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友宮の守護者編
起動
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廊下の真ん中に屹立するフルプレートアーマーを相手に、結城たちはしばらく睨み合いを続けていた。森林の精霊、銃使いの用心棒、怪力の青年とくれば、立ち塞がるようにそこに在る甲冑もまた、友宮の抱える対侵入者用の備えである可能性は極めて高い。
ここまで来たのは結城、媛寿、佐権院、トオミ、そして犬神の虎丸のみ。いずれの敵も強大な能力を有していたため、今のメンバーでどこまで対抗できるのか。
緊張の汗が結城の頬を伝って落ちた。
「トオミ、奴は?」
「……生体反応なし。今のところ、ただの甲冑」
下手に動けない膠着状態にあって、佐権院はまず最低限の情報取得を試みた。眼鏡の化身であるトオミは『視る』ことに特化した能力を持つ。単なる遠視に限らず、様々な情報分析にも力を発揮する。
トオミが判断したならば、甲冑には誰も入っていないことになる。佐権院もまた、自身の霊能力である『霊視』を使ってみるが、廊下の先に立つ甲冑には何も取り憑いてなどいない。
本当にただのフルプレートアーマーということになる。
しかし、そのサイズは身長3メートルには届こうかというほど大型であり、腕や脚の太さなどは結城の胴回りくらいはある。どう考えても人間が着用する代物ではない。
(ただのコケ脅し……か?)
甲冑が置かれている意味を思考しながら、佐権院は虎丸に目をやった。虎丸は全身の毛を逆立て、しきりに唸り声を上げている。元から持っていた動物的直感が、甲冑の存在を脅威と見なしているのか。
(あるいは……)
佐権院が謎の甲冑に関して推理している横で、結城に肩車で乗っていた媛寿が左袖をまさぐってある物を取り出した。おもちゃのスリングショットとビー玉1個だった。
スリングショットを左手に構え、ゴム紐にビー玉を引っ掛け、媛寿は甲冑に狙いを定めた。
「? 媛寿!?」
肩の上に乗る座敷童子が何かしようとしていることに気付いた結城だったが、その時にはもう媛寿は伸びきったゴム紐から手を離していた。
「不幸玉(小)!」
ゴムの弾性で発射されたビー玉はたちまち黒く染まり、甲冑の兜に小気味よい金属音を立てて命中した。黒いビー玉は廊下に敷かれたカーペットの上を何度か跳ね、やがて端の壁に当たって落ち着いた。
この一連の意味を結城は理解していた。
媛寿の不幸玉は受けた相手の運を急激に不運へと変える。また、この世ならざる存在に対しても、強力な重圧を与える効果を持つ。本来は媛寿の持つ鞠に不運を凝縮して放つため、発現までに時間がかかる技だが、ビー玉程度のサイズであればほとんど時間をかけずに使用することができる。
その不幸玉を受けて何かしらの不運に見舞われることもなく、他に何の変化もなかったことを踏まえると、廊下に立つ甲冑は本当にただの置物ということになる。
「ほっ、佐権院警視、どうやらあれは何でもな―――――」
「ゆうきっ!」
「小林くんっ!」
一息ついて佐権院の方に顔を向けた結城に、媛寿と佐権院は切迫した声で名を呼んだ。結城は気付いていなかったが、数メートル離れていた距離をほんの一足跳びで詰めてきた甲冑が、手に持ったハルバートを振り下ろす瞬間だった。
「ふにゅぅっ!」
「痛っ!」
咄嗟に媛寿は結城の髪を思い切り引っ張り、頭を反らせて体勢を崩させた。危うく真っ二つになるところ、ハルバートの斧部は床を砕いただけに留まった。
「ど、どういうこと? コレ……」
廊下で尻餅をついた結城を、闇のように先の見えない兜の面が見据えていた。
ここまで来たのは結城、媛寿、佐権院、トオミ、そして犬神の虎丸のみ。いずれの敵も強大な能力を有していたため、今のメンバーでどこまで対抗できるのか。
緊張の汗が結城の頬を伝って落ちた。
「トオミ、奴は?」
「……生体反応なし。今のところ、ただの甲冑」
下手に動けない膠着状態にあって、佐権院はまず最低限の情報取得を試みた。眼鏡の化身であるトオミは『視る』ことに特化した能力を持つ。単なる遠視に限らず、様々な情報分析にも力を発揮する。
トオミが判断したならば、甲冑には誰も入っていないことになる。佐権院もまた、自身の霊能力である『霊視』を使ってみるが、廊下の先に立つ甲冑には何も取り憑いてなどいない。
本当にただのフルプレートアーマーということになる。
しかし、そのサイズは身長3メートルには届こうかというほど大型であり、腕や脚の太さなどは結城の胴回りくらいはある。どう考えても人間が着用する代物ではない。
(ただのコケ脅し……か?)
甲冑が置かれている意味を思考しながら、佐権院は虎丸に目をやった。虎丸は全身の毛を逆立て、しきりに唸り声を上げている。元から持っていた動物的直感が、甲冑の存在を脅威と見なしているのか。
(あるいは……)
佐権院が謎の甲冑に関して推理している横で、結城に肩車で乗っていた媛寿が左袖をまさぐってある物を取り出した。おもちゃのスリングショットとビー玉1個だった。
スリングショットを左手に構え、ゴム紐にビー玉を引っ掛け、媛寿は甲冑に狙いを定めた。
「? 媛寿!?」
肩の上に乗る座敷童子が何かしようとしていることに気付いた結城だったが、その時にはもう媛寿は伸びきったゴム紐から手を離していた。
「不幸玉(小)!」
ゴムの弾性で発射されたビー玉はたちまち黒く染まり、甲冑の兜に小気味よい金属音を立てて命中した。黒いビー玉は廊下に敷かれたカーペットの上を何度か跳ね、やがて端の壁に当たって落ち着いた。
この一連の意味を結城は理解していた。
媛寿の不幸玉は受けた相手の運を急激に不運へと変える。また、この世ならざる存在に対しても、強力な重圧を与える効果を持つ。本来は媛寿の持つ鞠に不運を凝縮して放つため、発現までに時間がかかる技だが、ビー玉程度のサイズであればほとんど時間をかけずに使用することができる。
その不幸玉を受けて何かしらの不運に見舞われることもなく、他に何の変化もなかったことを踏まえると、廊下に立つ甲冑は本当にただの置物ということになる。
「ほっ、佐権院警視、どうやらあれは何でもな―――――」
「ゆうきっ!」
「小林くんっ!」
一息ついて佐権院の方に顔を向けた結城に、媛寿と佐権院は切迫した声で名を呼んだ。結城は気付いていなかったが、数メートル離れていた距離をほんの一足跳びで詰めてきた甲冑が、手に持ったハルバートを振り下ろす瞬間だった。
「ふにゅぅっ!」
「痛っ!」
咄嗟に媛寿は結城の髪を思い切り引っ張り、頭を反らせて体勢を崩させた。危うく真っ二つになるところ、ハルバートの斧部は床を砕いただけに留まった。
「ど、どういうこと? コレ……」
廊下で尻餅をついた結城を、闇のように先の見えない兜の面が見据えていた。
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