312 / 407
竜の恩讐編
凶撃 その2
しおりを挟む
『ますくまん?』
「SΞ4→……BΦ4↓……(おかしいぞ……人の気配が……)」
マスクマンは着地したビルの屋上から、周りをつぶさに探るように見回した。
獣並みに優れた感覚を持つマスクマンにとって、いまある状況は震えが来るほどに異常なものだった。
「BΦ0↓……Nξ0↓……(人の気配がない……誰もいなくなったみたいに……)」
『だれもいないの?』
「Iφ6←。Aε1←――――――WΩ(そんなはずねぇ。さっきまで確かに人の気配が――――――ちょっと待て)」
ビルの屋上の端に立ったマスクマンは、地上にあるものを見て、すぐさま降下した。
「TΘ9→(こ、これは……)」
歩道に降り立ったマスクマンが見たのは、スマートフォンを片手に立つ通行人だった。
ただ、その通行人はスマートフォンで道を検索しながら、微動だにせずにその場に立ち尽くしている。瞬きもなく、呼吸もなく、精巧に作られた人形が据えられたように、そこに佇んでいる。スマートフォンの画面だけが、無情にも現在地を点滅させながら。
「……LΔ1(……生きてる)」
動きが固まった通行人をじっと見つめたマスクマンは、その通行人が生きていることを確信した。精霊として生命活動の有無が判断できた。
「LΔ2↑AS(生きたまま意識と動きだけを止めちまったってのか?)」
マスクマンが振り返ると、さらに異様な光景が拡がっていた。
オープンカフェで紅茶を飲む客。警察官に道を尋ねる子ども。雑談しながら歩いている学生たち。その誰もが時間を止められてしまったように固まっている。
「TΣ8↓? MΨ6↑WΦ――――――!?(この区画全部か? こんな凶悪な術、いったい誰が――――――!?)」
マスクマンはさらに異様な気配を感じ、素早く路地裏に身を隠した。
「BΞ3→(『この中』で動いてる奴らがいる)」
人間が動きを止められた空間の中で、なお動き回っている者たちの気配を、マスクマンの感覚は鋭敏に察知していた。
「10S、11S、A‡8→(十人、十一人、まだいやがるのか)」
数人単位の組になり、統率された動きで移動する謎の集団に、マスクマンはその場にかけられた『術』以上の不気味さを見ていた。
「G∟1↓。Aλ2……IΩ(四人が結城たちのところに向かっている。他はこっち……オレか!)」
マスクマンの後ろで怪人が発砲するのと、マスクマンが回避するのはほぼ同時だった。
路地裏から表通りに出たマスクマン目がけて、黒のボディスーツに防刃ジャケット、無機質な防護面で装備を固めた怪人たちが一斉に発砲した。
「∑!(うおっ!)」
十字砲火にさらされることだけは避けたマスクマンだったが、それでも二発は避けきれずに受けてしまった。
「R£5←。B☆(ゴムで作った弾か。だが効く)」
肩と胴に一発ずつ受けたマスクマンは、非殺傷のゴム弾と気付くが、それでも連続して受ければ人間は気絶する威力だと測った。
「Tχ8→WO!?(コイツら、ゴム弾で結城と依頼者を!?)」
標的をなるべく傷付けずに攫うには絶好の凶器だと察したマスクマンは、包囲の薄い箇所を見つけて駆け出した。
マスクマンの走力もアテナには及ばないものの、常人では捉えられない速さを出せる。なので謎の集団が人間ならば、充分に突破できる――――――――――はずだった。
「!?」
怪人たちはマスクマンの動きをあっさりと目で追い、ゴム弾を装填した銃を正確に構えた。
「Tχ、Nξ6→!?(コイツら、ただの人間じゃないのか!?)」
「そいつはそのまま足止めしておいて。本隊は標的のところに向かって」
背後からゴム弾の斉射を受けるマスクマンを、ルーシーはビルの屋上から見つめながら、無線で指示を出していた。
「今回の標的はずいぶん変なの連れてるのね」
黒い武装集団に追い立てられるマスクマンを見下ろし、ルーシーはつまらなそうに小さく息を吐いた。
「千秋、結界の範囲は大丈夫?」
『我が結界は時空さえ歪め、あらゆる事象を凍りつかせる』
「……ホントに何で中二病を発症したんだか。とりあえず大丈夫ってことね?」
『……だいじょうぶ』
「ならいいわ」
千秋との交信を終了したルーシーは、本隊が移動しているであろう方向に、血のような赤に染まった瞳を向けた。
「さぁ、妾の力を分け与えた娘たち、お願いね」
「SΞ4→……BΦ4↓……(おかしいぞ……人の気配が……)」
マスクマンは着地したビルの屋上から、周りをつぶさに探るように見回した。
獣並みに優れた感覚を持つマスクマンにとって、いまある状況は震えが来るほどに異常なものだった。
「BΦ0↓……Nξ0↓……(人の気配がない……誰もいなくなったみたいに……)」
『だれもいないの?』
「Iφ6←。Aε1←――――――WΩ(そんなはずねぇ。さっきまで確かに人の気配が――――――ちょっと待て)」
ビルの屋上の端に立ったマスクマンは、地上にあるものを見て、すぐさま降下した。
「TΘ9→(こ、これは……)」
歩道に降り立ったマスクマンが見たのは、スマートフォンを片手に立つ通行人だった。
ただ、その通行人はスマートフォンで道を検索しながら、微動だにせずにその場に立ち尽くしている。瞬きもなく、呼吸もなく、精巧に作られた人形が据えられたように、そこに佇んでいる。スマートフォンの画面だけが、無情にも現在地を点滅させながら。
「……LΔ1(……生きてる)」
動きが固まった通行人をじっと見つめたマスクマンは、その通行人が生きていることを確信した。精霊として生命活動の有無が判断できた。
「LΔ2↑AS(生きたまま意識と動きだけを止めちまったってのか?)」
マスクマンが振り返ると、さらに異様な光景が拡がっていた。
オープンカフェで紅茶を飲む客。警察官に道を尋ねる子ども。雑談しながら歩いている学生たち。その誰もが時間を止められてしまったように固まっている。
「TΣ8↓? MΨ6↑WΦ――――――!?(この区画全部か? こんな凶悪な術、いったい誰が――――――!?)」
マスクマンはさらに異様な気配を感じ、素早く路地裏に身を隠した。
「BΞ3→(『この中』で動いてる奴らがいる)」
人間が動きを止められた空間の中で、なお動き回っている者たちの気配を、マスクマンの感覚は鋭敏に察知していた。
「10S、11S、A‡8→(十人、十一人、まだいやがるのか)」
数人単位の組になり、統率された動きで移動する謎の集団に、マスクマンはその場にかけられた『術』以上の不気味さを見ていた。
「G∟1↓。Aλ2……IΩ(四人が結城たちのところに向かっている。他はこっち……オレか!)」
マスクマンの後ろで怪人が発砲するのと、マスクマンが回避するのはほぼ同時だった。
路地裏から表通りに出たマスクマン目がけて、黒のボディスーツに防刃ジャケット、無機質な防護面で装備を固めた怪人たちが一斉に発砲した。
「∑!(うおっ!)」
十字砲火にさらされることだけは避けたマスクマンだったが、それでも二発は避けきれずに受けてしまった。
「R£5←。B☆(ゴムで作った弾か。だが効く)」
肩と胴に一発ずつ受けたマスクマンは、非殺傷のゴム弾と気付くが、それでも連続して受ければ人間は気絶する威力だと測った。
「Tχ8→WO!?(コイツら、ゴム弾で結城と依頼者を!?)」
標的をなるべく傷付けずに攫うには絶好の凶器だと察したマスクマンは、包囲の薄い箇所を見つけて駆け出した。
マスクマンの走力もアテナには及ばないものの、常人では捉えられない速さを出せる。なので謎の集団が人間ならば、充分に突破できる――――――――――はずだった。
「!?」
怪人たちはマスクマンの動きをあっさりと目で追い、ゴム弾を装填した銃を正確に構えた。
「Tχ、Nξ6→!?(コイツら、ただの人間じゃないのか!?)」
「そいつはそのまま足止めしておいて。本隊は標的のところに向かって」
背後からゴム弾の斉射を受けるマスクマンを、ルーシーはビルの屋上から見つめながら、無線で指示を出していた。
「今回の標的はずいぶん変なの連れてるのね」
黒い武装集団に追い立てられるマスクマンを見下ろし、ルーシーはつまらなそうに小さく息を吐いた。
「千秋、結界の範囲は大丈夫?」
『我が結界は時空さえ歪め、あらゆる事象を凍りつかせる』
「……ホントに何で中二病を発症したんだか。とりあえず大丈夫ってことね?」
『……だいじょうぶ』
「ならいいわ」
千秋との交信を終了したルーシーは、本隊が移動しているであろう方向に、血のような赤に染まった瞳を向けた。
「さぁ、妾の力を分け与えた娘たち、お願いね」
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
学園長からのお話です
ラララキヲ
ファンタジー
学園長の声が学園に響く。
『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』
昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。
学園長の話はまだまだ続く……
◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない)
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる