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豪宴客船編
集結
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M79グレネードランチャーのトリガーが引かれ、40mmグレネード弾が砲身から放たれる。弾は攻撃を仕掛けようとする触手に的確に命中し、爆発に驚いたクラーケンは触手を後退させる。
アテナはそこでグレネードランチャーを投げ捨て、肩に掛けていた弾薬ベルトも外す。いま撃ったもので、40mmグレネード弾は撃ち尽くしてしまった。
すぐにアテナは次の銃火器を手に取る。今度は箱型弾倉にたっぷりと7.62×51mm弾を収めたミニミ軽機関銃だった。
弾薬帯が本体にセットされていることを確認し、ついでにアテナは残りの銃火器を把握しておく。
ミニミ軽機関銃を含めれば、残りはM16A2アサルトライフル2丁、スミス&ウェッソンM19、デザードイーグル、そしてワルサーP38。あとは手榴弾が6個である。
(完全に趣味で集めましたね、エンジュ。でき得るならバズーカ砲や対戦車ミサイルが有用なのですが……)
アテナは手榴弾を一個持ち、口でピンを引き抜くと、
「今はこれで持ち堪えます!」
後ろに手榴弾を投げ放った。爆発が起きた地点では、ちょうど触手が迫っていたところだった。
爆煙を掻き分けると、アテナは一瞬だけキュウの様子を見た。
キュウは香炉の前に座って目を瞑り、それを結城が短剣を構えて守っている。
キュウがどのような術を使うのかはさておき、まだ時間を稼がなければならない。
クラーケンの触手による攻撃は手数を増しており、残りの火器でどこまで防ぎきれるか、アテナにも予測がつかなくなってきた。
(エンジュの支援が早いか、キュウの準備が完了するが早いか、はたまた弾薬が尽きるが早いか)
どこを取ってもギリギリの一線。絶体絶命とも呼べる状況において、アテナは胸に湧く高揚感に口角を少し上げた。
決して笑っていられる場面ではないはずなのだが、小林結城と一緒にいれば、そんな場面に遭うことが少なくない。
オリュンポス全盛の時代、大半の敵は数手で打倒してきたアテナにとって、味わう機会が十指にも満たなかった戦いが、現代の日本において幾つも巡りあえている。
その事実に、戦いの女神としての本分が昂ぶり、数千年に渡る退屈を打ち消された歓喜を得ていた。
(やはりあなたと共にいれば退屈しませんね)
「ユウキ!」
爆煙の向こう側から迫ってきた触手の群れに、アテナはミニミ軽機関銃の連射力で対抗する。
だが、クラーケンも知恵を付けてきたのか、触手の動きに変化が現れていた。
弾幕を避けるように動き始め、さらには縦方向のみに振り下ろしていた触手が、横方向の薙ぎ払いを行ってきた。
船体上部のプール施設を払うように振るわれた触手は、飛び込み台を折り倒し、銃で迎撃するアテナの元まで届こうとしていた。
「くっ!」
回避のために身体を捻ろうとしたアテナだったが、その前に弧を描いて触手に飛来するものがあった。
別々の角度から接敵した二つの回転体は、アテナに迫っていた触手の表面を風のように切り裂いた。
「OURAAA!」
続いて跳び上がった影が、手に持った石斧を重力落下も合わせて叩きつけ、表皮の傷をさらに深くした。
「WΩ1↓(間に合ったな)」
傷を負って海面へと引き返していく触手を背に、燕尾服姿のマスクマンが振り返った。すでに顔は偽装しておらず、元の単眼に乱杭歯の並んだ仮面に戻っている。
「ええ、充分に。むしろ早過ぎた程です」
到着したマスクマンに、アテナは微笑を返す。
「AΘ1→? FΠ2←(とりあえずどうすりゃいいんだ? あの女狐が何かやってるみたいだが)」
「それを邪魔されぬようにすれば、この怪魚を調理できます」
「GΦ、OΓ(よし、分かった)」
マスクマンが左手を上げると、図ったように二つの樫製ブーメランがそこへ収まった。
新たに加わった敵を前に、クラーケンは怒りの咆哮を上げる。が、アテナもマスクマンも、その怒声に何ら臆することはなかった。
海面から六本の触手が持ち上がり、二人に目がけて一気に振り下ろされる。
アテナとマスクマンは迎撃態勢を取るが、六本の触手は二人に届く前に先端が切り落とされた。
文字通り宙を舞うように現れた何者かが、日本刀と両手剣で触手を刺身よろしく切断せしめたのだ。
触手を切り落とされ悲鳴を上げるクラーケン。その声を背に受け着地したのは、ボロボロのメイド服を着た少女だった。
「この魚、なに?」
本来の得物を携えてやって来た銀色の短剣の化身、シロガネだった。
「CΞ4→GD(捌いて刺身にしていいらしいぞ)」
「了、解」
マスクマンからそう聞いたシロガネは、クラーケンに向き直ると、手に持った二振りの刀剣を構えた。
「シャアアア!」
オスタケリオンはアテナ、マスクマン、シロガネの三人を前に、さらに凶暴な敵意を剥きだした。その敵意はクラーケンにも伝わり、巨大なピラニアの頭部も天に向かって吼える。
すると、切られた六本の触手が痙攣を始めた。
耳障りな水音を立てる触手の切断面から、新たに触手を再生させると思いきや、全く別のものが生え出そうとしていた。
クラーケンの頭頂の時と同様、触手の切断面から、鋭利な歯を備えた口、赤く血走った眼を持つピラニアの頭部が現れた。
オスタケリオンがクラーケンに取り込まれた際、その身体には何匹ものピラニアが纏わりついていた。おそらくその分も反映させたということか。
「エンジュが見たら喜びそうな姿になりましたね」
「Hω9←、TΛ6↑?(聞きそびれてたが、コイツ、元は何だ?)」
「何でも、いい。斬る、だけ」
三者三様の反応の後、ピラニアの頭部が先端に生えた触手が襲い来る。新鮮な肉を求め、牙を打ち鳴らしながら。
アテナは軽機関銃を発砲、マスクマンはブーメランを投擲、シロガネは回避と同時に触手を輪切りにしていく。
が、ピラニア触手のインパクトが強かったために、アテナたちは見逃してしまっていた。
残り四本の触手が、まだ未使用だったことを。
「!? シロガネ! 危ない!」
「!、?」
音もなく側面から接近していた触手に気付いた結城が声を張り上げるも、シロガネは一瞬反応が遅れた。胴に巻きついた触手に締め上げられ、動きを封じられてしまった。
「シロガネ! くっ!?」
アテナも掃射を一時中断し、シロガネを救出しようとするが、駆け出そうとした脚に触手が絡みついた。
「うぐ!」
宙に持ち上げられ、逆さ吊りにされてしまうアテナ。
「SΦ……GΑ!?(この……が!?)」
石斧を振りかぶって触手を斬ろうとしたマスクマンも、振り上げた手首を触手に巻きつかれ、動きを止められた。
「アテナ様! マスクマン! シロガネ!」
三柱の神霊たちは、クラーケンの触手に捕らえられてしまった。
いつの間にかクラーケンもといオスタケリオンは、触手による攻撃方法をこれほどまでに学習していたのだ。
動きを封じられたアテナたちに、ピラニア触手がゆっくりと迫ってくる。まるでこれから催される血祭りを愉しむかのように。
「くっ!」
結城はすぐにでも助けに飛び出したいが、いまキュウの元を離れれば、それこそクラーケンはキュウまでも攻撃するかもしれない。
キュウはまだ目を閉じて香煙に集中している。どれくらいの進捗状況か分からないが、攻撃を受けてしまえば、ここまでのことが水の泡になる可能性もある。
結城は自身の力を過大も過小もなく、この場においてほとんど役に立たないと評価している。
アテナたちを助けに出たところでピラニアに喰われる確率が高く、キュウを守ろうと残ったところで触手に一撃で潰される確率が高い。
自分が弱いということは嫌というほど知っているが、この場ほど悔しい思いをするのも初めてだった。
しかし、悔やんだところでどうしようもない。結城にできるのは、この危機を打破できる強力な存在が駆けつけてくれるのを願うだけだった。
(誰か! 誰か来て! 誰か……媛寿!)
「ほうとうせんかい、よし。ぎょうかく、よし……てー!」
結城の願いが通じたのかどうか、プール施設の出入り口付近が不意に爆発した。
「えっ!?」
轟音とともに破砕された船の建材が降ってくる中、結城は吹き飛ばされた出入り口付近を見た。
爆煙と粉塵がもうもうと立ち昇り、支えを失った床の一部が斜めに傾いた。これも爆発に負けないほどの音を立てたため、結城は思わず身を震わせた。
「な、何?」
結城も、アテナたちも、クラーケンと同化したオスタケリオンさえも、爆発が起こった箇所に見入っていた。
唐突に起きた爆発。その正体は、
「ぜんそくぜんしん! いえっさー!」
爆煙の中から聞こえる重厚なエンジン音。粉塵を切り裂いて現れた鋼鉄の砲塔と車体。
それは傾いて斜面となった床を足がかりに、プール施設に堂々たる姿を見せた。
「せ、戦車!? 何で!?」
爆発を起こした船内から這い出てきたのは、まだ砲の先端から砲煙を燻らせている戦車だった。
それもただの戦車ではなく、幅も高さも3メートルを軽く超える巨体。全長に関しては10メートルはあろうか。
少なくとも結城の認識的には、それは通常の戦車のスケールと比べて規格外だった。
「うわっ!?」
戦場と化したプール施設に乗り込んできた巨大戦車は、結城の前まで来るとぴたりと停車した。
「え!? え!?」
絶体絶命の状況のはずなのに、いきなり登場した巨大戦車に、結城はただただ困惑するだけだった。そもそもどこにこんな巨大戦車があったのか。
「ゆうき! おまたせ!」
車体のハッチが開き、ひょこりと顔を出したのは、一旦姿を消していた媛寿だった。
「え、媛寿!?」
(そういえば『もう一個取ってくる』って……)
媛寿が去り際に残していった言葉を、結城はその時になって思い出していた。
「媛寿、これを取りに行ってたの!? というよりどこにあったの!?」
「ぶきがいっぱいあったとこ」
媛寿にそう言われ、結城は兵器保管庫を通り過ぎた際の記憶を手繰った。
あの時はクロランを追うのに必死になっていたが、言われてみればカバーをかけられた大きな物体があった気がする。
「こ、こんなの持ってきちゃって……いや、それよりも何で操縦できて――――――あっ」
言いかけて結城は思い出した。媛寿は『戦車でGO!』が大得意であったことを。
「みてろ植物型怪獣! えいがみたいにはいかないかんな!」
邪悪な姿に変貌したクラーケンに指を突きつけ、媛寿は戦車の車上から強く睨みつけた。
アテナはそこでグレネードランチャーを投げ捨て、肩に掛けていた弾薬ベルトも外す。いま撃ったもので、40mmグレネード弾は撃ち尽くしてしまった。
すぐにアテナは次の銃火器を手に取る。今度は箱型弾倉にたっぷりと7.62×51mm弾を収めたミニミ軽機関銃だった。
弾薬帯が本体にセットされていることを確認し、ついでにアテナは残りの銃火器を把握しておく。
ミニミ軽機関銃を含めれば、残りはM16A2アサルトライフル2丁、スミス&ウェッソンM19、デザードイーグル、そしてワルサーP38。あとは手榴弾が6個である。
(完全に趣味で集めましたね、エンジュ。でき得るならバズーカ砲や対戦車ミサイルが有用なのですが……)
アテナは手榴弾を一個持ち、口でピンを引き抜くと、
「今はこれで持ち堪えます!」
後ろに手榴弾を投げ放った。爆発が起きた地点では、ちょうど触手が迫っていたところだった。
爆煙を掻き分けると、アテナは一瞬だけキュウの様子を見た。
キュウは香炉の前に座って目を瞑り、それを結城が短剣を構えて守っている。
キュウがどのような術を使うのかはさておき、まだ時間を稼がなければならない。
クラーケンの触手による攻撃は手数を増しており、残りの火器でどこまで防ぎきれるか、アテナにも予測がつかなくなってきた。
(エンジュの支援が早いか、キュウの準備が完了するが早いか、はたまた弾薬が尽きるが早いか)
どこを取ってもギリギリの一線。絶体絶命とも呼べる状況において、アテナは胸に湧く高揚感に口角を少し上げた。
決して笑っていられる場面ではないはずなのだが、小林結城と一緒にいれば、そんな場面に遭うことが少なくない。
オリュンポス全盛の時代、大半の敵は数手で打倒してきたアテナにとって、味わう機会が十指にも満たなかった戦いが、現代の日本において幾つも巡りあえている。
その事実に、戦いの女神としての本分が昂ぶり、数千年に渡る退屈を打ち消された歓喜を得ていた。
(やはりあなたと共にいれば退屈しませんね)
「ユウキ!」
爆煙の向こう側から迫ってきた触手の群れに、アテナはミニミ軽機関銃の連射力で対抗する。
だが、クラーケンも知恵を付けてきたのか、触手の動きに変化が現れていた。
弾幕を避けるように動き始め、さらには縦方向のみに振り下ろしていた触手が、横方向の薙ぎ払いを行ってきた。
船体上部のプール施設を払うように振るわれた触手は、飛び込み台を折り倒し、銃で迎撃するアテナの元まで届こうとしていた。
「くっ!」
回避のために身体を捻ろうとしたアテナだったが、その前に弧を描いて触手に飛来するものがあった。
別々の角度から接敵した二つの回転体は、アテナに迫っていた触手の表面を風のように切り裂いた。
「OURAAA!」
続いて跳び上がった影が、手に持った石斧を重力落下も合わせて叩きつけ、表皮の傷をさらに深くした。
「WΩ1↓(間に合ったな)」
傷を負って海面へと引き返していく触手を背に、燕尾服姿のマスクマンが振り返った。すでに顔は偽装しておらず、元の単眼に乱杭歯の並んだ仮面に戻っている。
「ええ、充分に。むしろ早過ぎた程です」
到着したマスクマンに、アテナは微笑を返す。
「AΘ1→? FΠ2←(とりあえずどうすりゃいいんだ? あの女狐が何かやってるみたいだが)」
「それを邪魔されぬようにすれば、この怪魚を調理できます」
「GΦ、OΓ(よし、分かった)」
マスクマンが左手を上げると、図ったように二つの樫製ブーメランがそこへ収まった。
新たに加わった敵を前に、クラーケンは怒りの咆哮を上げる。が、アテナもマスクマンも、その怒声に何ら臆することはなかった。
海面から六本の触手が持ち上がり、二人に目がけて一気に振り下ろされる。
アテナとマスクマンは迎撃態勢を取るが、六本の触手は二人に届く前に先端が切り落とされた。
文字通り宙を舞うように現れた何者かが、日本刀と両手剣で触手を刺身よろしく切断せしめたのだ。
触手を切り落とされ悲鳴を上げるクラーケン。その声を背に受け着地したのは、ボロボロのメイド服を着た少女だった。
「この魚、なに?」
本来の得物を携えてやって来た銀色の短剣の化身、シロガネだった。
「CΞ4→GD(捌いて刺身にしていいらしいぞ)」
「了、解」
マスクマンからそう聞いたシロガネは、クラーケンに向き直ると、手に持った二振りの刀剣を構えた。
「シャアアア!」
オスタケリオンはアテナ、マスクマン、シロガネの三人を前に、さらに凶暴な敵意を剥きだした。その敵意はクラーケンにも伝わり、巨大なピラニアの頭部も天に向かって吼える。
すると、切られた六本の触手が痙攣を始めた。
耳障りな水音を立てる触手の切断面から、新たに触手を再生させると思いきや、全く別のものが生え出そうとしていた。
クラーケンの頭頂の時と同様、触手の切断面から、鋭利な歯を備えた口、赤く血走った眼を持つピラニアの頭部が現れた。
オスタケリオンがクラーケンに取り込まれた際、その身体には何匹ものピラニアが纏わりついていた。おそらくその分も反映させたということか。
「エンジュが見たら喜びそうな姿になりましたね」
「Hω9←、TΛ6↑?(聞きそびれてたが、コイツ、元は何だ?)」
「何でも、いい。斬る、だけ」
三者三様の反応の後、ピラニアの頭部が先端に生えた触手が襲い来る。新鮮な肉を求め、牙を打ち鳴らしながら。
アテナは軽機関銃を発砲、マスクマンはブーメランを投擲、シロガネは回避と同時に触手を輪切りにしていく。
が、ピラニア触手のインパクトが強かったために、アテナたちは見逃してしまっていた。
残り四本の触手が、まだ未使用だったことを。
「!? シロガネ! 危ない!」
「!、?」
音もなく側面から接近していた触手に気付いた結城が声を張り上げるも、シロガネは一瞬反応が遅れた。胴に巻きついた触手に締め上げられ、動きを封じられてしまった。
「シロガネ! くっ!?」
アテナも掃射を一時中断し、シロガネを救出しようとするが、駆け出そうとした脚に触手が絡みついた。
「うぐ!」
宙に持ち上げられ、逆さ吊りにされてしまうアテナ。
「SΦ……GΑ!?(この……が!?)」
石斧を振りかぶって触手を斬ろうとしたマスクマンも、振り上げた手首を触手に巻きつかれ、動きを止められた。
「アテナ様! マスクマン! シロガネ!」
三柱の神霊たちは、クラーケンの触手に捕らえられてしまった。
いつの間にかクラーケンもといオスタケリオンは、触手による攻撃方法をこれほどまでに学習していたのだ。
動きを封じられたアテナたちに、ピラニア触手がゆっくりと迫ってくる。まるでこれから催される血祭りを愉しむかのように。
「くっ!」
結城はすぐにでも助けに飛び出したいが、いまキュウの元を離れれば、それこそクラーケンはキュウまでも攻撃するかもしれない。
キュウはまだ目を閉じて香煙に集中している。どれくらいの進捗状況か分からないが、攻撃を受けてしまえば、ここまでのことが水の泡になる可能性もある。
結城は自身の力を過大も過小もなく、この場においてほとんど役に立たないと評価している。
アテナたちを助けに出たところでピラニアに喰われる確率が高く、キュウを守ろうと残ったところで触手に一撃で潰される確率が高い。
自分が弱いということは嫌というほど知っているが、この場ほど悔しい思いをするのも初めてだった。
しかし、悔やんだところでどうしようもない。結城にできるのは、この危機を打破できる強力な存在が駆けつけてくれるのを願うだけだった。
(誰か! 誰か来て! 誰か……媛寿!)
「ほうとうせんかい、よし。ぎょうかく、よし……てー!」
結城の願いが通じたのかどうか、プール施設の出入り口付近が不意に爆発した。
「えっ!?」
轟音とともに破砕された船の建材が降ってくる中、結城は吹き飛ばされた出入り口付近を見た。
爆煙と粉塵がもうもうと立ち昇り、支えを失った床の一部が斜めに傾いた。これも爆発に負けないほどの音を立てたため、結城は思わず身を震わせた。
「な、何?」
結城も、アテナたちも、クラーケンと同化したオスタケリオンさえも、爆発が起こった箇所に見入っていた。
唐突に起きた爆発。その正体は、
「ぜんそくぜんしん! いえっさー!」
爆煙の中から聞こえる重厚なエンジン音。粉塵を切り裂いて現れた鋼鉄の砲塔と車体。
それは傾いて斜面となった床を足がかりに、プール施設に堂々たる姿を見せた。
「せ、戦車!? 何で!?」
爆発を起こした船内から這い出てきたのは、まだ砲の先端から砲煙を燻らせている戦車だった。
それもただの戦車ではなく、幅も高さも3メートルを軽く超える巨体。全長に関しては10メートルはあろうか。
少なくとも結城の認識的には、それは通常の戦車のスケールと比べて規格外だった。
「うわっ!?」
戦場と化したプール施設に乗り込んできた巨大戦車は、結城の前まで来るとぴたりと停車した。
「え!? え!?」
絶体絶命の状況のはずなのに、いきなり登場した巨大戦車に、結城はただただ困惑するだけだった。そもそもどこにこんな巨大戦車があったのか。
「ゆうき! おまたせ!」
車体のハッチが開き、ひょこりと顔を出したのは、一旦姿を消していた媛寿だった。
「え、媛寿!?」
(そういえば『もう一個取ってくる』って……)
媛寿が去り際に残していった言葉を、結城はその時になって思い出していた。
「媛寿、これを取りに行ってたの!? というよりどこにあったの!?」
「ぶきがいっぱいあったとこ」
媛寿にそう言われ、結城は兵器保管庫を通り過ぎた際の記憶を手繰った。
あの時はクロランを追うのに必死になっていたが、言われてみればカバーをかけられた大きな物体があった気がする。
「こ、こんなの持ってきちゃって……いや、それよりも何で操縦できて――――――あっ」
言いかけて結城は思い出した。媛寿は『戦車でGO!』が大得意であったことを。
「みてろ植物型怪獣! えいがみたいにはいかないかんな!」
邪悪な姿に変貌したクラーケンに指を突きつけ、媛寿は戦車の車上から強く睨みつけた。
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