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友宮の守護者編

人柱その2

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結城と九木は佐権院が取り出した一枚の写真に戦慄した。その中には野山を背景に佇む制服姿の少女が写っている。普通ならただの人物像を撮った写真だが、それが件の人物の娘と言われては驚かないわけにはいかない。
「こ、これが友宮の娘!?」
「け、警視、こんなのどこで!?」
「数年前に風の噂で聞いたのを思い出してね。友宮咆玄が後妻を迎え入れた、と。その後妻が東北出身だと聞いていたので調べに行ってきたんだ」
「もしかして東北への出張って……」
 会話の流れから上司の動きを察した九木に、佐権院はゆっくりと頷いて見せた。
「手がかりは少なかったが、意外にも特定は容易かった。友宮に嫁いだ人間というのはそれなりに語り草になっていたようでね。今回のことで友宮が使っている力は東北地方までは及んでいないことが分かった。そしてもう一つが……」
 佐権院は人差し指で写真をこんこんと軽く叩いた。東北で入手したもう一つの情報。それが写真に写る人物ということだ。
「小林くん。君が虎丸という犬神からの依頼で助けなければいけない人物とは、彼女のことではないかな?」
「そうです。人柱にされようとしている娘を助けてほしいというのが、虎丸からの依頼でした」
「やはりそうか」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ。小林くんも警視も、二人だけで納得しないで下さいよ。この娘が人柱にされようとしてるってのは分かりましたけど、さっきの人間を使って神を作るってのと何の関係があるんですか」
 二人のただならぬ雰囲気に割って入った九木に、佐権院は目だけを向けて言った。
「九木刑事。君も霊能者として重要なことを忘れていないかな。東北地方の出身。それも女性と言えば……」
「あっ!」
 佐権院が示した二つのキーワードに、九木もようやく事の全容を理解した。
「そうか、すっかり忘れてました」
 九木は写真を手に取って呟いた。
「この娘、イタコの家系なんですね」
 イタコとは東北地方の北部に伝わる巫女の一種。主に『口寄せ』と呼ばれる術を用い、現世にいる人間と死者の霊との交信を行う仲介人のような役職にある。占い師にも似た側面を持つが、霊力の強いイタコの家系は代々、術と霊力が継承され、一般人と比べて霊能力者になれる素養は高くなっている。
「そう。彼女の母、友宮房乃もイタコの術を継ぐ者だった。それもかなり強い力を有する家系であったらしい。ならば、その娘にもイタコとしても能力が備わっている」
「じゃあ、友宮がやろうとしていることって……」
「おそらく『口寄せ』を応用した『神降ろし』だろう」
 『神降ろし』とは通常、巫女が神託を得るために一時的に肉体を神に差出し、乗り移らせる儀式を指す。だが、様々な情報から見えた真相は、それだけではないことを三人に知らしめていた。
「友宮咆玄は友宮里美の『口寄せ』の能力によって、より強く神を引き寄せ、その肉体に神を固着させることによって家を守らせる守護神に仕立てるつもりだろう」
「娘の体を使ってそんな術を!? けど、それって……」
「一時的ではなく、永続的に肉体を神の器にしてしまうのだ。本人の精神は、掻き消えてしまうだろう」
「虎丸はそうなることを知っていました。そして、僕たちに助けを求めてきたんです」
 結城の言葉を最後に、しばらく三人は口を閉ざしてしまった。友宮の持つ正体不明の力の真実には近付いたが、それはあまりにも重く大きなものだった。友宮咆玄が完成させようとしている『口寄せ』による『神降ろし』、それによって作られる『人柱』。その内実に、三人はしばし沈黙するしかなかった。
「小林くん。アテナ様は……いや、君たちはここからどうするつもりかな?」
 ようやく口を開いたのは佐権院だった。今回の友宮邸調査の依頼をした者であり、警察側の動きも管理する人物である。調査を一任した結城たちの意見を聞いておく必要があった。
「虎丸やみんなとも相談して決めました。今夜、友宮邸に潜入します」
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