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友宮の守護者編

命無き騎士

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 その場にいた誰もが、目の前で起こった異様に驚きを隠せないでいた。
 佐権院とトオミは確かに判断した。行く手を遮るように置かれたフルプレートアーマーには、何も特別な処理は施されていない、と。
 結城と媛寿も確かに判断した。フルプレートアーマーの中身は人間どころか生き物ですらない、と。
 だからこそ、現状への認識が追いつかなくなっていた。完全な無害と思った甲冑が、恐ろしいほどの機敏さで攻撃してきた事実に。
 甲冑は床にめり込んだハルバートを引き抜くと、再度攻撃するべく、得物を大きく振りかぶる。
 驚愕に呆けていた結城は、そこでハッとなって意識を戻した。原理は分からないが、謎の甲冑は敵として立ちはだかっている。ここでへたり込んでいては、ハルバートで叩き潰されるだけだ。身をよじり、ハルバートの攻撃範囲から外れる。結城がそれまでいた場所に、ハルバートは無慈悲に振り下ろされるが、そこには既に何もない。
「媛寿、ちょっと僕の中に入ってて」
「うん」
 甲冑の第二攻撃を避けた結城は、木刀を構え直しつつ、媛寿の安全を図る。結城に肩車で乗っていた媛寿の姿は、霧が晴れるように薄まり、結城の体に合わさって消えた。
 住居を表す字を名前に持つ結城は、家神の座敷童子が憑くことができる数少ない人間である。
 結城の中に匿うことで、媛寿の安全は確保した。またも床にめり込んだハルバートを引き抜くまでの隙をついて、結城は極太の木刀で袈裟斬りに跳びかかる。
 狙うはヘルム。たとえ金属製の防具で全身を固めていたとしても、一切ダメージを受けないということはない。武器を打ちつけられた際の衝撃までは防ぎようがないので、鎧を着込んだ相手には脳震盪のうしんとうを狙ってかかるべし。結城はアテナの鍛錬で習ったことを実践すべく、甲冑の頭部に渾身の一撃を見舞った。
 相手の正体が何であろうと、中身があるなら頭部への衝撃はこたえるはず。重い木刀による袈裟斬りは、兜を的確に捉え、鈍い音を立てて震わした。
 一瞬、甲冑は動きを止めたが、すぐさま左腕の裏拳が結城の腹部へと振るわれた。
「うっ!」
 危険を察知した結城は考えるよりも速く後ろへ跳ぶ。篭手ガントレットに施されたスパイクが掠め、上着に真一文字の切れ目を入れられたが、ダメージはなかった。直撃していれば、交通事故レベルの怪我を負っていたかもしれない。避けられたにもかかわらず、結城はその状況にぞっとした。
 甲冑が結城に意識を向けている間に、佐権院さげんいんは持参した刀袋から得物を取り出した。
 見た目は普通の日本刀と変わらないが、その内実は大きく異なる。霊能力者の中には攻撃能力に優れる者も存在するが、佐権院の場合は『霊視』であるため、直接の攻撃力はない。そういった霊能力者たちは、人ならざる者を討った伝承を持つ武器のレプリカを作成し、攻撃手段の一つとする。
 佐権院の得物は九字兼定くじかねさだなかごに九字が刻まれた、この世ならざる者を斬ることができる刀の一振りだった。
 高速の抜刀で鞘から刀身を抜いた佐権院は、柄を右脇に挟み込むようにして甲冑に突撃する。刀のブレを最小限に留め、正確に鎧の隙間に突き入れる剣技。戦国時代に培われた介者剣法の一つだった。
 眼鏡形態のトオミのサポートと、甲冑が完全に逆方向を向いていたこともあり、剣先は胴の間接に深々と突き刺さった。
「!?」
 確実に決まった一閃だったが、佐権院はその手応えに違和感を覚えた。刀を通して伝わってきた感触は、生物の肉感とは程遠い。かといって硬質でもない。粘性に近い何かが、甲冑内を蠢いていた。
 そして甲冑もまた、佐権院の存在を感知し、反撃に転じようとしていた。床から引き抜いたハルバートを振り上げ、穂先を佐権院の頭頂に突き下ろしてくる。
蓮吏れんり!」
「ぬっ!」
 トオミの注意喚起を聞き、佐権院は刀を引き抜きつつ後ろへ跳んで間合いを空ける。
 本来なら致命傷のはずだが、甲冑はまだなお平然と動き、床からハルバートの穂先を引き抜いている。
 人間が入っているわけでもなく、生物ですらない。無生物に近いが、動作して戦闘行為までこなす。正体不明のフルプレートアーマーを前に、佐権院は歯噛みした。
 再度、突きを放とうと九字兼定のレプリカを構えるが、そこで佐権院は刀身に付着している物に気付いた。それはごくありふれた物ではあるが、普通は甲冑に突き入れた刀身にまとわりつく物ではない。
「っ! トオミ、霊視モードを変更!」
 佐権院は一つの仮説に思い至った。それが正しいならば、甲冑に生物的な反応がないのも、通常の霊視で正体が見抜けなかったのも頷ける。霊視能力を先程とは違う性質を視るために行使した。
「やはりそうか。これは……」
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