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友宮の守護者編
奇襲・急襲
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針が刺さった箇所からじわじわと拡がる痺れによって、マスクマンは体の自由を奪われつつあった。かろうじて倒れるまでには至らないが、それでも健常時と比べれば、行動は著しく制限されてしまった。
何が起こったのか考えるまでもない。毒針を打ち込まれたのだ。それもただの毒ではなく、精霊の、依代から形成した擬似的な肉体にまで作用する毒。明らかに呪的処理が施されたものだ。普通の生物なら一撃で全ての神経を侵されていたかもしれない。
アテナ同様、全盛期とは比べ物にならないほどに力が落ちているマスクマンにとって、その毒の効果はあまりにも大き過ぎた。
だが、それよりもマスクマンには不可解なことがあった。
「WΞ4↓(なんで……矢が放たれた場所に……いねぇんだ……)」
「YT、FT、IU。S、TB、U。CC、IA。(お前も、飛び道具使う、わかってた。だから、仕掛け弓、使った。日本に来て、憶えた)」
「TΛ2→(仕掛け弓……だと!?)」
獲物が特定の場所を通る、あるいは一定の時間が過ぎれば発射されるブービートラップ。射手がいなくとも獲物に矢を射れるその方法を使われたならば、矢が飛来した方向を攻撃しても意味はない。薄暗さに閉ざされた森林の中で、姿なき精霊は気配を絶つ能力を最大限に活かしてマスクマンの裏をかいて見せたのだ。
「GΠ9↑。ZΦ66(やる……なぁ。オレが……ブーメランを外す……なんて……滅多にない……ぜ)」
「TX、GX。YG、PP、N。S、OJ、N(ここまで、入ってきた、お前たち、只者で、ない。だから、油断、しない)」
姿なき精霊は枝の上で弓に矢を番え、静かに弦を引き絞り、鏃をマスクマンの後頭部へと向けた。確実に止めを刺すために。
銃撃はシロガネとアテナによって防がれたが、その場にいる全員はより一層警戒を強めていた。やはり友宮側の侵入者対策はまだあった。先程の姿なき精霊だけではなかったのだ。それも、今度は銃を用いている。今までも結城たちは銃火器を所持した者を相手にする機会はあったが、近代戦の主力兵器である以上、甘く見ることはできない。人ならざる者も厄介だが、近代兵器もまた厄介であると、結城たちはよく知っている。
迂闊に動けば、敵の狙撃を受ける。結城たちは未だ姿を見せない狙撃手の出方を窺った。
意外にも状況はすぐに動いた。結城たちに向けられていた強烈な殺気が、少しずつ近付いてきたのだ。
前庭に据えられた何体もの彫像、うち一体の陰からその人物はゆっくりと姿を現し、芝生の感触を愉しむかのように一歩ずつ結城たちとの距離を詰めてきた。
「へぇ~、ホントに侵入してくるヤツがいるとはねぇ~。トモミヤのダンナの用心深さにゃ恐れ入るぜ」
その男は結城たちと二十メートルほどの距離で立ち止まった。黒のスーツに同色のホンブルグハットを被り、赤いネクタイを締めた男。右手には一丁のライフルが握られている。おそらくそれで狙撃してきたのだろう。
男は左手でポケットからライターを取り出すと、口にくわえていた葉巻に火を点けて煙を吹かし始めた。結城たちとは対照的に、あまりにも余裕な態度を取っている。
「さてと、悪いんだけどてめぇら……ここで死んでもらうぜ」
「それ、断ったら?」
「やっぱり死んでもらうぜ」
最も前面に出ていたシロガネと男の間で、鋭い殺気同士が火花を散らしてぶつかり合った。
何が起こったのか考えるまでもない。毒針を打ち込まれたのだ。それもただの毒ではなく、精霊の、依代から形成した擬似的な肉体にまで作用する毒。明らかに呪的処理が施されたものだ。普通の生物なら一撃で全ての神経を侵されていたかもしれない。
アテナ同様、全盛期とは比べ物にならないほどに力が落ちているマスクマンにとって、その毒の効果はあまりにも大き過ぎた。
だが、それよりもマスクマンには不可解なことがあった。
「WΞ4↓(なんで……矢が放たれた場所に……いねぇんだ……)」
「YT、FT、IU。S、TB、U。CC、IA。(お前も、飛び道具使う、わかってた。だから、仕掛け弓、使った。日本に来て、憶えた)」
「TΛ2→(仕掛け弓……だと!?)」
獲物が特定の場所を通る、あるいは一定の時間が過ぎれば発射されるブービートラップ。射手がいなくとも獲物に矢を射れるその方法を使われたならば、矢が飛来した方向を攻撃しても意味はない。薄暗さに閉ざされた森林の中で、姿なき精霊は気配を絶つ能力を最大限に活かしてマスクマンの裏をかいて見せたのだ。
「GΠ9↑。ZΦ66(やる……なぁ。オレが……ブーメランを外す……なんて……滅多にない……ぜ)」
「TX、GX。YG、PP、N。S、OJ、N(ここまで、入ってきた、お前たち、只者で、ない。だから、油断、しない)」
姿なき精霊は枝の上で弓に矢を番え、静かに弦を引き絞り、鏃をマスクマンの後頭部へと向けた。確実に止めを刺すために。
銃撃はシロガネとアテナによって防がれたが、その場にいる全員はより一層警戒を強めていた。やはり友宮側の侵入者対策はまだあった。先程の姿なき精霊だけではなかったのだ。それも、今度は銃を用いている。今までも結城たちは銃火器を所持した者を相手にする機会はあったが、近代戦の主力兵器である以上、甘く見ることはできない。人ならざる者も厄介だが、近代兵器もまた厄介であると、結城たちはよく知っている。
迂闊に動けば、敵の狙撃を受ける。結城たちは未だ姿を見せない狙撃手の出方を窺った。
意外にも状況はすぐに動いた。結城たちに向けられていた強烈な殺気が、少しずつ近付いてきたのだ。
前庭に据えられた何体もの彫像、うち一体の陰からその人物はゆっくりと姿を現し、芝生の感触を愉しむかのように一歩ずつ結城たちとの距離を詰めてきた。
「へぇ~、ホントに侵入してくるヤツがいるとはねぇ~。トモミヤのダンナの用心深さにゃ恐れ入るぜ」
その男は結城たちと二十メートルほどの距離で立ち止まった。黒のスーツに同色のホンブルグハットを被り、赤いネクタイを締めた男。右手には一丁のライフルが握られている。おそらくそれで狙撃してきたのだろう。
男は左手でポケットからライターを取り出すと、口にくわえていた葉巻に火を点けて煙を吹かし始めた。結城たちとは対照的に、あまりにも余裕な態度を取っている。
「さてと、悪いんだけどてめぇら……ここで死んでもらうぜ」
「それ、断ったら?」
「やっぱり死んでもらうぜ」
最も前面に出ていたシロガネと男の間で、鋭い殺気同士が火花を散らしてぶつかり合った。
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