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九月に書いた短編
さみしい。3
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ぼーっとした顔でソファに座るリヒト。
その湿った髪をドライヤーで乾かしてやりながら、さて飯はどうするかと考えていた。
時間は深夜。散歩がてらコンビニまで行くのもいいかなとは思うけれど、そもそも俺が着ていく服がほとんどない。いや、真冬に着るような厚手のものならあるが、まだそれを着込むような時期でもない。
何より、と視線をリヒトに移す。
「ユーリ……ん……」
さっきまでの行為で、リヒトの顔は全く締まりがなくなっている。こんな惚けた表情を俺以外に見せるなんて我慢ならない。
「髪、乾いた……?」
「んー、もうちょいかな」
ふわふわと手触りのいい髪を撫でるようにすれば、リヒトはくすぐったそうに笑い声を上げて、こてんと背もたれに身体を預けてきた。ドライヤーのスイッチを切って、その薄く染まった唇に軽く口づけてやる。
その際、俺の髪から落ちた水滴がリヒトにかかったのか「冷たい」と少し口を尖らせた。
「ごめんね。俺もすぐ乾かすから」
「ん……」
リヒトの頬を軽く撫でて、自分の髪を乾かし始める。視界の端でリヒトがうつらうつらと船を漕ぐのが見え、俺は手早く髪を乾かし終えると「リヒト」とドライヤーを適当に置いてからリヒトを抱き上げた。
「眠い?」
「……別に」
そう言う口とは反対に、目は既に閉じているし、なんなら胸も規則正しく上下している。
「ね、リヒト。あのさ」
「……ごめん」
ぽつりと囁くようにして聞こえたそれに、俺も「ううん」と返して、リヒトのふわふわした髪に頬を寄せた。
「俺もごめんね。リヒトの意思を尊重したくないわけじゃないんだけど……」
もし外で、俺が見てない間に何かあったら?
そんな不安がいつも付き纏って、ならいっそのことリヒトを部屋に繋いでおけば、とも考えてしまう。そんなこと、もうしなくたっていいはずなのに。
「僕を、閉じ込めておきたいか……?」
「……」
否定も肯定も出来ず、俺はリヒトを抱き上げる腕に力を込めた。リヒトの髪から同じシャンプーの香りがして、それは俺を安心させると同時に、酷く胸を締め付ける。
「……二年だけ」
すり、とリヒトが身体を擦り寄せてきた。
「せめて、お前が卒業するまでは働かせろ。学生とニートじゃ笑い話にもならないだろ?」
「そんなことしなくたって、リヒトくらい養えるけど」
「お前なぁ……」
甘えるように、リヒトが俺の首に小さく噛みついた。チリッとした痛みが走るけれど、俺はそれを咎めはしない。
「僕の全部、お前にやるって言っただろう? だったら、お前の全部も僕にくれよ。そのための準備期間ぐらい必要だ」
「それってプロポーズ?」
「さぁ。好きに受け取ればいい」
「好きにって……」
それ以上を聞こうにも、力の抜けたリヒトから寝息が聞こえてきては仕方がない。俺はリヒトを抱えたまま寝室に戻って、その細い身体を横たえた。
「あーあ。また隈なんて作っちゃって」
目元を軽く指先で撫でる。
出会った頃ほどではないが、うっすらと隈が出来上がりかけているのが少しだけ嬉しい。俺がいないと駄目だという事実を、実感出来る気がして。
「……もっと大きいとこに引っ越そうかな」
リヒトがずっと家にいても、不自由がないくらいの、大きな箱の用意を。
「なーんて。ね、リヒト。俺は最初から君に、全部あげてるつもりだったんだけどな」
俺もリヒトの隣に横たわる。
絡ませてきた暖かい足に答えるよう、俺もリヒトの身体に腕を回して。
その湿った髪をドライヤーで乾かしてやりながら、さて飯はどうするかと考えていた。
時間は深夜。散歩がてらコンビニまで行くのもいいかなとは思うけれど、そもそも俺が着ていく服がほとんどない。いや、真冬に着るような厚手のものならあるが、まだそれを着込むような時期でもない。
何より、と視線をリヒトに移す。
「ユーリ……ん……」
さっきまでの行為で、リヒトの顔は全く締まりがなくなっている。こんな惚けた表情を俺以外に見せるなんて我慢ならない。
「髪、乾いた……?」
「んー、もうちょいかな」
ふわふわと手触りのいい髪を撫でるようにすれば、リヒトはくすぐったそうに笑い声を上げて、こてんと背もたれに身体を預けてきた。ドライヤーのスイッチを切って、その薄く染まった唇に軽く口づけてやる。
その際、俺の髪から落ちた水滴がリヒトにかかったのか「冷たい」と少し口を尖らせた。
「ごめんね。俺もすぐ乾かすから」
「ん……」
リヒトの頬を軽く撫でて、自分の髪を乾かし始める。視界の端でリヒトがうつらうつらと船を漕ぐのが見え、俺は手早く髪を乾かし終えると「リヒト」とドライヤーを適当に置いてからリヒトを抱き上げた。
「眠い?」
「……別に」
そう言う口とは反対に、目は既に閉じているし、なんなら胸も規則正しく上下している。
「ね、リヒト。あのさ」
「……ごめん」
ぽつりと囁くようにして聞こえたそれに、俺も「ううん」と返して、リヒトのふわふわした髪に頬を寄せた。
「俺もごめんね。リヒトの意思を尊重したくないわけじゃないんだけど……」
もし外で、俺が見てない間に何かあったら?
そんな不安がいつも付き纏って、ならいっそのことリヒトを部屋に繋いでおけば、とも考えてしまう。そんなこと、もうしなくたっていいはずなのに。
「僕を、閉じ込めておきたいか……?」
「……」
否定も肯定も出来ず、俺はリヒトを抱き上げる腕に力を込めた。リヒトの髪から同じシャンプーの香りがして、それは俺を安心させると同時に、酷く胸を締め付ける。
「……二年だけ」
すり、とリヒトが身体を擦り寄せてきた。
「せめて、お前が卒業するまでは働かせろ。学生とニートじゃ笑い話にもならないだろ?」
「そんなことしなくたって、リヒトくらい養えるけど」
「お前なぁ……」
甘えるように、リヒトが俺の首に小さく噛みついた。チリッとした痛みが走るけれど、俺はそれを咎めはしない。
「僕の全部、お前にやるって言っただろう? だったら、お前の全部も僕にくれよ。そのための準備期間ぐらい必要だ」
「それってプロポーズ?」
「さぁ。好きに受け取ればいい」
「好きにって……」
それ以上を聞こうにも、力の抜けたリヒトから寝息が聞こえてきては仕方がない。俺はリヒトを抱えたまま寝室に戻って、その細い身体を横たえた。
「あーあ。また隈なんて作っちゃって」
目元を軽く指先で撫でる。
出会った頃ほどではないが、うっすらと隈が出来上がりかけているのが少しだけ嬉しい。俺がいないと駄目だという事実を、実感出来る気がして。
「……もっと大きいとこに引っ越そうかな」
リヒトがずっと家にいても、不自由がないくらいの、大きな箱の用意を。
「なーんて。ね、リヒト。俺は最初から君に、全部あげてるつもりだったんだけどな」
俺もリヒトの隣に横たわる。
絡ませてきた暖かい足に答えるよう、俺もリヒトの身体に腕を回して。
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