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竜の恩讐編
幕間 考える須佐之男
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「う~ん……」
社の内部に設けられた温泉に浸かりながら、須佐之男は難しい顔で唸っていた。
「媛寿ちゃんを振り向かせるためのイイ方法はないものかな~」
これまでに計三回、須佐之男は座敷童子の媛寿に求婚し、そして恋敵である小林結城に媛寿をかけた勝負を挑んでいる。
そしていずれも媛寿からは返事がもらえず、結城との勝負は無効試合になっている。
「せめてデートにでも誘えればな~」
煮詰まっていたので温泉に入れば良い考えが浮かんでくるかと思った須佐之男だったが、なかなかそうもいかないらしい。
今はほとんどの神がアテナの嫁取り試合、もとい婿取り試合に注目しているので、露天風呂はほぼ貸し切り状態で静かなのだが。
「も~! 須佐之男さま! わたくしというものがいながら~!」
温泉に浸かって考えている須佐之男を、右横から少女が大きく揺さぶった。
「言っても仕方ないわ。一目惚れした須佐之男はどうあっても止まらないもん。あなたの時もそうだったでしょ? 奇稲田」
洗い場で体を洗っていた少女が、冷めたような口調でそう指摘してくる。
「う~。でも神大市さま~」
頭に小さな櫛を乗せた少女、奇稲田が洗い場の少女、神大市に涙目で訴える。
「それと―――」
神大市はシャワーの取っ手を捻ってお湯を出し、体に付いた泡を残さず洗い流した。
「須佐之男がその家神に逢ってからすでに三年。これだけアプローチしてもデートにさえ誘えていないなら、脈なしってことでしょ」
「そ、そうですよね!」
「あとその家神、他に好いている男がいるみたいだし、むしろ須佐之男の方がだいぶ分が悪いわ」
シャワーを浴びた後、神大市は傍らに置いていた山と稲を象った髪飾りを頭に付けた。
「そうですよね! そうですよね! さすが神大市さま!」
「簡単に取り乱さないの、奇稲田。あなたの方が須佐之男とは付き合いが長いはずでしょ?」
温泉に入り、須佐之男の左横に陣取った神大市は溜め息混じりに言った。
「で、でも~、須佐之男さまが三人目を娶っちゃったら、わたくしが可愛がってもらう時間が減っちゃうかもですし~」
「それは私も同じだけど、須佐之男みたいな直情タイプって、イマドキじゃないっていうか。あなたみたいに心身の危機が迫っている時に、颯爽と英雄的に現れたっていうなら心にクるものがあるでしょうけど―――」
「それだー!」
「わっ!」
「うっ!?」
温泉で黙考していた須佐之男が、いきなり叫びとともに立ち上がった。
「そうだ! それだよ! 何でこんなことに気付かなかったんだ! 媛寿ちゃんの危機にオレが現れてサクッと解決! それならあの小林結城にはできない芸当だ! そんでもって媛寿ちゃんはオレのカッコよさにも気付いてくれる、と。これならイケるんじゃね!?」
「わっ! わっ! 須佐之男さまの『須佐之男さま』が……」
「……いつも以上に漲ってる」
奇稲田は少し目を覆いながら、神大市は少し頬を赤らめながら、立ち上がった須佐之男を見つめていた。
「と、いうわけでそのチャンスが来るまでゆっくり待っとこう。まだまだ本会議まで時間あるだろうし、クシナダちゃん、カムオオイチちゃん、部屋に戻ってのんびりしとこうよ」
「そ、そうですね。時間が来るまで部屋でイロイロと……」
「し、仕方ないわね。あなたもソレじゃ大変だろうし……」
須佐之男に続き、奇稲田と神大市も湯船から立ち上がった。二人とも何かを期待するように赤面しながら。
「神無月が終わったら、その時に備えて天王山で特訓だー!」
「また酒解神社行くんですか!?」
「大山積神様もそろそろ変な特訓しに来るのウンザリするかもしれないわよ?」
「その分は向こうの手伝いもするから大丈夫さ! よおっしゃあー! 今から気合入ってきたー! 待ってろー! 天下分け目の天王山だー!」
奇稲田と神大市を左右に伴って、須佐之男は気合充分に露天風呂を後にしていった。
社の内部に設けられた温泉に浸かりながら、須佐之男は難しい顔で唸っていた。
「媛寿ちゃんを振り向かせるためのイイ方法はないものかな~」
これまでに計三回、須佐之男は座敷童子の媛寿に求婚し、そして恋敵である小林結城に媛寿をかけた勝負を挑んでいる。
そしていずれも媛寿からは返事がもらえず、結城との勝負は無効試合になっている。
「せめてデートにでも誘えればな~」
煮詰まっていたので温泉に入れば良い考えが浮かんでくるかと思った須佐之男だったが、なかなかそうもいかないらしい。
今はほとんどの神がアテナの嫁取り試合、もとい婿取り試合に注目しているので、露天風呂はほぼ貸し切り状態で静かなのだが。
「も~! 須佐之男さま! わたくしというものがいながら~!」
温泉に浸かって考えている須佐之男を、右横から少女が大きく揺さぶった。
「言っても仕方ないわ。一目惚れした須佐之男はどうあっても止まらないもん。あなたの時もそうだったでしょ? 奇稲田」
洗い場で体を洗っていた少女が、冷めたような口調でそう指摘してくる。
「う~。でも神大市さま~」
頭に小さな櫛を乗せた少女、奇稲田が洗い場の少女、神大市に涙目で訴える。
「それと―――」
神大市はシャワーの取っ手を捻ってお湯を出し、体に付いた泡を残さず洗い流した。
「須佐之男がその家神に逢ってからすでに三年。これだけアプローチしてもデートにさえ誘えていないなら、脈なしってことでしょ」
「そ、そうですよね!」
「あとその家神、他に好いている男がいるみたいだし、むしろ須佐之男の方がだいぶ分が悪いわ」
シャワーを浴びた後、神大市は傍らに置いていた山と稲を象った髪飾りを頭に付けた。
「そうですよね! そうですよね! さすが神大市さま!」
「簡単に取り乱さないの、奇稲田。あなたの方が須佐之男とは付き合いが長いはずでしょ?」
温泉に入り、須佐之男の左横に陣取った神大市は溜め息混じりに言った。
「で、でも~、須佐之男さまが三人目を娶っちゃったら、わたくしが可愛がってもらう時間が減っちゃうかもですし~」
「それは私も同じだけど、須佐之男みたいな直情タイプって、イマドキじゃないっていうか。あなたみたいに心身の危機が迫っている時に、颯爽と英雄的に現れたっていうなら心にクるものがあるでしょうけど―――」
「それだー!」
「わっ!」
「うっ!?」
温泉で黙考していた須佐之男が、いきなり叫びとともに立ち上がった。
「そうだ! それだよ! 何でこんなことに気付かなかったんだ! 媛寿ちゃんの危機にオレが現れてサクッと解決! それならあの小林結城にはできない芸当だ! そんでもって媛寿ちゃんはオレのカッコよさにも気付いてくれる、と。これならイケるんじゃね!?」
「わっ! わっ! 須佐之男さまの『須佐之男さま』が……」
「……いつも以上に漲ってる」
奇稲田は少し目を覆いながら、神大市は少し頬を赤らめながら、立ち上がった須佐之男を見つめていた。
「と、いうわけでそのチャンスが来るまでゆっくり待っとこう。まだまだ本会議まで時間あるだろうし、クシナダちゃん、カムオオイチちゃん、部屋に戻ってのんびりしとこうよ」
「そ、そうですね。時間が来るまで部屋でイロイロと……」
「し、仕方ないわね。あなたもソレじゃ大変だろうし……」
須佐之男に続き、奇稲田と神大市も湯船から立ち上がった。二人とも何かを期待するように赤面しながら。
「神無月が終わったら、その時に備えて天王山で特訓だー!」
「また酒解神社行くんですか!?」
「大山積神様もそろそろ変な特訓しに来るのウンザリするかもしれないわよ?」
「その分は向こうの手伝いもするから大丈夫さ! よおっしゃあー! 今から気合入ってきたー! 待ってろー! 天下分け目の天王山だー!」
奇稲田と神大市を左右に伴って、須佐之男は気合充分に露天風呂を後にしていった。
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