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友宮の守護者編

龍脈の中へ

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 時は十七時三十分。陽が傾き、夜にさしかかる直前の時間。小林結城は刺松市の地下に掘られたトンネルを進んでいた。
 午前中にアテナや佐権院と話し合って決められた作戦に沿って、結城たちはまず友宮邸に向けて工事が進んだトンネルに入った。潜入メンバーは結城、媛寿、アテナ、マスクマン、シロガネ、佐権院、トオミ、そして友宮邸から脱出してきた犬神の虎丸だった。
 トンネルの施工を計画したアテナを先頭に、その後ろを結城たちが追いていく。まずは主だったメンバーで友宮邸に入り、神降ろしの儀式を阻止すべく行動する。もしも何かあった場合、佐権院が用意した『特別な』機動隊が友宮邸を包囲した上で対抗措置を取る。それが作戦の概要だった。
「ここですね」
 トンネルの施工図を見ながら進んでいたアテナが立ち止まった。辿り着いたのはトンネルの終端、アテナが工事の進捗に悩んでいた場所だった。
「では、ここが?」
「ええ。土地の力の流れ道、ニホンでリュウミャクと呼ばれているものが、このすぐ先に流れています」
 佐権院の質問に、アテナが静かに答えた。友宮邸に潜入するための唯一の道、虎丸が友宮邸を抜け出してきた龍脈が、土の壁一枚を隔てたところに在る。警察も媛寿もお手上げだった友宮邸へ入る確かな手段を、結城たちは回り道の果てにようやく手に入れたのだ。
「それじゃ媛寿、荷物を出して」
「おっけー」
 結城に促され、媛寿は赤い振袖の口に手を入れてまさぐった。そして何か手ごたえを感じると、袖口からそれを引き抜いた。結城がアテナとのトレーニングに使っている巨大な木刀だった。どう考えても媛寿の袖の中に収まりそうにない長さだが、媛寿は何でもないのように柄頭から切っ先までを引き抜き、結城に差し出した。
「はい、ゆうき」
「ありがとう、媛寿」
「エンジュ、次は私の武器をお願いします」
「はーい」
 媛寿は次から次へと袖の中から各人の愛用の武器を取り出して配った。アテナのアイギスと槍、マスクマンのブーメランと手斧、シロガネの日本刀とツヴァイハンダーなど、結城の木刀同様、絶対に袖の中に収まりきらない物ばかりだった。
 『ドルえもん』の中で『四次元袖の下』という『オトナの秘密道具』を入れておく収納庫が出てくるが、媛寿が真似をしていたら本当に色々な道具が仕舞えるようになってしまった。つい最近のことである。収納した道具がいったいどこに保管されているのか、未だ以って謎であるが、マンホールを通れない武器類をトンネル内に持ち込むには大いに役立ってくれる能力だった。
「皆、武器は行き渡りましたね? それでは―――」
「アテナ様、なるべく龍脈を刺激しすぎない程度でお願いします」
「ええ、分かっています。では、行きますよ」
 佐権院からの念押しもしっかりと受け取り、アテナは握った右拳を軽く引いた。一呼吸整え、文字通り神速の右ストレートが土壁にヒットした。だが、轟音を立てて破砕されるかと思いきや、壁は鈍い音を鳴らしただけで特に変化は見られなかった。破砕に失敗したわけではない。アテナが壁に当てた拳を引くと、打点から少しずつヒビが発生し、それはやがて非常に緩やかに壁を崩してしまった。あとには人一人分が通れるほどの穴がぽっかりと現れた。
「!?」
 穴の先は膝まで達しないくらいの水が流れる洞窟になっていたが、穴が穿たれた瞬間、結城は不思議な感覚に当てられた。とても澄み切った風のようなものが、穴から流れ込んできたように思えたからだ。しかし空気が揺らいでいるわけではなく、空気と比べれば重さを持っているようで、どちらかと言えば水の流れに近い。それも熱すぎることもなく、冷たすぎることもない、最も適温の湯の中にいるような気分だった。
(これがアテナ様や佐権院警視が言っていた龍脈を流れてる力ってことなのかな?)
 ある意味まどろんでいるような感覚を覚えつつ、アテナに続いて結城も龍脈に開けられた穴に入っていった。
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