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友宮の守護者編
来訪……者!?
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翌日、結城は古屋敷まで続く山道をフラフラとおぼつかない足取りで歩いていた。目にはクマができており、掘削作業の筋肉痛と徹夜による疲労のダブルパンチで、心身ともに限界域に達している。
昨夜は本当に大変だった。アテナのマッサージを受けるか、媛寿とオールナイトでアニメを見るか、シロガネに18禁のオモチャで×××されてしまうかの三択を迫られてしまった。
結果として、結城はどれを選択することもなかった。全力疾走で古屋敷を飛び出し、そのまま山内へ逃走を図ったのだった。
もちろんそれで諦める女傑たちではなく、結城捕獲のための山狩りが行われた。まさに追い詰められた小動物になってしまった結城だったが、人間、限界まで追い込まれれば通常以上の能力が発揮されるもの。山の木々のごとく気配を殺し、即席のギリースーツで姿をくらまし、もはや神をも欺くカモフラージュによって三人の追撃を一晩やり過ごした。
いつ見つかってしまうかと肝を冷やしながら山林をイモムシのように移動していたら、いつの間にか夜が明けていた。辺りに誰の気配もなかったので、とりあえず結城は古屋敷に戻ることにした。逃げ回っている間は緊張で気にする暇もなかったが、少しでも安心してしまうと昨日の疲労と筋肉痛が一気に襲ってきてしまった。おまけに山を徹夜で逃げ回った分の疲労までのしかかり、今の結城は冗談にならないほどに体力の限界に近付いていた。
(マスクマンが逃げた理由が分かるな~)
山一つを舞台にした追いかけっこが展開されると予見していれば、巻き込まれたくないと思うのが人情だろう。と言っても、マスクマンは精霊だが。
とりあえずマスクマンへは後で抗議することにして、結城は古屋敷に戻って少しでも休んでおくことにした。アテナの考えた地下トンネルでの潜入はどうしても時間がかかるので、今日もトンネル工事を進めておかなければならない。わずかでもいいから休息して、朝食で体力を補填しなければ身が保たない。
頭も足取りもフラフラになりながら、結城はようやく古屋敷の前まで辿り着いた。
だが、屋敷の玄関先を見た結城は眉根を寄せた。寝不足で霞がかった視界に、見慣れないものが映り込んだからだ。
屋敷を囲む鉄柵の中。木製のドアの前に、赤みを帯びた茶色い物体が鎮座している。
目蓋をこすって再度確認してみると、パンパンに膨らんだ大型のゴミ袋ほどの大きさだと分かる。おまけに短い毛が生え、頂点には二つの尖った耳らしきものが付いている。
どうやら動物の後姿だということは判ったが、結城にはそれが何の動物かまでは判断できなかった。狐や狸にしては大き過ぎ、熊にしては耳の形が違う。そもそも谷崎町の山には危険な動物は猪が関の山で、古屋敷は驚天動地の強豪ぞろいなので、動物が近寄ることは滅多にない。
なのに屋敷の柵の内部に侵入し、ドアの前まで来ているその動物は何なのか。結城は思考がボンヤリしながらも、その珍しい状況に考えを巡らせていた。
「ようやく見つけましたよ、ユウキ」
「はうっ!」
不意に結城の頭が強力な握力で掴まれた。古屋敷の前でボンヤリしていたのが仇になってしまった。分かり易すぎる場所に立っていたせいで、アテナに頭部を鷲掴みにされてしまった。こうなっては、もう逃げられない。
「まさか一晩逃げ切るとは私も驚かされました。こんなことならアルテミスに山狩りのコツでも聞いておくべきでした。しかし私の見込んだ戦士が逃げの一手とはいただけませんね。これは戦士の心構えについても教授しなければ」
「おオヲっ……ア、アテナ様。あとでいくらでも聞きますから、ちょ、ちょっと握力を緩めて……」
「ムッ、結城、ここにいた」
「ゆうき、みっけ!」
アテナの握力で結城が悶えていると、草むらからシロガネと媛寿が姿を現した。
「結城、いよいよ覚悟」
シロガネは両手に持ったモザイク処理が必要な道具を掲げながらジリジリとにじり寄ってくる。
「ゆうき! いっしょにドラゴンボーイ……おっ!?」
媛寿もまだ一緒にアニメ視聴するのを諦めておらず、結城にせがもうとしたが、視界の端に捉えたものが気になり、素っ頓狂な声を上げた。
「おぉーっ!」
結城たちの横を風のように通り過ぎ、媛寿は古屋敷の玄関でわだかまっていた茶色い毛の動物に飛びついた。
「わんわん! わんわん!」
その動物の首にしがみつき、満面の笑みで頬擦りする媛寿。
いきなり飛びつかれ、騒ぎ立てられた動物もまた、結城たちと同じく何が起こったのか分からないという顔をしていた。
その時になって、屋敷の玄関先にいた動物が、異様に大きな体格を持った犬だと判明した。
昨夜は本当に大変だった。アテナのマッサージを受けるか、媛寿とオールナイトでアニメを見るか、シロガネに18禁のオモチャで×××されてしまうかの三択を迫られてしまった。
結果として、結城はどれを選択することもなかった。全力疾走で古屋敷を飛び出し、そのまま山内へ逃走を図ったのだった。
もちろんそれで諦める女傑たちではなく、結城捕獲のための山狩りが行われた。まさに追い詰められた小動物になってしまった結城だったが、人間、限界まで追い込まれれば通常以上の能力が発揮されるもの。山の木々のごとく気配を殺し、即席のギリースーツで姿をくらまし、もはや神をも欺くカモフラージュによって三人の追撃を一晩やり過ごした。
いつ見つかってしまうかと肝を冷やしながら山林をイモムシのように移動していたら、いつの間にか夜が明けていた。辺りに誰の気配もなかったので、とりあえず結城は古屋敷に戻ることにした。逃げ回っている間は緊張で気にする暇もなかったが、少しでも安心してしまうと昨日の疲労と筋肉痛が一気に襲ってきてしまった。おまけに山を徹夜で逃げ回った分の疲労までのしかかり、今の結城は冗談にならないほどに体力の限界に近付いていた。
(マスクマンが逃げた理由が分かるな~)
山一つを舞台にした追いかけっこが展開されると予見していれば、巻き込まれたくないと思うのが人情だろう。と言っても、マスクマンは精霊だが。
とりあえずマスクマンへは後で抗議することにして、結城は古屋敷に戻って少しでも休んでおくことにした。アテナの考えた地下トンネルでの潜入はどうしても時間がかかるので、今日もトンネル工事を進めておかなければならない。わずかでもいいから休息して、朝食で体力を補填しなければ身が保たない。
頭も足取りもフラフラになりながら、結城はようやく古屋敷の前まで辿り着いた。
だが、屋敷の玄関先を見た結城は眉根を寄せた。寝不足で霞がかった視界に、見慣れないものが映り込んだからだ。
屋敷を囲む鉄柵の中。木製のドアの前に、赤みを帯びた茶色い物体が鎮座している。
目蓋をこすって再度確認してみると、パンパンに膨らんだ大型のゴミ袋ほどの大きさだと分かる。おまけに短い毛が生え、頂点には二つの尖った耳らしきものが付いている。
どうやら動物の後姿だということは判ったが、結城にはそれが何の動物かまでは判断できなかった。狐や狸にしては大き過ぎ、熊にしては耳の形が違う。そもそも谷崎町の山には危険な動物は猪が関の山で、古屋敷は驚天動地の強豪ぞろいなので、動物が近寄ることは滅多にない。
なのに屋敷の柵の内部に侵入し、ドアの前まで来ているその動物は何なのか。結城は思考がボンヤリしながらも、その珍しい状況に考えを巡らせていた。
「ようやく見つけましたよ、ユウキ」
「はうっ!」
不意に結城の頭が強力な握力で掴まれた。古屋敷の前でボンヤリしていたのが仇になってしまった。分かり易すぎる場所に立っていたせいで、アテナに頭部を鷲掴みにされてしまった。こうなっては、もう逃げられない。
「まさか一晩逃げ切るとは私も驚かされました。こんなことならアルテミスに山狩りのコツでも聞いておくべきでした。しかし私の見込んだ戦士が逃げの一手とはいただけませんね。これは戦士の心構えについても教授しなければ」
「おオヲっ……ア、アテナ様。あとでいくらでも聞きますから、ちょ、ちょっと握力を緩めて……」
「ムッ、結城、ここにいた」
「ゆうき、みっけ!」
アテナの握力で結城が悶えていると、草むらからシロガネと媛寿が姿を現した。
「結城、いよいよ覚悟」
シロガネは両手に持ったモザイク処理が必要な道具を掲げながらジリジリとにじり寄ってくる。
「ゆうき! いっしょにドラゴンボーイ……おっ!?」
媛寿もまだ一緒にアニメ視聴するのを諦めておらず、結城にせがもうとしたが、視界の端に捉えたものが気になり、素っ頓狂な声を上げた。
「おぉーっ!」
結城たちの横を風のように通り過ぎ、媛寿は古屋敷の玄関でわだかまっていた茶色い毛の動物に飛びついた。
「わんわん! わんわん!」
その動物の首にしがみつき、満面の笑みで頬擦りする媛寿。
いきなり飛びつかれ、騒ぎ立てられた動物もまた、結城たちと同じく何が起こったのか分からないという顔をしていた。
その時になって、屋敷の玄関先にいた動物が、異様に大きな体格を持った犬だと判明した。
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❇❇❇❇❇❇❇❇❇
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