していた。
「10S、11S、A‡8→(十人、十一人、まだいやがるのか)」
 数人単位の組になり、統率された動きで移動する謎の集団に、マスクマンはその場にかけられた『術』以上の不気味さを見ていた。
「G∟1↓。Aλ2……IΩ(四人が結城たちのところに向かっている。他はこっち……オレか!)」
 マスクマンの後ろで怪人が発砲するのと、マスクマンが回避するのはほぼ同時だった。
 路地裏から表通りに出たマスクマン目がけて、黒のボディスーツに防刃ジャケット、無機質な防護面フェイスマスクで装備を固めた怪人たちが一斉に発砲した。
「∑!(うおっ!)」
 十字砲火にさらされることだけは避けたマスクマンだったが、それでも二発は避けきれずに受けてしまった。
「R£5←。B☆(ゴムで作った弾か。だが効く)」
 肩と胴に一発ずつ受けたマスクマンは、非殺傷のゴム弾と気付くが、それでも連続して受ければ人間は気絶する威力だと測った。
「Tχ8→WO!?(コイツら、ゴム弾これ結城ゆうきと依頼者を!?)」
 標的をなるべく傷付けずにさらうには絶好の凶器だと察したマスクマンは、包囲の薄い箇所を見つけて駆け出した。
 マスクマンの走力もアテナには及ばないものの、常人ではとらえられない速さを出せる。なので謎の集団が人間ならば、充分に突破できる――――――――――はずだった。
「!?」
 怪人たちはマスクマンの動きをあっさりと目で追い、ゴム弾を装填した銃を正確に構えた。
「Tχ、Nξ6→!?(コイツら、ただの人間じゃないのか!?)」

「そいつはそのまま足止めしておいて。本隊は標的ターゲットのところに向かって」
 背後からゴム弾の斉射せいしゃを受けるマスクマンを、ルーシーはビルの屋上から見つめながら、無線で指示を出していた。
「今回の標的ターゲットはずいぶん変なの連れてるのね」
 黒い武装集団に追い立てられるマスクマンを見下ろし、ルーシーはつまらなそうに小さく息を吐いた。
千秋ちあき、結界の範囲は大丈夫?」
が結界は時空さえゆがめ、あらゆる事象を凍りつかせる』
「……ホントに何で中二病を発症したんだか。とりあえず大丈夫ってことね?」
『……だいじょうぶ』
「ならいいわ」
 千秋との交信を終了したルーシーは、本隊が移動しているであろう方向に、血のような赤に染まった瞳を向けた。
「さぁ、わたしの力を分け与えたたち、お願いね」
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