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友宮の守護者編

雨と雲

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 マスクマンを射ようとした姿なき精霊は違和感を覚えた。頭に一滴ほどの冷たい感覚があったからだ。すぐに雨の雫だと分かったが、それまで雨の降る気配などなかったはずだった。
 見上げるといつの間にか、今にも泣き出しそうな雨雲が立ち込めていた。その雲はすぐさま大粒の雨を落としてきた。一寸先の視界すら塞いでしまうような豪雨が、友宮邸の森林にのみ降り注いだ。
 滝の流れのような雨に打たれたせいで、姿なき精霊の弓は完全に照準を外してしまった。たとえ次の矢を番えたとしても、視界不良と雨の勢いに負けてまともに射ることは適わないだろう。
「QW? QW、NB、LR(何だ? 何で、いきなり、雨が……)」
 突然の豪雨に戸惑った瞬間を見計らったかのように、姿なき精霊に何かが衝突した。構えていた弓を裂き、体幹に強い衝撃を受けたため、木の枝から真っ逆さまに落下する。
 何とか体勢を整えて着地した時、姿なき精霊は自分に衝撃を見舞った物を視認した。弧を描いて空を切り裂き飛んでいく、一振りのブーメラン。それが自分を攻撃した飛来物だったと知り、驚愕した。
「FG、A(バカ、な……)」
 体全体を打つ雨の重さは、明らかに尋常ではない。たとえブーメランであったとしても、軌道を保つことなどできないはずだった。しかし、ブーメランは何事もないように空を切り、持ち主の手に収まった。
 無論、その持ち主は勝利を確信したはずの敵、マスクマンだった。かろうじて立ち上がってはいるが、肩で息をし、打ち込まれた毒が未だ効いているのが分かる。
 ただ、先程と違ったのは、仮面の眼が開かれ、爛々とした輝きを放っていることだった。
 楕円形の仮面の中ほどに現れた単眼が、マスクマンの精霊としての能力を発揮していると、姿なき精霊にも見て取れた。
「TL、TY、J(この雨、お前、が?)」
「MΘ1↓AΓ33。LΞ8↑VΠ21(オレはもともと雨と雲の精霊だ。多少力が落ちたってこのくらいのことはできる。この雨が降っている場所で、オレに見えないものはない!)」
 マスクマンが呼び集めた雲から降り続ける雨は、そのままマスクマンの視界としての機能さえ果たしていた。姿を消せても存在を消すことはできない。いま、マスクマンは相手の能力を上回る知覚で以って、ようやく敵と対峙していた。
「!」
 姿なき精霊は腰から吹き矢を取り出した。弓を破壊されてしまっては、他に武器はない。矢ですら落とされる重い豪雨の中で、吹き矢の威力もどれ程のものかと思うが、それでも何もないよりはマシだった。
 が、吹き矢を構えるよりも速く飛来するものに気付き、姿なき精霊は咄嗟に回避行動を取らされた。マスクマンの持っていた石斧が、規則正しい回転運動をしながら一直線に向かってきたのだ。避けなければ額を真っ二つにされていた。
 確実に目標を捉えての攻撃。マスクマンは相手の隠蔽能力を完全に破っていた。互いに敵を認識できる状況になったのなら、後は純粋な戦闘能力の勝負。マスクマンは敵の精霊を圧倒しつつあった。
 しかし、相手も黙って殺られるわけにはいかない。姿なき精霊は最後の抵抗として吹き矢を見舞おうとした。
 だが、筒に息を吹き込む直前、急激な痺れに襲われ、身体が硬直してしまった。かろうじて眼球だけは動かせたので、自分の足元を見ると、脛に羽の付いた針が刺さっていた。間違えるはずもない。それは吹き矢の筒に入っているものと同じ針だった。
 マスクマンはあえて避けやすく石斧を投擲し、気を取られた隙に自らに刺さっていた毒針を放っていたのだ。精霊にさえ作用する毒は、姿なき精霊の身体の自由も奪ってしまった。
「ZΦ9↓IΛ91(オレも……そろそろ限界だからな……使わせて……もらったぜ)」
 相手を倒すには至らなかったが、これで結城たちが追撃を受けることはない。足止めとしては上々と思いながら、マスクマンは再び地面に膝をついた。
 毒によるダメージにさらされながら、精霊としての能力を使ったため、さすがに疲弊が大きくなってしまった。敵の動きを封じたが、自身も結城たちに追いつくことはできなくなった。
「SΨ3→Z↓(結城、すまん……無事でいろ……よ……)」
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