【本編完結済】前世の英雄(ストーカー)が今世でも後輩(ストーカー)な件。

とかげになりたい僕

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六月に書いた短編

温泉3

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 庭園には表とは別に出入口があって、そこから裏手の通りに出れるようになっていた。
 その通りは、明治時代を思い起こさせるような造りの建物がずらりと並んでいて、その軒先では色んな物が売られていた。
 その賑やかな通りを、ユーリと並んで歩く。もちろん、僕の機嫌は相当悪い。

「リヒト」
「……」
「リーヒト」

 名前を呼びながら顔を覗き込まれたけれど、僕はわざとらしく顔ごと背けた。

「機嫌直して?」
「別に怒ってない」
「でも拗ねてるでしょ?」
「わかってるなら、なんで……」

 なんで、欲しいものをくれないんだ、とは流石に言えなかった。
 ユーリはそれもわかった上で「だって」と絡めた手を口元まで上げて、僕の指に軽く唇を寄せた。

「二人で、ここを歩きたくてさ」

 なら最初から期待させるなよ、の言葉を飲み込んで、代わりに僕は「ふん」と鼻を鳴らし、絡めた手を振り払ってやった。
 この通りは、ここら一帯の宿泊客しか来れないようになっているらしい。だから連休だというのに、人が思ったよりも少ないのだと聞いた。
 鮎の塩焼きを焼いてる店、薩摩揚げの店、りんご飴を売っている店。ちょうどお昼の時間も重なって、どれも美味しそうに見える。

「ふふ、懐かしいね」
「何が?」
「火の光差す国、覚えてる?」
「あぁ、うん」

 それは前世の国のひとつ。
 日本に近い見た目のその国は“火の光差す国”と呼ばれ、一番空に近い場所にあった。
 それはまだ、ユーリと溝があった時期のことで、そこでもボクはユーリと会ったわけなんだけど――


※※※


「あ、お金……」

 しまった、と思った。
 人間社会には通貨があったことを、すっかり失念していた。
 通過を持たなくなってもうすぐ三百年半。今、流通している通貨が何かすらも知らないし、なんなら物を買うのも久しぶりだ。

「なんだぃ、なんだぃ。お客さん、金ないのかぃ?」

 そう言って男は、ボクを訝しむように、下から舐めるように見てきた。
 ここらでは珍しい真っ白なコート、それから黒のシャツとズボン。どう見てもここいらの人間でないのは明白だ。いや、そもそもボクは人間ではないのだけど。
 店先にあった、ベッコウ飴がとても綺麗だったから、その色があいつに似ていたから、いいなと思っただけなのに。

「金がないなら帰んな」
「……」

 別に大して欲しくはなかったし。
 まぁ、片手で男ごと捻り潰してもよかったのだけど、目立つのは嫌だったし。
 被っていたフードを深く被り直して、店を後にしようとした時だった。

「う、わ……っ」

 振り返ったボクは、そびえ立つ壁にぶつかった。
 いや、壁じゃない。人間だ。後ろに立っていた人間の胸板に、ぶつかったのだ。ボクの背後を取れるなんて、一人しか思い浮かばない。

「お前……」

 案の定、にやりと笑うユーリの姿が見えて、ボクは小さくため息をついた。ユーリはボクが呆れるのにも構わず、腰に下げた小袋から金貨を二枚取り出すと、男にずいと突き出した。

「おじさん、それふたつちょーだい? これ代金」
「あ、貴方は魔王討滅の旅に出ている……。そんなかたから代金なんて受け取れません!」
「いいから。無賃なんて逆に食べづらいしさ」

 半ば無理やり金貨を机に置いて、ユーリはベッコウ飴を二つ手に取った。

「はい、これ」

 ひとつをボクに差し出してくるが、大人しくそれを受け取る気にはなれない。

「……別に、欲しいなんて言ってない」
「じゃ、なんで買おうとしたの? 食べなくても平気なはずだよね?」

 人混みの中、ユーリを撒くように適当に歩く。なのにこいつはぴったりとくっついてきて、しつこくベッコウ飴を渡そうとしてくる。

「折角買ったんだから、受け取ってよー」
「いらない。自分で二個食べればいい」
「二人で食べようよ」

 何が楽しくて人間と、しかも宿敵と仲良く飴を舐めなければいけないのか。さらに言えば代金まで払われる始末だ。大失態も大失態である。

「なぁんだ。これ、リヒトの目みたいで綺麗だと思ったんだけどなぁ」
「……」

 そんなわけがない。
 ボクの目が、そんな透き通った綺麗な黄金のわけがない。
 だからユーリが持つ片方を強引に奪って、バキッと力いっぱいに噛み砕いてやった。

「わぁ、大胆」

 ゴリッと音がして、口の中が甘ったるくなっていく。こんな優しい味が、ボクなわけ、ない。

「これで満足だろ。ボクはもう帰る」
「あれ? 特に用はなかったんだ?」
「……別に、ない」

 足元に闇を作る。その闇に溶け込むように目を閉じれば、次に見えたのは、ボクたちの居城だった――


※※※


 苦い思い出だな、と振り返る。思えば僕は、もうあの時から、ううん、きっとユーリと初めて会った時から、ユーリを好きになってしまったのだと思う。

「あ、ベッコウ飴。リヒト、買ってあげよっか?」

 立ち並ぶ店の中、少し古臭い駄菓子屋の店先で、あの時と変わらない色のベッコウ飴が置いてあった。

「別に、欲しくなんて……」
「すいません、これ二つください」

 僕の言うことなんて聞きもせず、ユーリは代金を支払って「はい」とひとつ差し出してきた。

「……りがと」

 おずおずと受け取れば、ユーリは「うん」と心底嬉しそうに笑って、飴を口に含んだ。習って僕も舌先で少しだけ舐めてみる。
 甘い。やっぱりこの味は、僕なんかじゃない。
 今なら言えるかな。あの時言えなかった言葉と気持ちを、素直に伝えられるだろうか。

「あの、ユーリ」
「んー?」
「……あの、その、えっと」

 駄目だな。やっぱりどこかで恥ずかしさのほうが勝ってしまって、言えそうにもない。だから僕はまた飴を小さく舐めて「……美味しい」とだけ言った。

「ん」

 そう笑ったユーリは、たぶん、全部、わかってくれている気がした。
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