301 / 418
竜の恩讐編
幕間 考える須佐之男
しおりを挟む「ねぇ。何か味、変じゃない?」
同僚の黒髪ロング、サッパリお姉さん系メイドのダルバはパイを大胆に口に放り込み、ゆっくりと咀嚼しながら私、マリン・ハーランドを見た。
シャクッ。
私も一口、パイをかじる。
最初はサクサク、後で口の中でジュワ~っととろけるシェフご自慢の生地の歯触りはいつもとなんら変わりはない。
ん~。
言われてみると、少しレモン風味が強いような……?後味もいつもよりも、しつこく口の中に残っているような気がする。
「えー、何が?」
「モニカ! あんた、もう食べちゃったの?」
モニカの皿は既に空っぽだった。
「おかわりいいかなぁ?」
「良いけど、後で夕飯入らなくなっても知らないよ」
「これぐらい大丈夫だって」
私も嫌いではないが、カフェ巡りが趣味のモニカは特にスイーツに目がない。
既に二皿目ももう完食。
いや、ほっといたら一人で全部食べちゃうかも……。
「気のせいかもしれないけど、レモンがいつもより濃くて、なんか薬品臭い気がしない……?」
ダルバの言葉に私はフォークをカラン、と取り落とした。
「えっ……薬品!?」
イヤな予感が、一瞬走り抜ける。
……この展開って、いつものパターンじゃ……?
「さっき、これ。パロマが運ぼうとしていたって執事長、言ってたわよね?」
ダルバも皿を置いて私を見た。
「まさか……」
……薬物混入未遂じゃなくて、事後だったとしたら?
言おうとして、私は愕然と気がついた。
なんか……顔が熱い。
いや、顔だけじゃない。
身体の中心から、モヤモヤとした熱が広がってきていた。
「うぇっ……!」
これ、絶対変だ!
パロマの奴!またやったわね!
自分の身体を思わず抱きしめた私の耳に、トロンとしたモニカの甘ったるい声が……。
「ダルバぁ~」
目の前に座っていたモニカが背後からガバッとダルバに抱きついていた。
「ちょっ……やめ! モニカっ!!」
イケイケメイド、モニカは実はこの邸一番の怪力メイドである。
ダルバにもそれなりに体術の心得はあるが、物凄い力で背後から押さえ込まれ、身動きがとれない。
「ダルバもマリンも良いわよねぇ……」
いきなり、低い声でモニカが呟いた。
「……何が?」
「こんなに! こんなに二人ともデカい胸があって!」
モニカの目がすわっている。
「ちょ、あんた何して……、うわぁぁぁっ!」
両手で掴んでも溢れるほどのダルバの巨乳をメイド服の上から、モニカはもニュッと鷲掴んだ。
「あたしなんか! あたしなんか何枚パットいれてもバレちゃうのにぃぃぃ!!」
「……」
それはパットを詰めすぎて日頃からズレてるからだよ、とツッコミたかったが、あえて沈黙する私とダルバ。
彼女のAカップに対するコンプレックスは根深い。明らかに様子がおかしい彼女を刺激するのは得策ではないだろう。
静寂の中、無言で胸を揉むメイド。
……何なの?この空間は。
「あたしにも、あたしにもコレ、ちょーだいよぉぉぉ!」
ダルバのメイド服の胸元からグイッと強引に手を突っ込むモニカ。
「わっ、バカ! 痛っ、マリンっ、助けっ」
「正気に戻りなさい! モニカ!!」
私の渾身の回し蹴りが、モニカの側頭部にヒット!
「うぎゃぁっ!!」
ガードも出来ず、まともにくらったモニカは悲鳴をあげて床に昏倒した。
……白目剥いて転がってるけど、モニカは身体が丈夫なのが取り柄!大丈夫でしょ……。
「……ゲホっ。サンキュー、マリン」
胸だけでなく、肋骨ごと押し潰されていたダルバが激しく咳きこんだ。
「大丈夫?ダルバ」
「あぁ、骨は無事だよ。ったく、相変わらずのバカ力なんだから。あ~あ、痣になっちゃってるじゃないの……」
ダルバは自分の胸をのぞき込み、ため息をついた。バッチリ、モニカに掴まれた五本指の痕が白い胸についてしまっている。
「マリン。あんたは大丈夫?」
「えっと……、半分ぐらい食べちゃった、かな」
以前、パロマに媚薬を盛られた時と似た感覚が沸き上がってくる感じはあるが、あの時ほどの激しい衝動性はない。
なんか、モヤっとしたものが奥からジワジワとクる感じだ。他事をしていれば紛れる程度の、ムラムラ感。
……本当に何してくれてんだか、パロマは。
私、これから出かける予定があるのに。
「あたしは食べたの一口だけど、それでも何かちょっとモヤモヤするわ~。今回は何が入ってたのかしらね?」
「う~ん。こないだみたいな自白剤でもないし。いつもの催淫剤にしては即効性が薄い気がする。……あえていうなら、怪しい発情系?」
「絶対、あの子。どっかで隠れてあたしらを観察してると思わない?」
ダルバはキッとした表情で部屋中を見回した。
「間違いないわ……」
「とりあえず、片付けよっか」
私たちは深い溜め息をつくと無言で皿に残ったパイを片付けはじめた。
……本来は美味しいレモンパイなのに。
あぁ、もったいない。覚えてなさいよ、パロマ!
同僚の黒髪ロング、サッパリお姉さん系メイドのダルバはパイを大胆に口に放り込み、ゆっくりと咀嚼しながら私、マリン・ハーランドを見た。
シャクッ。
私も一口、パイをかじる。
最初はサクサク、後で口の中でジュワ~っととろけるシェフご自慢の生地の歯触りはいつもとなんら変わりはない。
ん~。
言われてみると、少しレモン風味が強いような……?後味もいつもよりも、しつこく口の中に残っているような気がする。
「えー、何が?」
「モニカ! あんた、もう食べちゃったの?」
モニカの皿は既に空っぽだった。
「おかわりいいかなぁ?」
「良いけど、後で夕飯入らなくなっても知らないよ」
「これぐらい大丈夫だって」
私も嫌いではないが、カフェ巡りが趣味のモニカは特にスイーツに目がない。
既に二皿目ももう完食。
いや、ほっといたら一人で全部食べちゃうかも……。
「気のせいかもしれないけど、レモンがいつもより濃くて、なんか薬品臭い気がしない……?」
ダルバの言葉に私はフォークをカラン、と取り落とした。
「えっ……薬品!?」
イヤな予感が、一瞬走り抜ける。
……この展開って、いつものパターンじゃ……?
「さっき、これ。パロマが運ぼうとしていたって執事長、言ってたわよね?」
ダルバも皿を置いて私を見た。
「まさか……」
……薬物混入未遂じゃなくて、事後だったとしたら?
言おうとして、私は愕然と気がついた。
なんか……顔が熱い。
いや、顔だけじゃない。
身体の中心から、モヤモヤとした熱が広がってきていた。
「うぇっ……!」
これ、絶対変だ!
パロマの奴!またやったわね!
自分の身体を思わず抱きしめた私の耳に、トロンとしたモニカの甘ったるい声が……。
「ダルバぁ~」
目の前に座っていたモニカが背後からガバッとダルバに抱きついていた。
「ちょっ……やめ! モニカっ!!」
イケイケメイド、モニカは実はこの邸一番の怪力メイドである。
ダルバにもそれなりに体術の心得はあるが、物凄い力で背後から押さえ込まれ、身動きがとれない。
「ダルバもマリンも良いわよねぇ……」
いきなり、低い声でモニカが呟いた。
「……何が?」
「こんなに! こんなに二人ともデカい胸があって!」
モニカの目がすわっている。
「ちょ、あんた何して……、うわぁぁぁっ!」
両手で掴んでも溢れるほどのダルバの巨乳をメイド服の上から、モニカはもニュッと鷲掴んだ。
「あたしなんか! あたしなんか何枚パットいれてもバレちゃうのにぃぃぃ!!」
「……」
それはパットを詰めすぎて日頃からズレてるからだよ、とツッコミたかったが、あえて沈黙する私とダルバ。
彼女のAカップに対するコンプレックスは根深い。明らかに様子がおかしい彼女を刺激するのは得策ではないだろう。
静寂の中、無言で胸を揉むメイド。
……何なの?この空間は。
「あたしにも、あたしにもコレ、ちょーだいよぉぉぉ!」
ダルバのメイド服の胸元からグイッと強引に手を突っ込むモニカ。
「わっ、バカ! 痛っ、マリンっ、助けっ」
「正気に戻りなさい! モニカ!!」
私の渾身の回し蹴りが、モニカの側頭部にヒット!
「うぎゃぁっ!!」
ガードも出来ず、まともにくらったモニカは悲鳴をあげて床に昏倒した。
……白目剥いて転がってるけど、モニカは身体が丈夫なのが取り柄!大丈夫でしょ……。
「……ゲホっ。サンキュー、マリン」
胸だけでなく、肋骨ごと押し潰されていたダルバが激しく咳きこんだ。
「大丈夫?ダルバ」
「あぁ、骨は無事だよ。ったく、相変わらずのバカ力なんだから。あ~あ、痣になっちゃってるじゃないの……」
ダルバは自分の胸をのぞき込み、ため息をついた。バッチリ、モニカに掴まれた五本指の痕が白い胸についてしまっている。
「マリン。あんたは大丈夫?」
「えっと……、半分ぐらい食べちゃった、かな」
以前、パロマに媚薬を盛られた時と似た感覚が沸き上がってくる感じはあるが、あの時ほどの激しい衝動性はない。
なんか、モヤっとしたものが奥からジワジワとクる感じだ。他事をしていれば紛れる程度の、ムラムラ感。
……本当に何してくれてんだか、パロマは。
私、これから出かける予定があるのに。
「あたしは食べたの一口だけど、それでも何かちょっとモヤモヤするわ~。今回は何が入ってたのかしらね?」
「う~ん。こないだみたいな自白剤でもないし。いつもの催淫剤にしては即効性が薄い気がする。……あえていうなら、怪しい発情系?」
「絶対、あの子。どっかで隠れてあたしらを観察してると思わない?」
ダルバはキッとした表情で部屋中を見回した。
「間違いないわ……」
「とりあえず、片付けよっか」
私たちは深い溜め息をつくと無言で皿に残ったパイを片付けはじめた。
……本来は美味しいレモンパイなのに。
あぁ、もったいない。覚えてなさいよ、パロマ!
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
学園長からのお話です
ラララキヲ
ファンタジー
学園長の声が学園に響く。
『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』
昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。
学園長の話はまだまだ続く……
◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない)
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
墓地々々でんな ~異世界転生がしたかったけど、うまく逝けませんでした~
葛屋伍美
ファンタジー
死んだ後に「異世界転生」する事を本気で望んでいた高校生
「善湖 善朗」(ヨシウミ ヨシロウ)
猫を助けるために川に入って、無事死亡。
死んだ先にあったのは夢にまで見た異世界!・・・ではなく、
もっと身近な死後の世界「霊界」だった。
幽霊となった善朗は幽霊を霊界の先の
極楽か地獄か転生に導く案内人「迷手 乃華」(メイシュ ノバナ)と共に
霊界ライフでテンヤワンヤ!ご先祖様も巻き込んで、向かう先は極楽「高天原」か??
前書き
廃り流行りとあるけれど、今も楽しい異世界転生。
若き命が希望を胸に、新たな世界の光に惹かれる。
そんな時代に健気に死んだ。若き命がまた一つ・・・。
新たな世界の扉を開いた!
開いた先は、過去か未来か、異世界か?
そんな先の世界より、身近な世界がそこにある!
今も昔も人の世の、現と幻の狭間の世界
きっとあなたも感じてる!そんな世界の物語〔ベンベンッ〕
注1:「小説家になろう様」「カクヨム様」「ノベルアップ+様」「ハーメルン様」にも掲載しています。
注2:作者は霊感0です。霊の捉え方は全て想像であり、フィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる