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友宮の守護者編

人柱その1

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結城たちがトンネル工事を始めてから四日目の朝。結城は谷崎町の一角にある古びた喫茶店に一人で座っていた。今日は他の四人は一緒ではなく、結城一人だけがボックス席で人を待っている。
 やがてドアベルが鳴り、待ち人が来た。古びた丸眼鏡をかけたビジネスマン風の男と、くたびれた帽子とトレンチコートを纏った男。佐権院と九木の二人だった。
「待たせたしまって済まない、小林くん」
「友宮のことで進展あったって本当かい?」
 足早にボックス席の対面に座った二人は、早速結城に本題を促した。
 用件は他でもない。友宮に関して重大な情報が入ったので、ここからの方針を伝え、意見を煽るためだ。そのために、昨日の最終便で東北から帰還した佐権院も同席してほしいと九木に話をつけておいたのだ。
「九木刑事、友宮家が犬神を使ってたって前に話しましたよね?」
「ああ、憶えてるよ。警視にもちゃんと報告した」
「私もそのことは聞いたが、犬神程度なら特段珍しいものではない。それなりの知識と霊能力があれば、作成も使役もできるものだ。だが、現在友宮で起こっていることは犬神程度で起こせる現象ではない」
 友宮は犬神を使うことで家を繁栄させたことをキュウから聞いた結城だったが、犬神の力は有用でも限界があるため、今回の一件に関わっている可能性は薄いという見解だった。九木から報告を受けた佐権院も、その事実にそれほど注視している様子はない。
「実は、その友宮家から来た犬神から依頼がありました」
「むっ!」
「なぬっ!?」
 結城が発した言葉に、二人は驚愕の反応を見せた。
「えっ? こ、小林くん? 友宮の犬神から依頼!? マジで?」
 驚きを隠せない九木は、言葉を切らせながら確認を取った。それに対し、結城はゆっくりと頷いた。
「詳しく聞かせたもらえないかな、小林くん?」
「はい。二日前の朝に、古屋敷の前にその犬神が来てまして―――」
 佐権院に促された結城は、ここ数日で知り得た全てを話し始めた。
 
 結城たちが虎丸を金毛稲荷神宮に預けた直後、キュウは虎丸が古屋敷を訪れた理由を聞いた。本当はすぐにでも依頼内容を伝えたかったのだが、意思疎通のできる者がいなかったので、機会を待つことにしていたらしい。キュウもまた元が獣であるので、虎丸の伝えんとしていることを理解できた。
 それによると、虎丸は友宮家で十八代目に作られた犬神だということだった。ほんの数年前までは普通の犬として暮らし、犬神作成の儀式によって実在の肉体を脱し、犬神となったという。友宮家のある人物に憑いていたのだが、その人物が友宮家で起こっている異変の渦中に晒されてしまっているので、結城たちに助けを求めに来たという次第だった。

「その友宮家で起こっている異変ってのが、オレたちも悩まされてる結界と関係あるってのかい?」
「どうやらそうみたいです」
「その虎丸という犬神は、友宮邸で何が起きているのか知っていたのだね?」
「はい。虎丸はそのあたりも話してくれました」
「聞かせてもらえるかな、小林くん?」
 結城は重たい口を開き、友宮家の事情を語った。
「友宮は犬神を使って家を繁栄させてきましたが、もう犬神の力では限界に来ていたらしいんです」
「犬神は標的を呪ったり、主の欲する物を盗ってくることはできるが、それ以上があるわけじゃないからな~」
「それで友宮咆玄は犬神以上の存在に家を守らせようとしました。人柱を使って」
 結城の口から『人柱』という単語を聞いた佐権院と九木は顔を強張らせた。
「ひ、人柱だって? いや、ちょっと待って。マジでそんなことやらかしたっての? 第一、人柱ってのは生贄の魂を建築物の補強に使うって奴で、あんな力が使えるわけじゃ……」
「なるほど、それなら得心がいく」
 混乱気味の九木と違い、佐権院は目を鋭く細め、真剣な表情を見せていた。
「九木刑事、友宮はもっと別の意味で人柱の儀式を行っているみたいなんです」
「へっ? けど人柱って言ったら大概は……」
「おそらく友宮は本当の意味での『柱』、つまり人間を使って家を守らせるための神を作るつもりでいる」
「人間を使って神を!? 警視、そんな術聞いたことないんですけど……」
 佐権院は胸ポケットから一枚の写真を取り出し、テーブルの真ん中に置いた。
「東北に行って調べがついた。友宮咆玄の娘、友宮里美。おそらくこの娘が鍵になっている」
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