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友宮の守護者編
車中の電話
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トンネルの工事現場に到着した結城だったが、アテナは作業をそれ以上続けることはなかった。施工図と睨み合った結果、少し作業工程の見直しが必要になったらしい。今夜中に資料を再検討して、明日改めて工事を再開するということで終了となった。
ひとまず九木を近場の病院に送り届けて、結城たちは帰路に着くことにした。千夏に精も根も吸い尽くされたことよりも、アテナから受けたゲンコツのダメージの方が大きかったのは皮肉なものだが。
「ところでアテナ様。九木刑事に使ったあの瓶の中身って、一体なんだったんですか?」
もはやミイラと化していた九木を蘇生させる際に、アテナが渋々ながら使った赤い液体が気になっていた結城は、助手席に座りながら訊ねてみた。
「あれは知り合いから譲り受けた品です。できればあまり使いたくはない代物ですね。ハデス叔父様に怒られてしまいますから」
「すごかったですね。あんな状態の九木刑事があっさり生き返ったんですから」
何かと職能を多く持ち、様々な人間離れした所業を見せ付けてきたアテナだったが、結城は今回特に神がかったものを見た気がしていた。
「クキの場合はまだ生きていたので、あの薬を使っても問題はありませんでした。問題になるのは死者に使ってしまった時です。なのでユウキ、今日はあなたに免じて特別に処方したまでですよ? 先程見たことは忘れるように。良いですね?」
「は、はい」
いつも通りの優しい口調ではあるが、どこか迫力のあるアテナの雰囲気に気圧されて、結城は少し背筋が寒くなった。アテナがこのような言い方をするということは、相当な大事と察したので、それ以上深くは聞かないことにした。
「ではトラマルを迎えに行って早々に屋敷に帰りましょう。今晩中に予定を修正しなければ」
「何か考え込んでたみたいですけど、工事で問題が出てきたんですか?」
「それほど大きな問題ではないのですが、いずれにしても修正を加える必要が―――」
アテナが話している最中、結城の懐から着信音が鳴った。結城がスマートフォンを取り出してみると、ディスプレイに相手側の番号は表示されていなかった。代わりにデフォルメされた狐のマスコットが飛び跳ねている。
「はい、もしもし」
結城には連絡してきた者に心当たりがあったので、それほど不審に思うことなく電話を取った。
「もしもし~、キュウです~。ご無沙汰です~」
語尾が間延びした女性の声がスマートフォンから聞こえてきた。案の定、電話の相手はキュウだった。
「ご無沙汰って、今日会ったばかりじゃないですか、キュウ様」
相変わらず掴みどころがないキュウの様子に、少々結城は呆れ気味になった。
「いいじゃないですか~。こう言っておけば~、また結城さんが~、神社に来てくれそうな気がするんですから~」
「ちょうどこれから向かうところですよ。それよりもどうしたんですか? わざわざ『誰でも電話』使って」
神様専用ダイレクト通信サービス、通称『誰でも電話』。神に属する者が特定の人物と早急に連絡を取りたい時、様々な通信の制限を省略して相手の端末に直接連絡を取り付けられるサービスのことである。アテナが連絡先の分からない九木に対して、九木の最も近くにあった固定電話に繋げられたのも、このサービスの恩恵によるものだった。本来、キュウは妖狐なので神ではないが、フランチャイズ神社を経営している特典として、特別に使用が許可されていた。
「できれば~、急いで来てほしいと思ったんです~。本日お預かりした~、犬神の虎丸さんが~、どうものっぴきならない事情を持ってるらしくて~」
「の、のっぴきならない?」
よくは分からないが、虎丸は古屋敷に来た以上、依頼者であることは明白だった。だが、寡黙な態度しか示していなかった虎丸が、そんなに急がなければいけない事情を持っていたとは結城には想像がつかなかった。
「虎丸さんの依頼は~、友宮家の人を~、助けてほしいってことみたいです~」
「なんですって!?」
電話口から予想だにしなかった名前が上がり、結城は声を張り上げた。
ひとまず九木を近場の病院に送り届けて、結城たちは帰路に着くことにした。千夏に精も根も吸い尽くされたことよりも、アテナから受けたゲンコツのダメージの方が大きかったのは皮肉なものだが。
「ところでアテナ様。九木刑事に使ったあの瓶の中身って、一体なんだったんですか?」
もはやミイラと化していた九木を蘇生させる際に、アテナが渋々ながら使った赤い液体が気になっていた結城は、助手席に座りながら訊ねてみた。
「あれは知り合いから譲り受けた品です。できればあまり使いたくはない代物ですね。ハデス叔父様に怒られてしまいますから」
「すごかったですね。あんな状態の九木刑事があっさり生き返ったんですから」
何かと職能を多く持ち、様々な人間離れした所業を見せ付けてきたアテナだったが、結城は今回特に神がかったものを見た気がしていた。
「クキの場合はまだ生きていたので、あの薬を使っても問題はありませんでした。問題になるのは死者に使ってしまった時です。なのでユウキ、今日はあなたに免じて特別に処方したまでですよ? 先程見たことは忘れるように。良いですね?」
「は、はい」
いつも通りの優しい口調ではあるが、どこか迫力のあるアテナの雰囲気に気圧されて、結城は少し背筋が寒くなった。アテナがこのような言い方をするということは、相当な大事と察したので、それ以上深くは聞かないことにした。
「ではトラマルを迎えに行って早々に屋敷に帰りましょう。今晩中に予定を修正しなければ」
「何か考え込んでたみたいですけど、工事で問題が出てきたんですか?」
「それほど大きな問題ではないのですが、いずれにしても修正を加える必要が―――」
アテナが話している最中、結城の懐から着信音が鳴った。結城がスマートフォンを取り出してみると、ディスプレイに相手側の番号は表示されていなかった。代わりにデフォルメされた狐のマスコットが飛び跳ねている。
「はい、もしもし」
結城には連絡してきた者に心当たりがあったので、それほど不審に思うことなく電話を取った。
「もしもし~、キュウです~。ご無沙汰です~」
語尾が間延びした女性の声がスマートフォンから聞こえてきた。案の定、電話の相手はキュウだった。
「ご無沙汰って、今日会ったばかりじゃないですか、キュウ様」
相変わらず掴みどころがないキュウの様子に、少々結城は呆れ気味になった。
「いいじゃないですか~。こう言っておけば~、また結城さんが~、神社に来てくれそうな気がするんですから~」
「ちょうどこれから向かうところですよ。それよりもどうしたんですか? わざわざ『誰でも電話』使って」
神様専用ダイレクト通信サービス、通称『誰でも電話』。神に属する者が特定の人物と早急に連絡を取りたい時、様々な通信の制限を省略して相手の端末に直接連絡を取り付けられるサービスのことである。アテナが連絡先の分からない九木に対して、九木の最も近くにあった固定電話に繋げられたのも、このサービスの恩恵によるものだった。本来、キュウは妖狐なので神ではないが、フランチャイズ神社を経営している特典として、特別に使用が許可されていた。
「できれば~、急いで来てほしいと思ったんです~。本日お預かりした~、犬神の虎丸さんが~、どうものっぴきならない事情を持ってるらしくて~」
「の、のっぴきならない?」
よくは分からないが、虎丸は古屋敷に来た以上、依頼者であることは明白だった。だが、寡黙な態度しか示していなかった虎丸が、そんなに急がなければいけない事情を持っていたとは結城には想像がつかなかった。
「虎丸さんの依頼は~、友宮家の人を~、助けてほしいってことみたいです~」
「なんですって!?」
電話口から予想だにしなかった名前が上がり、結城は声を張り上げた。
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