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友宮の守護者編
残るもの
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「とぉああぁ!」
あらん限りの気合を込めて、#結城____#は村正を袈裟懸けに斬り落とす。妖刀の刃が通った犬神の霊体は、断末魔を上げる間もなく虚空に消えていった。
友宮邸の中庭に、もう犬神は残っていなかった。結城たちは知りえなかったが、敷地外に逃亡しようとした犬神は全て、鈴鹿姫ことスズが殲滅していた。ついに友宮家の犬神を一匹残らず倒すことができたのだ。
「うあっ!」
激戦の終結に一息吐こうとした結城の脳に、妖刀村正の侵蝕が再び始まった。戦っている間は結城の闘志の方が勝っていたが、ほんのわずかな油断を突いて、村正は結城の肉体を支配しようと動き出した。
「結城、こっち向け!」
地面に落ちていた村正の鞘を拾った千夏が、結城が振り返ったタイミングを見計らって鞘を宙に投げ上げた。鞘は鯉口が下になって落下し、村正の切っ先に重なって滑らかに納刀が完了した。
「じゃ、コレは返してもらうからな」
「ハア……ハア……」
鞘込めになった村正を千夏が取り上げたことで、結城は妖刀の支配から解放された。それまでの負担が一気に押し寄せ、大きく息切れしてしまう。
「あたしはもう引き上げるけど、ここに鬼の子孫が来たことやキュウ様のことは内緒にしといてくれよな、結城」
結城は気絶している佐権院の方を一瞥した。千夏が言わんとしていることは、おそらく佐権院のことだろう。以前、千夏やキュウは自分たちのことが人間に知られると面倒なことになると言っていたのを思い出した。
「分かりました。それと千夏さん、助けに来てくれてありがとう。キュウ様にもお礼を言っておいてください」
「感謝してるってんなら、一晩くらいあたしやキュウ様に付き合えよ。たっぷり気持ちイイことしてやるよ。三十発くらい」
「そ、それはちょっと……」
搾り取られて干物同然になった九木を目の当たりにした結城としては、千夏の誘いには簡単に乗るわけにはいかない。乗ったら文字通り、精も根も吸い枯らされてしまう。ついでに童貞も手伝って、結城に乗る度胸はない。
「毎度のことながら節操がなさ過ぎますよ、チナツ。あなたの貞操観念はどうなっているのですか?」
結城が苦笑いで困惑しているところに、多少回復したアテナが割り込んできた。
「未だに処女守ってるおカタイ女神サマに言われてもな~。この先も長いんだから、これくらいの愉しみがあったっていいじゃんか」
「あ、あなたには関係ないでしょう!」
千夏の反論に、アテナが赤面しながら怒声を上げた。この手の話題に触れられると、アテナは滅法弱い。
「と、とにかく、私の戦士に無粋な誘惑をしないでください……ただ、今回の助成については感謝しています。キュウにもそのことは伝えてください」
「……分かったよ、女神サマ。けど、コイツだけはもらってくぜ」
言いながら千夏は原木本の首根っこを掴んで持ち上げた。
「へっ!? 千夏姉ちゃん!?」
「半世紀も何してやがったのか、お仕置きしながらじっくり聞かせてもらうからな!」
「わっ! ちょっ!」
「じゃあな、結城。女神サマ」
原木本を吊るし上げたまま、千夏は友宮邸の塀を飛び越えて去っていった。
嵐の如き戦いは終わりを告げ、友宮家に関わる結城たちの依頼はこれにて達成された。
気絶から覚めた佐権院の主導により、友宮邸にようやく専門機関の人間たちが入り、今回の一件の後始末が開始された。
トミーと姿を消す精霊は一旦身柄を拘束され、追って処遇を待つことになる。
友宮咆玄が組み上げた儀式は専門の人間たちが解体し、他にも違法な呪術を行っていなかったかが捜査され、然る後に友宮家の全ては国の管理下に置かれるだろう。
そして、今回の一件の中心人物であり、一番の犠牲者でもある友宮里美が救急車両に運ばれていく様子を、結城は複雑な表情で見つめていた。
「ゆうき、げんきげんき」
結城に肩車されていた媛寿が、チョコレート菓子『キットキットカット』を差し出してきた。結城の様子を見て、励まそうとしているらしい。
「ありがとう、媛寿……」
キットキットカットを受け取るも、結城の懸念はまだ蟠っていた。この一件で、友宮里美は大抵のものを失った。友宮家の因習『犬神憑き』によって実母を失い、義理の父を失い、この世に一人残されてしまった。いまは安らかに眠っているが、目覚めればいずれ全てを知らされることになるだろう。佐権院たちに任せれば悪いようにはしないだろうし、今後の身の振りについても考えてくれると思うが、それでも里美がさらされる状況は十代の少女には重過ぎる。
大口真神、虎丸からの依頼、『友宮里美を救う』ことが果たしてできたと言えるのか。結城は些か自信がなくなっていた。
そんな結城の心情を察してか、媛寿は里美の乗るストレッチャーの傍らを指差して言った。
「ゆうき、だいじょうぶ。あれ、あれ」
「んぅ?」
媛寿が指差した方をよく見ると、ストレッチャーのキャスター付近に、野球ボール程度の毛玉が確認できた。それは救急車両に移動していくストレッチャーを転がるように追い、小さくて短い尻尾を振りながら時折跳ねている。
「……あぁ」
ほんの一握り程度のサイズだったが、それは紛れもなく犬の形をしていた。救急スタッフたちは霊能力を持っていないのか、その小さな犬が里美を追いかけていることに気付いていない。
「トラマルは消滅する直前に、あの神使をサトミに遣わしたのですね。あの娘の先を案じて」
結城の横に並んだアテナもまた、感慨深げに見えざる仔犬を見つめていた。
「ねっ? だいじょうぶ!」
結城の頭頂に体を預けながら、媛寿は満面の笑みを浮かべた。座敷童子のその笑顔こそが、里美の将来を何よりも保証していた。
「そっか……よかったよ……」
全てが十全に叶ったわけではない。それでも、ほんの少しだけ救いがもたらされた。それは二百年の歳月によって増え続けた怨念をも凌駕する、たった一柱の年経た狼神が抱いた、純粋な想いの欠片だった。
「あの小さい仔が付いててくれるなら、きっと大丈夫だよね……けどいいのかい、媛寿? 虎丸のこと、けっこう気に入ってたでしょ?」
里美の心配が軽くなった結城だったが、今度は少しばかり媛寿のことが気になってきた。虎丸が来てから、ベッタリとくっついていた媛寿が、虎丸と別れることになって落ち込んでいないかと思ったからだ。
「……えんじゅには、ゆうきがいるからいいもん……」
結城の問いに少し間を置いてから、媛寿は結城の頭髪に顔を埋めながら答えた。
「ええっ! 僕って媛寿のペットだったの!? それはちょっと何だかなぁ~」
間を置いてから答えた媛寿の様子は、どうも強がっているように思えたので、結城も励ますつもりでいつもよりおどけた調子を出した。
「……ちがうもん……ゆうきはえんじゅのたいせつな―――だもん……」
結城の髪に顔を埋めながらそう言った媛寿の口調は、日頃の子どもらしい明るさではなく、静かすぎて消え入りそうなものだった。
「えっ? 何っ? 何て言ったの?」
「おしえないも~ん!」
「え~、気になるんだけど。まさかホントにペットじゃないよね?」
重要な部分をはぐらかす媛寿に眉根を寄せる結城だったが、その横に立っていたアテナは頬を淡く染めながら明後日の方を向いていた。ほんのわずかだったが、媛寿が掠れるような小声で囁いた言葉を聞いてしまっていた。『たいせつなおとこのこ』、と。
処理班や救護班が入り乱れる地上を背に、佐権院は瓦礫が散乱する螺旋階段を下りていた。本来なら装備を整えた上でなければ危ういところだが、眼鏡形態に変じたトオミのサポートがあれば、レーダーや暗視スコープを持っている以上に安全な探査を行うことができる。
崩れかかった階段の中を、強固で歩き易い足場を見つけ、最短時間で底部まで辿り着いた。
瓦礫と化した岩壁や天井で、地下拝殿は完全に埋まってしまっているが、その入り口には力なく背を曲げ、座り込んでいる影があった。一連の元凶、友宮咆玄の亡霊だった。もっとも、建御名方の一撃を受けてしまい、霊魂の残り滓と言えるほどに弱りきっていた。
「わしは……わしはただ……房乃の娘を……房乃のような不幸に……遭わせたくなかっただけ……なのに……」
亡霊となってまで完成させた術が完全に裏目に出てしまい、その結果と現世に留まる意義の矛盾によって、もはや友宮咆玄の魂は壊れかけの機械同然の状態だった。このまま放置したとしても、ただ心情を吐露し続けるだけの誰一人祟る力もない不浄霊になるだけだが、佐権院にはどうしても友宮咆玄に尋ねておくことがあった。
「あの二重ゴーレムはどこから手に入れた? 他の番兵たちは何かしらの縁故があったかもしれないが、ゴーレムだけは事情が違うはずだ。一体どこの組織から仕入れた?」
「……わしは……わしはただ……」
佐権院の問いに、友宮咆玄はまるで答える気配はない。相変わらず誰に聞かせるわけでもない、言い訳じみた文言を呟いているだけだった。
その様子を見た佐権院は、懐から無地の短冊を一枚取り出した。
「これには祈りの真言が書かれている。これを読み上げれば、どんな霊であろうとも安らかに冥府へ送られる。私の問いに答えるならば、今すぐにあなたを浄霊しよう。ただし、冥府での審判は決して良いものになるとは思えないが、ね」
「……」
それまでうわ言のように呟いていた言葉が途切れ、しばらく沈黙が続いた。すると何の前触れもなく、友宮咆玄はただ一言を口にした。
「―――」
その一言を確かに聞いた佐権院は、短冊に書かれていた真言を読み上げ、友宮咆玄の霊を幽世へと旅立たせた。
あらん限りの気合を込めて、#結城____#は村正を袈裟懸けに斬り落とす。妖刀の刃が通った犬神の霊体は、断末魔を上げる間もなく虚空に消えていった。
友宮邸の中庭に、もう犬神は残っていなかった。結城たちは知りえなかったが、敷地外に逃亡しようとした犬神は全て、鈴鹿姫ことスズが殲滅していた。ついに友宮家の犬神を一匹残らず倒すことができたのだ。
「うあっ!」
激戦の終結に一息吐こうとした結城の脳に、妖刀村正の侵蝕が再び始まった。戦っている間は結城の闘志の方が勝っていたが、ほんのわずかな油断を突いて、村正は結城の肉体を支配しようと動き出した。
「結城、こっち向け!」
地面に落ちていた村正の鞘を拾った千夏が、結城が振り返ったタイミングを見計らって鞘を宙に投げ上げた。鞘は鯉口が下になって落下し、村正の切っ先に重なって滑らかに納刀が完了した。
「じゃ、コレは返してもらうからな」
「ハア……ハア……」
鞘込めになった村正を千夏が取り上げたことで、結城は妖刀の支配から解放された。それまでの負担が一気に押し寄せ、大きく息切れしてしまう。
「あたしはもう引き上げるけど、ここに鬼の子孫が来たことやキュウ様のことは内緒にしといてくれよな、結城」
結城は気絶している佐権院の方を一瞥した。千夏が言わんとしていることは、おそらく佐権院のことだろう。以前、千夏やキュウは自分たちのことが人間に知られると面倒なことになると言っていたのを思い出した。
「分かりました。それと千夏さん、助けに来てくれてありがとう。キュウ様にもお礼を言っておいてください」
「感謝してるってんなら、一晩くらいあたしやキュウ様に付き合えよ。たっぷり気持ちイイことしてやるよ。三十発くらい」
「そ、それはちょっと……」
搾り取られて干物同然になった九木を目の当たりにした結城としては、千夏の誘いには簡単に乗るわけにはいかない。乗ったら文字通り、精も根も吸い枯らされてしまう。ついでに童貞も手伝って、結城に乗る度胸はない。
「毎度のことながら節操がなさ過ぎますよ、チナツ。あなたの貞操観念はどうなっているのですか?」
結城が苦笑いで困惑しているところに、多少回復したアテナが割り込んできた。
「未だに処女守ってるおカタイ女神サマに言われてもな~。この先も長いんだから、これくらいの愉しみがあったっていいじゃんか」
「あ、あなたには関係ないでしょう!」
千夏の反論に、アテナが赤面しながら怒声を上げた。この手の話題に触れられると、アテナは滅法弱い。
「と、とにかく、私の戦士に無粋な誘惑をしないでください……ただ、今回の助成については感謝しています。キュウにもそのことは伝えてください」
「……分かったよ、女神サマ。けど、コイツだけはもらってくぜ」
言いながら千夏は原木本の首根っこを掴んで持ち上げた。
「へっ!? 千夏姉ちゃん!?」
「半世紀も何してやがったのか、お仕置きしながらじっくり聞かせてもらうからな!」
「わっ! ちょっ!」
「じゃあな、結城。女神サマ」
原木本を吊るし上げたまま、千夏は友宮邸の塀を飛び越えて去っていった。
嵐の如き戦いは終わりを告げ、友宮家に関わる結城たちの依頼はこれにて達成された。
気絶から覚めた佐権院の主導により、友宮邸にようやく専門機関の人間たちが入り、今回の一件の後始末が開始された。
トミーと姿を消す精霊は一旦身柄を拘束され、追って処遇を待つことになる。
友宮咆玄が組み上げた儀式は専門の人間たちが解体し、他にも違法な呪術を行っていなかったかが捜査され、然る後に友宮家の全ては国の管理下に置かれるだろう。
そして、今回の一件の中心人物であり、一番の犠牲者でもある友宮里美が救急車両に運ばれていく様子を、結城は複雑な表情で見つめていた。
「ゆうき、げんきげんき」
結城に肩車されていた媛寿が、チョコレート菓子『キットキットカット』を差し出してきた。結城の様子を見て、励まそうとしているらしい。
「ありがとう、媛寿……」
キットキットカットを受け取るも、結城の懸念はまだ蟠っていた。この一件で、友宮里美は大抵のものを失った。友宮家の因習『犬神憑き』によって実母を失い、義理の父を失い、この世に一人残されてしまった。いまは安らかに眠っているが、目覚めればいずれ全てを知らされることになるだろう。佐権院たちに任せれば悪いようにはしないだろうし、今後の身の振りについても考えてくれると思うが、それでも里美がさらされる状況は十代の少女には重過ぎる。
大口真神、虎丸からの依頼、『友宮里美を救う』ことが果たしてできたと言えるのか。結城は些か自信がなくなっていた。
そんな結城の心情を察してか、媛寿は里美の乗るストレッチャーの傍らを指差して言った。
「ゆうき、だいじょうぶ。あれ、あれ」
「んぅ?」
媛寿が指差した方をよく見ると、ストレッチャーのキャスター付近に、野球ボール程度の毛玉が確認できた。それは救急車両に移動していくストレッチャーを転がるように追い、小さくて短い尻尾を振りながら時折跳ねている。
「……あぁ」
ほんの一握り程度のサイズだったが、それは紛れもなく犬の形をしていた。救急スタッフたちは霊能力を持っていないのか、その小さな犬が里美を追いかけていることに気付いていない。
「トラマルは消滅する直前に、あの神使をサトミに遣わしたのですね。あの娘の先を案じて」
結城の横に並んだアテナもまた、感慨深げに見えざる仔犬を見つめていた。
「ねっ? だいじょうぶ!」
結城の頭頂に体を預けながら、媛寿は満面の笑みを浮かべた。座敷童子のその笑顔こそが、里美の将来を何よりも保証していた。
「そっか……よかったよ……」
全てが十全に叶ったわけではない。それでも、ほんの少しだけ救いがもたらされた。それは二百年の歳月によって増え続けた怨念をも凌駕する、たった一柱の年経た狼神が抱いた、純粋な想いの欠片だった。
「あの小さい仔が付いててくれるなら、きっと大丈夫だよね……けどいいのかい、媛寿? 虎丸のこと、けっこう気に入ってたでしょ?」
里美の心配が軽くなった結城だったが、今度は少しばかり媛寿のことが気になってきた。虎丸が来てから、ベッタリとくっついていた媛寿が、虎丸と別れることになって落ち込んでいないかと思ったからだ。
「……えんじゅには、ゆうきがいるからいいもん……」
結城の問いに少し間を置いてから、媛寿は結城の頭髪に顔を埋めながら答えた。
「ええっ! 僕って媛寿のペットだったの!? それはちょっと何だかなぁ~」
間を置いてから答えた媛寿の様子は、どうも強がっているように思えたので、結城も励ますつもりでいつもよりおどけた調子を出した。
「……ちがうもん……ゆうきはえんじゅのたいせつな―――だもん……」
結城の髪に顔を埋めながらそう言った媛寿の口調は、日頃の子どもらしい明るさではなく、静かすぎて消え入りそうなものだった。
「えっ? 何っ? 何て言ったの?」
「おしえないも~ん!」
「え~、気になるんだけど。まさかホントにペットじゃないよね?」
重要な部分をはぐらかす媛寿に眉根を寄せる結城だったが、その横に立っていたアテナは頬を淡く染めながら明後日の方を向いていた。ほんのわずかだったが、媛寿が掠れるような小声で囁いた言葉を聞いてしまっていた。『たいせつなおとこのこ』、と。
処理班や救護班が入り乱れる地上を背に、佐権院は瓦礫が散乱する螺旋階段を下りていた。本来なら装備を整えた上でなければ危ういところだが、眼鏡形態に変じたトオミのサポートがあれば、レーダーや暗視スコープを持っている以上に安全な探査を行うことができる。
崩れかかった階段の中を、強固で歩き易い足場を見つけ、最短時間で底部まで辿り着いた。
瓦礫と化した岩壁や天井で、地下拝殿は完全に埋まってしまっているが、その入り口には力なく背を曲げ、座り込んでいる影があった。一連の元凶、友宮咆玄の亡霊だった。もっとも、建御名方の一撃を受けてしまい、霊魂の残り滓と言えるほどに弱りきっていた。
「わしは……わしはただ……房乃の娘を……房乃のような不幸に……遭わせたくなかっただけ……なのに……」
亡霊となってまで完成させた術が完全に裏目に出てしまい、その結果と現世に留まる意義の矛盾によって、もはや友宮咆玄の魂は壊れかけの機械同然の状態だった。このまま放置したとしても、ただ心情を吐露し続けるだけの誰一人祟る力もない不浄霊になるだけだが、佐権院にはどうしても友宮咆玄に尋ねておくことがあった。
「あの二重ゴーレムはどこから手に入れた? 他の番兵たちは何かしらの縁故があったかもしれないが、ゴーレムだけは事情が違うはずだ。一体どこの組織から仕入れた?」
「……わしは……わしはただ……」
佐権院の問いに、友宮咆玄はまるで答える気配はない。相変わらず誰に聞かせるわけでもない、言い訳じみた文言を呟いているだけだった。
その様子を見た佐権院は、懐から無地の短冊を一枚取り出した。
「これには祈りの真言が書かれている。これを読み上げれば、どんな霊であろうとも安らかに冥府へ送られる。私の問いに答えるならば、今すぐにあなたを浄霊しよう。ただし、冥府での審判は決して良いものになるとは思えないが、ね」
「……」
それまでうわ言のように呟いていた言葉が途切れ、しばらく沈黙が続いた。すると何の前触れもなく、友宮咆玄はただ一言を口にした。
「―――」
その一言を確かに聞いた佐権院は、短冊に書かれていた真言を読み上げ、友宮咆玄の霊を幽世へと旅立たせた。
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