小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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友宮の守護者編

残滓

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 まともな明かりがなく、暗闇に近い状態だったために、結城は螺旋階段の先に空間が開いていることに気付けなかった。目が慣れてきたことと、空間の先に淡い光源があったことで、ようやく周囲の状況を把握できた。
 そこはドーム状の空間になっていた。微かな光だけが頼りなので、全体の面積までは掴めないが、相当広い場所であることは分かった。その奥にある柱のようなオブジェが、暗所で光る蛍光塗料に似た淡い光を放っていた。
「まさかここまで侵入してくる輩がいようとはな。わしが用意した守衛すらも突破して」
 地下空間に重苦しい男の声が響き渡る。結城が目を凝らすと、光る柱のすぐ傍に座る人物が見えた。体格の良い和装の男が背を向けている。羽織には獣の牙をかたどった家紋が見て取れた。
「友宮家の家紋……あなたは、友宮咆玄ともみやほうげん!」
 その人物に見当が付いた佐権院さげんいんが名指しする。
「いかにも」
 今回の依頼の発端、友宮家現当主、友宮咆玄。行き掛かり上とはいえ、結城はこの一件の最重要人物と相対することとなった。
「それで、お前たちは何だ? この場まで来た以上、何も知らんということもあるまい」
「私は佐権院蓮吏さげんいんれんり。佐権院家の現当主であり、警察官だ。あなたの行っていることは、裏の六法に著しく違反する。即刻儀式を中止し、出頭していただこう」
「佐権院か。平安の頃より護国鎮守を任ぜられた家名の一つ。噂で聞いたことはあったが、今は官憲も兼ねているか」
「それよりも儀式の中断が可能なら、早々に停止することを要求する。さもなくば、こちらも強硬手段に打って出る」
 佐権院と友宮咆玄の会話が続く中、結城はある違和感を覚えていた。友宮咆玄は確かに結城たちを認識し、受け答えをしているが、なぜか背を向けたまま微動だにしない。神降ろしの儀式を行っているのが友宮咆玄であるのは間違いないため、今なお儀式を遂行しているので、こちらに向き直れないとも考えられる。しかし、それにしても結城の違和感は膨らんでいくばかりだった。
 マスクマンから周囲の状況を把握するためには、目だけに頼ってはいけない。全ての感覚を以って気配を探ることが重要だと言われていた。そのための訓練もしていた結城にとって、佐権院と友宮咆玄の会話は異様だった。存在感が一方にしか感じられない。その一方は佐権院である。では、その佐権院が会話している友宮咆玄は―――。
「? 小林くん?」
 媛寿を抱えたまま立ち上がり、友宮咆玄に向かって歩いていく結城を見て、佐権院は思わず言葉を切った。結城は傷の痛みと薄暗い足元によろけながらも、和装の男の元へ歩いていく。ちょうど座っている男の真横に立った時、結城は息を呑んで目を丸くした。
「さ、佐権院警視……」
「?」
 驚愕の表情を浮かべて固まる結城を不審に思い、佐権院も警戒しながらではあるが、友宮咆玄の側面まで歩いていった。そこで佐権院は、結城がなぜ驚きに顔を引きつらせたのか、その理由を知った。
 確かにそこにいたのは友宮咆玄だった。結城も佐権院も、写真で顔を見ていたので、本人と確認することができた。しかし、顔や手は土気色に染まり、頬はこけ、眼は落ち窪み、光を放っていなかった。
 友宮咆玄は、すでにむくろと成り果てていた。
「佐権院警視、これってどういう……」
「バカな。友宮咆玄が死んでいたなら、儀式を継続させられるわけがない。今なお神降ろしの儀式の影響は出ているというのに…………ん?」
 全く予想だにしなかった事態に見舞われ、混乱しかかった佐権院だったが、ふと目に入ったものを凝視した。友宮咆玄の遺骸の首元。皮膚の変質は始まっていたため見辛かったが、首筋に噛み痕のようなあざが残っていた。
「……そうか。神降ろしの儀式はそのために」
「佐権院警視、いったいどういうことなんですか?」
「友宮家は限界に達していたということだ。そうだな? 友宮咆玄」
 佐権院の呼びかけに応えるように、結城たちの前にもやに似たものが現れた。それは少しずつ輪郭が整い、やがて人の形へと変わっていった。
 最終的に色彩も得たその存在を目の当たりにして、またも結城は驚愕した。そこにいたのは、以前写真で見た友宮咆玄、そのままの姿だった。
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