小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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友宮の守護者編

作戦その1

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結城と媛寿は先に丘を下り、一路、友宮邸へと向かっていた。
 依頼されたのは友宮が持っていると思われる『情報を阻害する何かの除去』ということなので、まず友宮邸への潜入が絶対条件となってくる。
 そこで効果を発揮するのが座敷童子たる媛寿の能力だった。座敷童子は『家』に自由に出入りできる。そうでなければ座敷童子として家に憑くことができないので、どのような門戸であろうと素通りして訪問が可能だった。
 警察や佐権院たちのような霊能者では潜入できない場所でも、媛寿にかかれば苦もなく気配もなく入れるので、結城はまず彼女の能力にあやかることにした。
 ちなみに同じような能力を持つ妖怪でぬらりひょんという者がいるが、そのことを結城が指摘した時、媛寿はちょっと微妙な顔をしていた。会ったことはないと言っていたが、少しばかりイメージが悪かったのかもしれない。
「たらったった~♪ たららったった~♪」
 そういうわけで結城は媛寿を肩車して友宮邸の周辺までやってきたわけだが、やはりあまり気乗りしない。逆に媛寿はといえば、すっかりご機嫌な様子でメロディーを口ずさんでいる。選曲はもちろん、世界的大泥棒の三代目のテーマである。気分はもう大怪盗というところか。
「? ゆうき、元気ない?」
「う、うん? いや、そんなことはないんだけど、正直泥棒みたいなことするのはやっぱりいい気分じゃないっていうか、何ていうか……」
 座敷童子である媛寿が一緒にいてくれるとはいえ、やはり他人の家に勝手に上がり込むのは、結城の心を罪悪感がチクチクと刺激してくる。以前の依頼で病院に入る時も同様の方法はやってのけたが、それはまだ公共施設であっただけ、まだ気が重くなかった。
「ゆうきはえんじゅと一緒にえんじゅのべっそうに行くの。だいじょーぶだいじょーぶ」
 結城の頭頂にコツンと顎を乗せながら、媛寿はあくまでマイペースに言った。座敷童子からすれば、人の家はどこも自分の別荘のような感覚なのかもしれない。
「……分かったよ。じゃあ媛寿の別荘にお邪魔させてもらうとするよ」
「ごー! ごー!」
 媛寿の助言で気分が軽くなってきた頃、二人は友宮邸の前に到着した。
 丘の上からでも目立っていたが、目の前に立つと友宮邸はかなりのスケールがあった。左右対称に造られた巨大な立方体を思わせる建築物は、写真やテレビで見たホワイトハウスに近い印象を受ける。星条旗が屋根に刺さっていれば、まさに間違えそうなほど荘厳だった。前面には学校のグラウンドほどの広い庭があり、手入れされた芝生が整然と敷かれている。
 その巨大な邸宅と広大な庭を、結城と媛寿は炎のような意匠を施された金属製の門の隙間から垣間見ていた。
「でっかいな~」
「でっか~い」
 そびえ立つ友宮邸の威容に、結城と媛寿はしばし圧倒されたが、すぐに本来の目的を思い出した。
「っと、こうしている場合じゃなかった。媛寿、行ける?」
「だいじょ~ぶ~」
 媛寿の力で姿が見えなくなっているとはいえ、あまり他人の家の玄関で長居していれば後ろめたさも出てきてしまう。たった一日で依頼が解決するとも思えないが、とりあえず内部に潜入するべく、結城は門に手を置いた。
「ん? あれ?」
 結城は門を手で押すが、いつもと違う特異な現象に目を疑った。
 門が開かない。
「どしたの、ゆうき?」
「開かない」
 本来なら、媛寿の力が作用していれば、鍵が掛かっていようとも手で押せばすんなり門が開くはず、だった。これまで結城は何度も経験してきている。それが開かないとなれば、明らかに異常な事態と言わざるを得ない。
「そんなはずないない」
「媛寿、もしかして調子悪いとか?」
「そんなことないもん」
「ビックバックバーガー食べて胃もたれしてるとか?」
「そんなことないもん! えんじゅ、あと二つは食べられるもん!」
 予想外のことを言われて心外に思ったのか、媛寿は結城の肩からヒョイと飛び降りた。そのままスタスタと門の前に歩いていき、両掌をペタっと門に当てる。
「じゃあ、えんじゅが行ってくる! ゆうきはそこで待ってて!」
 結城に対してピシリと宣言してから、媛寿は門に当てた手に力を込めた。
 だが、十秒が過ぎ、三十秒が過ぎ、一分が経過しても、媛寿は両掌を門に当てたまま、ポーズが変わらなかった。次第に媛寿の顔にジト汗が浮かんできているのが見て取れる。
「ゆうき、どうしよ……」
 媛寿自身も驚きを隠せないのか、目を大きく見開いたまま結城に向き直った。
「このおうち、はいれない……」
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